第百六十話:エルフの里を超えて
野営を繰り返し、ひとまず例のエルフの里のそばまでやってきた。
このメンバーで野営をしたのは初めてではあるけど、なんというかまあ、楽だった。
アリスはキャラ的に経験豊富だったというのもあるだろうけど、まるで今まで何度もやってきたかのような安心感があった。
そのあたりも設定が反映されているんだろうか? いや、だとしてもアリスとシリウス達が会ったのはほんの最近だったと思うけど……。
まあ、楽しいからいいけどね。サクラが加わったらより楽しくなることだろう。早くみんなで冒険したいところだ。
「で、ここが結界のある場所?」
「ああ。あそこにあるだろ?」
そう言って、シリウスはとある一点を指さす。しかし、俺にはそこに何かあるようには見えなかった。
まあ、俺は今のところ【エレメンタルアイ】は覚えていないから当然だけど、確かNPCスキルの中に似たようなスキルがあったような?
どっちにしろ取ってないから見えないわけだけど。
「何も見えないの」
「ですよね。私もわかりません」
「やっぱりこの目のおかげか? スキルってすげぇな」
シリウスに【エレメンタルアイ】を覚えさせたのは仕方なくだったけど、自分だけが見えるのが面白いのかシリウスは割と得意げだ。
多分、結界の中でも不可視の結界だろう。あるいは、認識を誤認させる類の結界だと思う。
どちらかというと、後者かな? ただ見えないだけだったら偶然入り込むこともありそうだし。
「結晶花があったのはあそこですね」
「確かにちょっと生えてるの」
カインが指さす先には確かに結晶花があった。
木に隠れるようにひっそりと生えているから、あんまり気づかなそうだけど、よく見つけたものだ。
俺の予想だと、エルフの里内部にはもっとありそうな予感がするんだけど、まあそこまでして確認したいわけでもない。
サクラが見つかれば必然的に見ることになりそうだし、そこで確認すればいいだろう。
ホムンクルスの素材を集めるってだけなら、今持っているピュアクリスタルだけでも事足りるっちゃ事足りるし。
いや、どっちにしろ聖水が欲しいか。入れるといいけど。
「寄ってくか?」
「いや、いいの。手紙で指示は貰ってるし、わざわざお伺いを立てる必要もないの」
俺の目的はサクラを見つけることであって、この里の要求を飲みたいわけではない。
言っちゃ悪いけど、目的地を示した時点で彼らの役目は終わっている。
まあ、これで情報が嘘だったというならまた手紙を送る必要もあるだろうけどね。そうなったらこちらとしても少しお灸をすえてやりたいところだけど。
「にしても、なんでこの里のエルフ達はサクラを目の敵にしてるんだ?」
「さあ? 若いエルフが上に立つっていうのが気に入らないんじゃないの?」
「まあ、そりゃそうだろうけど、同じエルフの里って言ったって別の里だろ? ほっときゃいいんじゃねぇか?」
「まあ、確かに」
里にはその里なりのルールがあると思うんだけど、そのルールを他の里に持ち込むのはどうなんだろう。
里とは言ってるけど、エルフにとっては国も同然だろうし、わざわざ突っ込む理由もない気がするけど。
それとも、今のエルフの里は元は一つで、その時の風習が残っているから、大体同じ考えを持ってるってことかな?
いや、でも、その考えに賛同できないエルフがいるから外に出てる奴もいるんだろうし、全員が全員そう思ってるわけでもなさそう。
結局は、年を経たお年寄りの我儘って感じがする。サクラも面倒なのに目を付けられたね。
「エルフとしては見逃せないことなんでしょう。でも、ちょうどいいのではないですか?」
「なにが?」
「サクラが上に立つのがふさわしくないというなら、そのまま身を引いてもらえばいいです。サクラだって、わざわざ女王になんてなりたくないでしょうし」
まあ、それは確かに。
仮にサクラが何らかの理由で女王になってしまっているとしても、サクラ自身がそれを望んでいるかと言われたら微妙なところだ。
サクラはどちらかというと引っ込み思案な方だし、上に立つような人じゃない。まあ、ちょっとしたうっかりでミラクルを起こすことは多々あるけど、それを望んでいるかと言われたらそう言うわけでもないだろう。
サクラが上に立つのが気に入らないというなら、降りてもらえばいいだけの話だ。
まあ、それで話が済むんだったら楽だけど、絶対うまくはいかないだろうな。
「サクラを慕ってるエルフが納得しない気がするの」
「ですよね。まあ、そこはうまく説得するしかないでしょう」
「できるかねぇ。なんかこじれそうだ」
果たしてサクラの何に魅力を感じて女王としたのか。
サクラは顔もいいし、戦闘力もある。それに、ついうっかりで事態を好転させるのが得意だ。
上に立ってもらいたいと思う要素はいくつかある。
まあ、全部って可能性もあるけど、そこらへんは聞いてみないとわからないよな。
「まあ、とりあえず説得できるならして、そうでないならサクラに何とかしてもらうの」
「サクラの言うことなら多少は聞くか?」
「そうだと助かるの」
さて、いつまでもここにいるわけにもいかないし、進むとしよう。
俺は再びカインを担ぐと、結界の前を後にする。
それにしても、何もしてこなかったな。
俺という見慣れぬ人がいたのだから、もしかしたら何かしら言ってくるかもしれないと思ったけど、そう言うわけでもないようだ。
興味がないのか、それとも面倒なだけか。下手にちょっかいかけられないだけましだけど、なんか張り合いないな。
「ここから先は行ったことがない。もしかしたら、少し時間がかかるかも」
「まあ、それは仕方ないの」
森の中の道なき道を進むのだから時間がかかるのは仕方ない。
ここまでくるにも魔物はたくさんいたし、しばらくは森の中での生活が続くかもしれないね。
お風呂が恋しい。最近城に籠ってたからお風呂には事欠かなかったけど、久しぶりの風呂なし生活が堪える。
やっぱりどうにかして出先でも風呂を用意できる何かを考えるべきだろうか。そんなスキルあったかなぁ……。
「アリスって意外と綺麗好きだよな」
「そうなの?」
「ああ。いや、気持ちはわかるんだが」
「そこらへんは設定の影響もあるんでしょうね」
そんなに綺麗好きだっただろうか。どちらかというと、泥にまみれてもそんなに気にしないような性格だった気がするけど……。
というか、そう言う設定があるからこそ、俺はこうして風呂なし生活が長く続いても耐えられるわけで、綺麗好きっていうのはむしろ中の人である俺の感性だと思うんだけどな。
二人もそんな感じなのかもしれない。冒険者として多少の汚れは気にしない。でも、日本人としてはお風呂に入りたい。そんな感情が強いんだと思う。
「さっさと済ませてお風呂入りたいの」
「そうだな」
「間違えて男湯に入らないようにしてくださいね」
「うっ……」
人が気にしていることを……。
城では王様専用の風呂があるから気にしないで済むけど、いずれはその問題にぶち当たるんだろうなぁ。
宿では貸しきりにするとか、そう言う手段が取れないこともないけど、全部それで済ませるわけにはいかないだろうし、そのうち女湯にも入らないといけないかもしれない。
その時はせめてサクラを巻き込んでやる。俺だけそんな微妙な気持ちで入るなんて嫌だし。
そんなことを考えながら、道なき道を歩いていった。
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