第百五十八話:エルフの里へ出発
翌日。ナボリスさんを無事に説得し、俺達は手紙の情報を頼りに、リーリス王国へと向かうことになった。
少し調べてみたが、リーリス王国は先日の戦争でサラエット連合に加盟していた国の一つらしい。
ただ、距離が離れすぎていたため、直接的な兵の派遣などはせず、食料などの物資の支援のみを行っていたようだ。
まあ、どっちにしても連合に加盟していたことは確かなので、ヘスティア王国とは多少の確執があるが、賠償金のほとんどはサラエット王国が負担したし、リーリス王国への負担はそこまで大きくはなかっただろう。
元々、ヘスティア王国と隣り合っていたわけでもなく、ただヘスティア王国の傲慢なやり方が気に入らないからと協力していただけらしいので、不可侵条約が結ばれた今、そこまで恨まれることもないはずだ。
まあ、何が起こるかわからないから、できる限り顔は晒さないつもりで行くけどね。
「それにしても、馬車より早く走れるって人間じゃないよな」
「シリウスは今は人間じゃないの」
「うっせ。そう言う意味じゃねぇよ」
レベルアップの影響で、シリウスもカインも敏捷の値は結構上昇している。
元々、ボーナスがなくても一定数は上昇するのがステータスだから、レベルが高ければ高いほど能力値が高いのは当たり前だ。
で、そんな二人の敏捷は、この世界の人と比べると圧倒的に速い。それこそ、馬車よりも速く走れる。
敏捷に特化していなくてもこれなのだから、もっとレベルが上がって行ったらそれこそ化け物だよね。
「私が足を引っ張ってますよね。すいません」
「気にする必要はないの。これが普通なの」
【マシンボディ】の影響で敏捷が上昇しているシリウスはともかく、カインはタンク役としてあまり敏捷には振っていない。
そりゃ、普通の人よりはよっぽど早く走れるけど、俺やシリウスと比べるとちょっと見劣りするレベルだ。
走るならカインに合わせて走るべきなんだろうけど、それだとまだまだ時間はかかりそうなので、今回は俺がカインを抱えて運ぶことになった。
これならば、シリウスの速度に合わせて走れるし、時間も短縮できる。
まあ、あんまり早く走って道をダメにしてもいけないのでほどほどにだが。
「アリスなんか嬉しそうだよな」
「そ、そんなことないの」
「ま、カインのこと好きだもんな、お前」
「うるさいの」
シリウスに指摘されて頬が赤くなる。
そりゃだって、アリスがこのパーティについて行った理由は、後輩の面倒を見るためというのもあるけど、単純に顔が気に入ったからというのもある。
面食いなアリスが生涯を捧げてもいいと思うほどの相手。それがこのパーティのメンバーなのだ。
特にカインはアリスのことを尊敬しているし、好感度も高い。そんな人を抱えて走れるのだから、ドキドキするのも仕方ないだろう。
これはアリスの感情であって、決して俺の感情ではないからな! 勘違いするなよ!
「あはは、お世辞でも嬉しいですよ」
「お、お世辞ってわけじゃ……」
「それでは、リーリス王国までお願いしますね、アリスさん」
「ま、任せるの」
カインにウインクされて胸がきゅんとなる。
お、落ちつけ……深呼吸深呼吸……。
なんでこんな苦労しなくちゃならないのか。まじで余計な設定付けたよな、俺。
俺は気を紛らわせるように前を向く。
ここからリーリス王国に向かうためには、途中でアルメリア王国を通る必要があり、さらに言うならその前に森を抜ける必要がある。
いや、通常のルートを通るなら、まず東に行ってサラエット王国側に抜けた後、森を大回りするように移動するのだが、当然それだと遠回りになるので時間がかかる。
できることなら、早めに帰りたいということもあるので、今回は森を突っ切るルートを通ることにした。
多分魔物に襲われるだろうけど、遠回りして進むよりは多分早いだろう。気配は俺が察知できるし、奇襲も問題ないと思う。
まあ、そう言うわけで、まずは森を抜ける必要があるわけだ。
「この森って、例のエルフの集落がある場所なの?」
「ああ。もう何度も行ってるから、多少は動きやすい道はわかるぞ」
「それはありがたいの」
いくら走るのが早いとは言っても、障害物の多い森で走るのは難しい。
でも、多少なりとも走りやすい道を知っているのなら、少しは時間短縮もできるだろう。
この森にエルフの集落があってよかったというべきか。そうでなければ、調査は難しかっただろうし。
「どれくらいで抜けられるの?」
「うーん、五日はかかるか? 森を抜けるところまで行くなら一週間はかかるかも」
いくら道を知っていても、抜けるのは結構大変らしい。
まあ、大変じゃなきゃ、先の戦争でこちらから攻められていてもおかしくなかったわけだし、ありがたいっちゃありがたいんだけどさ。
本当に攻められなくてよかったと思う。
「そういえば、アリスさんはホムンクルスの素材を探しているんでしたよね?」
「うん。ちょっと作らなきゃならない用事があるの」
「でしたらこれを。渡そうと思っていたんですが、忘れていました」
そう言って、カインは【収納】から水晶のように透き通る花を取り出した。
これって、ピュアクリスタル? 滅多に生成されない特上の水晶だったはずだけど、どうしてカインが持っているんだろう。
「実は、エルフの里があると思われる結界の近くに行った時に見つけたんです」
「ああ、そういやあそこはやたらと結晶花が咲いてたな」
カインの言葉に、シリウスが同意する。
結晶花とは、花が周囲の魔力を取り込んで結晶質となったもののことで、取り込んだ魔力の質によって美しさが変わる代物である。
中でも完全に結晶となったものはピュアクリスタルと呼ばれ、その純度の高い魔力は様々な魔道具の素材となってくれる。
『スターダストファンタジー』でもお目にかかることはほとんどない幻の素材。買おうと思ったら、場合によっては十数シナリオ分の報酬が吹き飛ぶことだろう。
こんなものが生えてるなんて、エルフの里は一体どうなっているのだろうか。
「こんなものがあるならエルフの宝と言ってもおかしくないと思うけど、何も言われなかったの?」
「ああ、特には。多分、エルフはそこまでの価値を見出していないか、それとも気づいていないんじゃないかね」
「気づいてないなんてことあるの?」
「確かに結構な数咲いてはいたが、一つ一つはそこまで大きくはない。注意して見なければ、見つけられない可能性もなくはないだろう」
確かに、カインが取り出したものも手のひらほどの大きさである。
どれほどの数があったかは知らないが、確かに見逃してもおかしくはないか。
でも、結晶花は魔力を取り込んでなるものだし、エルフの里の近くでこれが見つかったってことは、恐らくエルフの魔力が高い故だろう。
『スターダストファンタジー』でも、エルフは魔法が得意な種族特徴を持っているし、漏れ出た魔力が花に影響を与えて結晶花と化しても不思議はない。
これは、エルフはお宝を抱えているっていうのもあながち間違いではないかもね。
俺は貰ったピュアクリスタルを眺めながら、エルフの里のことを考えてみた。
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