第百五十七話:返信の内容
返信は思ったよりも早く来た。
やはり、文字を読むのが大変だったらしい。しかし、こちらがエルフ語を使ったことが気に入らないのか、届いた手紙には延々と罵倒の言葉が書き込まれていた。
どうやら、エルフ語はエルフのみが使うことを許された高貴な言葉であり、俺達のようなエルフ以外の奴が使うことは許されない行為らしい。
せっかく読みやすいようにそちらの字で書いてあげたというのに面倒なことだ。
というか、仮に共通語で書いたとしてもなんか言ってきそうな気がする。
すべてにおいて面倒くさい奴っぽいな。サクラの件がなかったら絶対お近づきになりたくない。
「で、なんだって?」
「一応場所は教えてくれたの。本当かどうかは知らないけど」
文句ばかりの手紙ではあったが、一応こちらが協力する意思を見せたからか、例の里の場所を教えてくれた。
場所としては、リーリス王国という国の南東にある森にあるらしい。普通に馬車で行くなら、二か月以上はかかる距離である。
まあ、俺を始め、シリウス達の足ならもう少し短縮できるとは思うが、それでも結構な距離である。
「罠の可能性もあるって?」
「いや、罠というか、こんだけ見下してるなら面白半分で嘘情報教えてもおかしくない気がするの」
エルフ側の考えとしては、こちらを使ってやってるって感じだろう。だから、俺達に何をしても許されるとか思っていそうだ。
でも、自分達の手を汚さず、サクラをどうにかしてほしいのは本当だと思うから、今回が嘘でもいつかは本当のことを教えてくれそうではある。
一番いいのは、この情報がきちんと本当の情報だってことだけどね。
「まあ、こちらとしては行くしかないわけだが」
「情報もありませんからね。実際に行って見て、確かめるしかないです」
「それしかないの」
行くこと自体に否やはない。問題なのは、やはり距離だ。
流石に、馬車で二か月以上かかる道のりだから、俺が全力で走ったとしてもそれなりに時間がかかる。
一日や二日だったら、もしかしたら外出を許してくれるかもしれないが、それ以上となると正式な理由がないと無理だろう。
今のところ、エルフを探しているのは仲間を探すためということになっているが、ただ仲間を探すだけだったらわざわざ俺が行く理由にはならない。
俺が行くとすれば、それは武力が必要な場面だ。
戦う気もないのにどうやって武力が必要と言い訳すればいいだろうか?
「招待状を貰った、とかでいいんじゃないか? ほら、アリスだってお茶会くらいするだろ?」
「お茶会という名の腹の探り合いなの」
お茶会をしないかと誘ってくるのは基本的に頭脳派の貴族達だ。
ファウストさんが王様だった時は、お茶会なんて堅っ苦しいことは苦手だったようで、どちらかというと武闘派の貴族と組み手なんかをするのが楽しくて、そちらばかり優先していたようだ。
だから、俺が王様になってようやく話を聞いてもらえるようになった貴族達がこぞってお茶会に誘うのである。
まあ、俺も全部に参加するのは面倒だから、ナボリスさんに適当に仕分けてもらっているけど、お茶会の誘いというのがないわけではないのだ。
今回はエルフからということになるけど、エルフは基本的に人と関わらない種族だし、そんな場所からお誘いが来たとなれば、断るのは非常にもったいないことだ。
まだ見ぬ技術を見つけられるかもしれないし、この機会を逃してはならぬと送り出してくれる可能性はなくはない。
「お茶会の招待ってわけではないと思うけど、それで通用するの?」
「いくら優秀ったって、どうせエルフ語なんて読めないだろ? この手紙を見せて適当に言い含めれば通るんじゃないか?」
「まあ、確かに」
幸い、ナボリスさんは俺が何でもできると思っているし、前々からエルフにアプローチしていることは知っているので、ようやくそれが実を結んだと言えば許してくれると思う。
相手が俺が来ることを望んでいると言えば、行かざるを得ないだろうしね。
武力面での心配はしていないだろうし、護衛を何人か連れて行けとも言われないだろう。
うん、行ける気がしてきた。
「なら、ナボリスさんにはそう言っておくの。後は、行く日程なの」
「行くのは俺達だけでいいのか?」
「それでいいんじゃないの? 下手に他の人を連れて行って問題起こされたら困るし」
エルフ自体はそこまで珍しくもないが、エルフの里に入るとなれば相当貴重な体験だ。
なにも事情を知らない人を連れて行ってテンション上がりすぎて変なことされるよりは、知っている人だけを連れて行った方が楽だし確実だと思う。
パーティバランス的にも、タンクにヒーラー、アタッカーと揃ってるしね。
「アルマは連れて行かないのか?」
「アルマさん? いや、まあ、アルマさんならまだ連れて行ってもいいけど……」
アルマさんはすでにこの世界の人間としては強すぎるスペックを持っている。
あの後もちょくちょくレベル上げは行っているし、今だったら【治癒魔法】のみならず、攻撃系の魔法だってお手の物だろう。
十分な戦力にはなるはずである。ただ、別に戦力が必要な場所ってわけでもないような……。
「いや、いいや。変なこと言って悪かった」
「アルマさんが気になるの?」
「べ、別にそんなんじゃねぇよ」
シリウスは少し顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
ふーん? まあいいけど、ちょっと気になるなぁ。
俺としてはシリウスが幸せになってくれるならアルマさんに譲るのも吝かではないけど……できればこっちを向いてほしい。
い、いや、友達なんだからそれで十分だけどさ。やっぱ、こう、ね?
だめだ、アリスの思考が邪魔をする。気持ちを落ち着けないと。
「まあ、今回は私達三人でいいでしょう。アルマさんには留守の間、兵士達の治療を頑張ってもらうということで」
「それが無難なの」
日々の訓練で兵士が怪我をすることは珍しくないが、大抵は俺がすべて治している。
ただ、あんまり治しすぎて無謀になりすぎると困るから、たまに手を抜いたりしているけどね。
アルマさんはいつも町の方で治療をしているけど、こっちの方でも頑張って貰えば訓練に支障も出ないだろう。
「それじゃ、出発は明日ということで大丈夫なの?」
「まあ、問題はねぇだろ」
「食料などは【収納】にいつもストックしていますし、後は馬車が必要でしょうか?」
「ああ、馬車はどうしようか」
正直、馬車は時間がかかりすぎる。往復で四か月以上ともなれば、ナボリスさんも流石に渋りそうだ。
となると、ここは時間優先で走っていった方がいいと思う。
二人とも俺よりは遅いが、馬車よりは早いだろうし。
「では、歩いていくということで」
「それがいいの」
さて、これで決めるべきことは決めただろうか?
後はこの情報がきちんとした情報であることを祈るばかりである。
俺は明日の出発のことを考えながら、まずはナボリスさんを説得すべく手紙を片手に立ち上がった。
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