第百五十六話:エルフの要求
手紙はかなり高圧的な文章が並んでいた。
エルフは孤高の種族であるとは聞いたけど、どちらかというと他の種族を見下していると考えるべきだろうか。
すべてのエルフがそうかはわからないが、少なくとも、あの里のエルフ達は自分達が一番偉いと思っている様子である。
で、そんな偉いエルフ達が何を言ってきたかというと、サクラというエルフを潰すのに協力しろという内容だった。
この手紙の主にとって、サクラは邪魔な存在らしい。エルフの古くからの風習を破り、同胞を篭絡する魔女、みたいなことが書かれていた。
居場所もわかっているし、攻め込めば必ず勝てるとは思っているが、わざわざ攻め込むのも面倒なので、ちょうど用があるという俺達に連れてこさせようという魂胆らしい。
凄い自信ではあるが、実際エルフは魔物蔓延る森の中で普通に暮らしていけるほど戦闘力はあるようだし、サクラのいる里は若いエルフばかりで構成されているらしいので、長く経験を積んだ自分達なら負けることはないと確信しているようだ。
まあ、サクラが相手じゃなかったら俺もそう思っているだろうけどサクラが相手じゃあなぁ……。
まあ、それはいいとして、場所は教えてやるから、とにかく連れて来いということらしい。そうすれば、特別に里に入れてやると書かれていた。
うん、まあ、色々言いたいことはあるけど、事態が好転したことだけは確かだな。
「これは何とも……」
「なんて書かれてるんだ?」
「どうやらサクラの場所を教えてくれるみたいなの」
俺は手紙の内容をみんなに話す。
アルマさんは俺までもがエルフ語を読めることに驚いていた様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻していた。
なんか、俺なら何やっても当たり前みたいに思ってない?
「そりゃ好都合だな。サクラさえ見つけられれば、俺達の目的は達成したも同然だ。乗ってやればいいんじゃないか?」
「まあ、場所を教えてくれるっていうなら乗らない手はないの。サクラを見つけても、連れて行かなければいいだけの話だし」
まあ、仮に連れて行かなかったら、業を煮やしてこちらに攻めてくる可能性もあるので、その可能性は潰しておきたいけどね。
最悪言うとおりに連れ出したところで、サクラなら負けないだろうし、何なら俺達だって加勢するのだから負けることはないと思う。
いくらエルフが強いとしても、レベル70になった俺なら対処できるとは思う。
「それじゃ、返事書かなきゃな」
「便箋出したところだからちょうどいいの」
俺は羽根ペンを取り出し、エルフ語で返事を書いていく。
多分だけど、ここまで時間がかかったのはこちらの手紙を読めなかったからだと思うんだよね。
もちろん、最初に予想したように破り捨てられてたって可能性もあるけど、こうして返信が来たってことは、読む努力はしてたってことだと思う。
外にいるエルフは普通に大陸共通語を操っているけど、やっぱり森に引きこもっているとそれも拙くなってしまうのだろうか。
環境の差って大事だね。
「ねぇ、そのサクラって誰なの?」
「アルマには言ってなかったか? 俺達の仲間の一人だ」
きょとんとしているアルマさんにシリウスが説明する。
話したことあったかは覚えてないけど、アルマさんも忘れているようなので、あらためて説明しておいた。
俺達冒険者パーティの最後の仲間。エルフのサクラ。
中の人は男だけど、多分この調子だと俺と同じく女性になってしまってるんだろうな。
それについてはご愁傷様だけど、俺よりはましだろう。なにせこちらはこんな変な口調付きなのだから。
「なるほどね。仲間が見つかったならよかったのかしら?」
「まあ、そうだな。まだ見つかったとは限らねぇが」
最悪、サクラという同姓同名の別人という可能性もなくはない。
いや、サクラなんて言う日本っぽい名前で被るとは思えないけどね。エルフの名前は長ったらしいのが多いはずだし。
「人間にホビットにエルフに獣人って、あなた達ってどこで会ったの?」
「んー、まあ、成り行きで?」
冒険の開始は始まりの村からだった。特に設定とかは考えていなかったけど、都合上俺以外はみんな同じ村に住んでいたってことになると思う。
俺は熟練冒険者としてふらりと立ち寄ったという設定があるから、村に住んでいたわけではないと思うけど、それでも人間とホビットとエルフが一緒にいるってなかなか珍しいよな。
いや、『スターダストファンタジー』では対して珍しくもないけれど。
「みんな過去が謎よね。他の大陸から来たっていうのはわかるんだけど」
「まあ、いいじゃないか。特に気にすることでもないだろ?」
「それはそうだけど……」
俺達の故郷、キャラとしてのだけど、それはこの世界にあるんだろうか。
少なくとも、この大陸ではあまり知られていないということだけはわかるけど、他の大陸ならもしかしたらあるんだろうか?
ただ、大陸共通語が通じてるってことはこの大陸が『スターダストファンタジー』の舞台じゃないのはおかしいか?
なんかよくわからなくなってきた。
「まあいいわ。私はアリスやシリウスがこの国にいてくれるだけで嬉しいし」
「そりゃよかった」
まあ、もしかしたらサクラが見つかったらいなくなるかもしれないけどね。
もちろん、まだ王様の座を明け渡していないからそれをどうにかしてからになるだろうけど、いつまでもヘスティア王国に留まっている理由もないからな。
元の世界に戻る方法も探さなきゃだし、自分の足で探しに行かなければ。
「さて、書けたの」
さらさらと手紙を書き終え、封筒に入れる。
俺は離れられないからまたシリウス達に行ってもらう必要があるけど、ここまで来たらそこまで時間もかからないだろう。もう道は覚えたようだし。
「それじゃ、よろしくなの」
「はいよ」
「私も行きますか?」
「いや、今回は別にいいだろ。ちゃちゃっと行って帰ってくるさ」
シリウスはそう言って部屋を後にする。
前は足がなくなっていたというのに、元気になってまあ。
喜ばしいことだから全然いいけどね。というか、まだきちんとした足を用意してあげられてないのが申し訳ない。
ホムンクルスの素材も頑張って集めないとなぁ。
「それじゃ、私も戻るわ。そのサクラって人、見つかるといいわね」
「うん。手紙ありがとうなの」
アルマさんもそう言って去っていく。
エルフがわざわざ里から出てここまで手紙を持ってきてくれたことは意外だったが、もしかしたら誰かが里帰りでもしたのかもしれないね。
そうでもなきゃ、文字が読めたとは考えにくいし、変わり者のさらに変わり者がいたということだろう。
ある意味で運がよかったのかもしれない。
「サクラ、どこにいるんでしょうね」
「さあ。できれば近いといいのだけど」
流石に、サクラを助けに行くとなれば俺も行きたいところである。
ずっとシリウスとカインに任せっきりだからな。俺もやるべきことはやってるけど、自分で助けに行きたい気持ちも強い。
どうにかしてナボリスさんを説得しないとだよな。
俺は何かうまい言い訳がないか頭を悩ませた。
感想ありがとうございます。
 




