第百五十五話:見知らぬ手紙
あれからまたしばらく経った。
エルフへの情報収集は今も行っているが、特に進展はない。
外にいるエルフから聞けるのは、せいぜい噂話程度のものだ。
以前に聞いたエルフの女王が新しく立った里があるという話も、その程度の信憑性しかない。
でもまあ、あれは本当のことだと思うけどね。
よっぽど稀な決まり方をしたようだし、流石にそれだけ注目度があれば少しは外に話も漏れるだろう。
ただ、その里がどこかまではわからない。一体どこにあるのやら。
「うーん、これはちょっと悩むところなの」
まあ、エルフの里に入れない以上、情報源は外にいるエルフの噂話程度しかないが、流石にそれだけの情報で件の里を見つけることはできないだろう。
もしかしたら、その里から出てきたエルフが偶然見つかるかなと期待したこともあったが、そんな偶然は起こらないようだ。
こうなってくると、強引にでも探した方がいいのかと思ってくる。
噂が広まっている以上、少なくともこの大陸にその里があるのは間違いないだろうし、大きな森を片っ端から探していけばもしかしたら見つかるのではないだろうか?
「まだ焦ることはねぇだろ。闇雲に探して見つかるものでもないだろうし」
「そうは言っても、そろそろ私達がこの世界に来てから二年になるの。いつまでも、サクラと離れ離れというのはちょっと……」
「まあ、それは確かになぁ」
二年と軽く言っているけど、普通に考えれば高校の三分の二の時間を過ごしているわけである。
決して短い時間ではない。
最初に出会ったシリウスだって再会までには結構な時間がかかったし、もうこれ以上友達と離れ離れのままは怖いのだ。
もちろん、会えたら会えたで問題は色々残っているけど、少なくとも、会って無事を確認しておきたい。
そのためにも、早いところ件の里を見つけたいところだ。
「里を見つけるのを急ぐのであれば、私達も全力で探しますけど、流石に大陸中の森を探すには人手が足りなさすぎますね」
「【エレメンタルアイ】持ちを増やすか?」
「いや、それはどうでしょう。私達全員が覚えても、あんまり意味はなさそうですし、下手に人手を増やしてエルフの結界のことが知れ渡ったら、エルフに迷惑をかけてしまいそうです」
確かに、今までは仮に捜索隊を出したとしても姿すら見つけ出せなかった場所なのに、結界のことが知れ渡ったらエルフの里を探す人も出てくるだろう。
もちろん、それだけでは意味がないかもしれないが、初めから結界のことを知っていれば、色々対策もできる。
まあ、【エレメンタルアイ】はこの世界の人達は覚えられないようだから、それによって見つかるってことはないだろうけど、【結界】というものがある以上は、もしかしたら見破るためのアイテムがあるかもしれないしね。
エルフがどういう種族かは詳しく知らないが、サクラを保護してもらっている以上はあまり迷惑はかけたくない。見つけたとしても、関係悪化したら困るのだ。
そうなってくると、必然的にシリウスのみ。カインに覚えさせるにしても、二人しかいない。
仮に俺が城から抜け出せるとしても、三人だけで大陸中の森を探すなら、それこそ何十年とかかるだろうな。
「探すならどうにかして場所を絞り込む必要があるでしょうね」
「だが、どうやって? 外にいるエルフじゃそこまで詳しいことは知らないんだろ?」
「一番なのはどうにかして森にいるエルフに協力を仰ぐことでしょうが……」
「難しいな」
まあ、とても運が良ければ件の里について知っているエルフもいるかもしれないが、それを待っていたらいつになるかわからない。
やはり、どうにかして場所を絞り込む必要がある。
ここはやはり、以前訪れたエルフの里に行って協力を取り付けるのが正解なんだろうか?
まあ、彼らが本当に知っているかどうかもわからないが。
「また手紙出してみるか?」
「まあ、なにもしないよりはまし、なの?」
手紙に関しては何度か出して音沙汰がなかったので既にやっていないけど、また出してみるべきだろうか。
なんか、回収こそされているけど読まれもせずに破り捨てられているイメージしかないんだけど。
「やるだけやってみようぜ。あれからしばらく経ったし、もしかしたら心変わりしてるかも」
「じゃあ、また書いてみるの」
手紙を書くのも楽じゃないんだけどな。
別に文字が書けないとかじゃないけど、なんというか、読まれもしないと考えると面倒になってくる。
もちろん、間違っても機嫌を損ねたくないからきちんと書くけど、どうせ読まれないならここまでする必要ないんじゃないかと思ってしまう時もある。
「うん?」
引き出しから便箋を取り出そうと席を立ったところで、不意に扉がノックされた。
今はシリウスとカインの三人で話しているが、この三人だと割とこの世界の人達に聞かせられないようなこともよく話すので人払いしていたんだけど、何か急用でもあったんだろうか。
ちょうど立っていたので、扉を開けてみる。すると、そこにはアルマさんが立っていた。
「あれ、アルマさん、どうしたの?」
「ああ、アリス。ちょっと手紙を預かったから持っていこうと思って。そしたらここにいるって聞いたから」
そう言う手には確かに手紙が握られている。
なんか変わった便箋だな。少なくとも、この国で使われているものではなさそうである。
いったい誰からだろう? 俺宛てに手紙を出すような奴なんて……いなくはないけど、手紙で済ませることはあまりなさそうな連中なんだけどな。
「誰からなの?」
「私も兵士の人から預かっただけだからよく知らないけど、何でもフードを被った長身の人だったとか」
「名前とか聞いてないの?」
「そうみたい。それどころか、顔も見てないって」
おいおい、そんな怪しいものを城に持ち込んでいいのか?
まあ、見た感じ危ないものには見えないけど、何らかの魔法がかかってたりするかもしれないし、油断は禁物だ。
俺は二人に目配せすると、慎重に手紙を受け取る。
アルマさんも含めて手紙を囲むと、そっと封を開いた。
「これは……」
書かれていたのは見慣れない文字だった。
俺達が普段使っているのは大陸共通語と呼ばれるもので、これさえ話しておけば、この大陸内では言葉に不自由することはないというものだ。
使われている文字も同じで、大陸共通文字が使われている。
だが、共通語とは別に、それぞれの種族に応じた言葉が存在する。人間なら人間語、エルフならエルフ語と言ったようにね。
恐らく、ここに書かれているのはエルフ語だろう。俺は大陸共通語で手紙を書いていたが、もしかしたら言葉が通じていなかった可能性もあったかな。
いくら共通語が万能とはいえ、知らない人もいるだろうし、自分の母語を使いたい人もいるだろうしね。
「……何語だ?」
「見たことない文字ね……」
「これは、エルフ語ですかね? 何となく読めます」
「え、読めるのか? すげぇな」
どうやらカインは読める様子。まあ、俺も読めるんだけどさ。
『スターダストファンタジー』において、言語の習得は知力によって決められる。
冒険者は最低二つの言語、大抵は自分の種族の言語と大陸共通語を取得しているが、知力が高ければ他の言語を習得することもできる。
カインの種族である人間は知力が高いから、素の状態でも二つの言語を習得できた。そのうちの一つが、エルフ語だったってことだろう。
そういえば、今ならレベルも上がって知力も増えているだろうし、取得しようと思えば他の言語も取得できそうだな。後で調べてみてもいいかもしれない。
とにかく、エルフ語で書かれているということは、恐らく渡してきたのはエルフ。ということは、あの手紙の返信がようやく来たのかもしれない。
俺ははやる気持ちを抑えて手紙を読み進める。さて、何が書いてあるのかな?
感想、誤字報告ありがとうございます。




