第百五十四話:近接攻撃の手段
後回しにするのはよくないと思ったので、帰ってから早速キャラシを開いた。
考えた結果、取るのは【チェイサー】にすることにした。
【チェイサー】は追撃者のクラスで、相手を追い詰めて優位に立つことが得意なクラスだ。
主な武器はナイフだが、他にも魔導銃なんかも使えたりする。
まあ、魔導銃を使うには【ガンスリンガー】のクラスで専用の魔導銃を入手する必要があるけど、スキル自体は強力なものが多い。
今回はナイフを主体に戦おうと思うので、そちらは取らないが、銃もロマンがあるし、気が向いたら取ってもいいかもしれないね。
……いや、弓と銃だと射程が被るか。やめといたほうがいいかも。
「さて、ナイフを使うとなると……」
俺はナイフ関連のスキルを洗っていく。
使いやすいのは範囲攻撃である【バリソンダンス】だろうか。
小回りの利くナイフで舞うように斬り付け、武器の射程内にいる敵全員にダメージを与えるスキルである。
ナイフ自体の攻撃力は割と控えめではあるが、それに関しては他のスキルでダメージを底上げすることで何とかすることができる。
特に、以前に言った武器破壊系のスキルはナイフ系には多い。威力が控えめだから、その分威力の高いのスキルが多いんだろう。
ちょうど【リペア】も持ってるし、そちらに手を出してみるのも悪くないかもしれない。
「まあ、武器破壊系のスキルを使うほどの敵は出ないと思うの」
あくまでナイフを使うのは近接の攻撃手段を増やすためであって、敵を倒したいというわけではない。
ナイフで倒せないような敵だったなら、距離を取って弓で仕留めればいいだけの話だし、そもそも今の俺の筋力なら何のスキルも乗せなくてもナイフでも相当のダメージを与えられるだろう。
一撃死はないとしても、瀕死の傷を負わせるくらいはできそうである。
そう考えると、わざわざロマンあるスキルを取る必要はないとも言える。
まあ、取るけどね。面白そうだし。
「後は……」
他にも、ナイフに毒を塗って、ダメージを与えた時に相手を毒状態にする【ポイズンナイフ】とか、ナイフを投射して中距離にも攻撃を届かせる【スローナイフ】とか色々あるけど、とりあえず一通り挙げ連ねておく。
「さて、こんなもんなの?」
一通り取りたいスキルを挙げ終え、一つ一つ吟味していく。
ただ、ナイフの運用方法を考えると、そこまで凝ったスキルはいらないっちゃいらない。
【ポイズンナイフ】とかは明らかに殺す目的で使うものだろうし、人相手にあまり殺しをしたくない俺にとってはあまり効果的なスキルとは言えない。
魔物を倒すのには使えるかもしれないが、そもそも毒なんかにしなくても大抵の魔物は一撃なんだし、わざわざ取る必要もないだろう。
もし食べるとなった時に毒抜きも面倒だろうしね。
【スローナイフ】はまあ、あってもいいかなとは思う。
弓で遠距離は狙えるとはいえ、中距離という弓を使うか悩む距離にいる敵に対して使えるかもしれないし、あって損はないだろう。
投げナイフの技術と基本的なナイフの技術。その二つが身につくようなスキルなら何でもいいと思う。
そうなると、案外取るものは少なくなりそうだね。
「これは絶対いらない気がするけど、面白いから取るの」
【ブレイクバースト】。武器を炸裂させ、ダメージを激増させるスキル。
さっき言った武器破壊系のスキルの一つで、【チェイサー】のナイフスキルの中では一番火力が出るスキルでもある。
文字通り、武器を破壊するので本来なら一度しか使えないが、【リペア】があるので直しさえすれば何度でも使用できるのが強いところではあるけど、そこまで無理をする相手が出るとは思っていない。
でも、やっぱりかっこいいじゃん? 話に聞いたことはあったけど、実際に使ったことはなかったし、どうなるのか見てみたい気もする。
見た目には派手だし、魅せる用のスキルとして有用になるかもしれないしね。
そう言うわけで、これは取得と。
「まあ、こんなものなの?」
他にもいくつかのスキルを決めて、方向性は決まった。
後は、実際にレベルアップするだけである。
「クラスチェンジする前に、【ブラックスミス】のスキルも取っておくの」
現在のセカンドクラスは【ブラックスミス】。本来は【リペア】を取るためだけになったクラスではあるが、以前にも言った【メタルコンバート】とか、武器を作るスキルである【ウェポンコーディネート】はどこかで使うこともあるだろう。
また【ブラックスミス】に戻って取り直すのも面倒だし、この際だから取っておこうと思う。
「そういえば、お金を手に入れるスキルってどうなるの?」
生産系のクラスの場合、シナリオ開始時にある程度のお金を入手することができるというスキルがある。【ブラックスミス】の場合、【ウェポンプロダクト】と言うスキルだね。
これは、シナリオとシナリオの間に自分で作ったものを売ってお金を稼いだ、という感じらしいんだけど、スキルとして取得したらどうなるんだろうか。
リアルになった以上、シナリオ開始時というタイミングはもう訪れないだろうし、取るだけ無駄なのかな?
それとも、一定期間でいくらか入ってきたりするんだろうか。
もしそうなら結構有用なスキルになるんだけど。今は一国の王となったおかげでお金はあるとはいえ、それは俺のお金ではないし、俺自身の持ち金はそこまで多くない。だから、お金を得られるというなら欲しいスキルではある。
試しに取ってみる? どうせ一枠余るし、ここで取るなら無駄にはならないだろう。
「じゃあ、これも取得、と」
それらのスキルも合わせて、大体6レベルくらいだろうか。思ったよりは使わなかったと思う。
まあ、多少無駄遣いしたところでまだ経験値は万単位で残ってるけども。
「後はナイフも調達しないとなの。それとも、自分で作るの?」
武器を作るためには素材が必要となる。
基本的には素材のレア度によってできる武器の質は変わっていくが、変わるのは基本攻撃力と耐久力だけなので、あまり気にしなくてもいいかもしれない。
まあでも、せめて鉄で作るとしようか。流石に木のナイフじゃかっこ悪いし。
鉄に関してはナボリスさんに頼めば多分手に入るだろう。ミスリルよりは貴重じゃないし、インゴット一つくらいなら余裕で手に入ると思う。
その気になればさらにエンチャントもできるし、作る方が楽しいとは思う。
そこまでのナイフが必要かと言われたらわかんないけど。
「どうやってできるのかな」
自分で使うことはないだろうけど、とりあえずどうなるか気になったので【収納】からゴーレム素材の余りである石を取り出してナイフを作ってみる。
石はかなりレア度が低いからそんなにいい品質のものはできないだろうけど、まあお試しだし別にいいだろう。
ひとまず手に持って念じてみたが、ポーションのようにポンとできることはなかった。
鍛冶師のクラスだから、きちんとハンマーを振り下ろすみたいなことしなくちゃいけないのだろうか?
試しにハンマーを振り下ろすような仕草をしてみると、いつの間にか手にハンマーが現れ、叩いた石ががちんと火花を上げた。
すると、見る見るうちに石の形が変わり、一本の石のナイフへと変わっていった。
いや、そうはならんやろ。
「うん、まあ、便利ではあるの」
気づけばハンマーは消えているし、本当にただ真似るだけでいいらしい。なんとも便利なことで。
まあ、これに関しては今に始まったことではないので気にしないことにする。
この程度の石でも小ぶりとはいえナイフができるのだし、素材消費は実際に鍛冶をしてナイフを作るよりよっぽど少なそうだ。
その分品質はお察しになるかもしれないけど、とりあえず使えるならそれでも十分だろう。
取ってよかったと言えるスキルでよかった。
俺はできたナイフをしばし見つめると、【収納】に放り込む。
今度はきちんとした素材で作ってみたいね。
感想ありがとうございます。




