第百五十三話:兎族の逸材
調査の傍ら、俺も闘技場の修復を頑張っている。
と言っても、調査してくれるのはシリウスやカイン、それに『草』の人達だけど、まあ適材適所という奴だろう。
俺はこうして闘技場の傷を直していくのが適任なのだ。
「いやはや、それにしても陛下は何でもできますね」
視察に訪れていたナボリスさんがそんなことを言う。
まあ、確かに普通の人と比べたらできることは多いだろうな。
降霊術だってできるし、ゴーレムだって作れる。その上で修復作業までできるのだから万能なんてレベルじゃない。
というか、この調子だとその気になればすべてのスキルを取得できそうだよな。
流石にレベル100程度じゃ全く足りないけど、これからも際限なく経験値を獲得できるのだと考えればいずれコンプリートもできるんじゃないかと思う。
まあ、流石にそこまでやる気はないけど。
「何でもはできないの。できることだけなの」
「それでも十分凄いですよ。ファウスト様は優れた拳闘家でありましたが、他の細々としたことは苦手でございました。それができるだけでも、十分誇れることでございます」
ファウストさんはほんとに脳筋だったからね。そりゃあの人よりは色々できる自信あるわ。
ああでも、カリスマ性という意味では勝てないだろうな。なんだかんだ、三十年も統治してきた実績があるし、俺の間抜けな喋り方も相まって到底追いつくことはできないことだろう。
威厳が欲しいとは思わないけど、どうにかしたいよな。このままだと、元に戻った時にうっかり口をついてしまいそうだ。
「それにしても、陛下の種族である兎族はあまり力が強くないと聞いていたのですが、その強靭な力の源にはどんな修行の日々があったのですか?」
「別に修行で強くなったわけじゃないの。ただ、運がよかっただけなの」
アリスが強くなった理由はそこまで深くは考えていない。ただ、子供の頃にドラゴンに会い、その血を浴びたせいで力が強くなった、とかいう曖昧な設定だけだ。
実際の理由は元からレベル30でビルドしたからという話だけど、普通に考えて13歳でレベル30って相当ぶっ飛んでるよな。
いったい何歳から修業してたんだって話だ。
「陛下以外の兎族でも、陛下のようにお強い方はいらっしゃるのですか?」
「多分いないの」
恐らく、この世界で俺のような兎族が出てくることは多分ないだろう。
いや、俺のようにある日突然この世界に飛ばされてきたって人が他にもいるかもしれないけど、それを除けばこの世界の兎族は実に非力だ。
この世界での兎族の役割は、より強い獣人を支えることと、種族繁栄のために子供を作ること。
もちろん、それらも大事なことではあるけど、いざという時に何もできないというのはかなり怖いことだろうな。特に、魔物が蔓延るこの世界では。
俺はとても幸運だったのかもしれない。兎族でありながら、こうして強い体があったのだから。
「とすると、陛下のみが例外だったということですか?」
「私だけというよりは、私とその仲間が例外だったというべきなの」
例外というなら、俺だけでなくシリウス達も当てはまるだろう。
兎族よりはよっぽど強いとは言っても、シリウスの種族であるホビットだってあんなに強くはないだろう。
みんなプレイヤーとして強い体があったからこその例外だ。
そうでなければ、この世界に来たところで魔物に食い殺されて終わっていると思う。特に、シリウスは戦う力がなかったのに生き残っているのだからいかにステータスが重要かがわかるだろう。
いったいなぜこうなったのかはわからないが、そう言う意味では黒幕に感謝してもいいのかもしれない。
「ふむ、神童の類でしょうか。時に限られたグループの中には他の者よりも優れた能力を持つ子供が生まれることがあります。陛下はそれこそ、千年に一度、いや、億年に一度くらいの逸材かもしれませんね」
「それはどうもなの」
まあ、その気になればその辺の一般人でも強くはなれると思うけどね。
もちろん、この世界でいくら努力したところで生きているうちに上げられるレベルはたかが知れているだろうが、俺はそれを無視できる。
レベルアップを自在にできるというのは相当に強力だ。しかも、気に入らなければ『リビルド』でいつでも振り直しできるというおまけつき。
あ、でも、振り直しができるのはプレイヤーであるシリウス達だけで、この世界の人達は難しそうだったけど。
いずれはできるようになったりするのだろうか? まあ、今のところやる気はないからいいけど。
「しかし、それほどの逸材なら私どもの方でも情報が手に入りそうなものですが、陛下は一体どこから来たのですかね」
「さあ、想像に任せるの」
俺がどこから来たかは誰にも理解されることはないだろう。
まさか、別の世界から来ましたなんて言っても頭を心配されるだけだろうし。
まあ、想像で思いつけるとしたら、遠くの大陸から来た、とかくらいしかわからないだろう。
実際、拡大解釈すれば遠くの大陸から来たと言えなくもないし、間違ってはいないと思う。
大陸というか星レベルな気もするけど。
「教えてはくれませんか。いつか、陛下の故郷を見てみたいものですが」
「見ても面白いものじゃないの」
絶対に不可能だろうしね。
俺は言いながら修復を続ける。広い闘技場だけあって、いくら修復しても全く進んだ気がしない。
まあ、元からゆっくりめにやっているせいもあると思うけど、まじで半年とかかかりそうだよな。
それはそれで面倒な気がしてきたけど、さっさと完成させて闘技大会を開くのと、のろのろと先延ばしにするの、どっちが楽だろうか。
ファウストさんの相手自体はそこまで難しいことではないんだけど、やっぱり素手はスキルがないから辛いものがある。
いい加減何か取った方がいいかなぁ。【コール・ミカヅキ】があればなんとかなるとは言っても、やっぱり弓以外の攻撃手段は必要かもしれない。
ただでさえ、俺の弓はでかくて扱いに困るし。
「ふむ、取るとしたら何にすべきか……」
候補としてはナイフか剣がいいだろうか。
一応、素手状態で効果を発揮するスキルもあるっちゃあるけど、格闘よりはやっぱり武器が欲しい気がする。
いや、いざという時に何もいらない格闘の方がいいのか? その辺も悩むところだ。
ナイフなら【シーフ】か【チェイサー】、剣なら【ナイト】か【ソルジャー】、格闘なら【ボクサー】か【グラディエーター】とかが候補かな。
この中なら【シーフ】は少しだけ取っているけど、ナイフ系のスキルは取ってないんだよね。
悩むところだが、まあそのうち思いつくだろう。
何なら、全部取ってもいいしね。どうせ経験値は余ってるんだし。
「ま、帰ってから考えるの」
今はナボリスさんもいるし、余計なこと口走らないとも限らないから一人の時にゆっくり考えればいいだろう。
俺はほどほどに手を抜きながら修復を続ける。
さて、完全に直るのはいつになることやら。
感想ありがとうございます。
 




