第百五十一話:【リペア】の性能と調査報告
とりあえずレベルを二つほど上げて【リペア】を取得してみた。
俺自身これを使ったことはないが、一応、これにはコンボがあるらしく、武器破壊系のスキルと組み合わせるとかなり強いというのは聞いたことがある。
武器破壊系のスキルというのは、武器を破壊する代わりに威力の高い攻撃を繰り出すことができるというものが多いので、連発できればまさに無敵だ。
本来は安い武器を大量に持っておき、武器を交換しながら使うか、あるいはここぞという時の切り札として使うのが一般的な使い方ではあるけど、もしここまで取れればかなり強力なスキルとなるだろう。
最も、【リペア】を取得できる【ブラックスミス】はそんなことしなくても素材さえあれば武器を量産できるのでそっちで作った方が楽っちゃ楽だが。
素材を節約するんだったら取った方がいいかもね。
「さて、直せるかどうか」
俺は早速闘技場へと赴き、試しにひび割れた床に対して使ってみる。
すると、床がぐにゃりと変形し、生えていた草を巻き込んで元の綺麗な状態へと戻っていった。
どうやらきちんと【リペア】は発動するらしい。ただ、これ最初に草を抜いておかないと強度が心配だな。
巻き込まれた草を引っ張ってみると、床の境目辺りでちぎれてしまった。どうやら完全に床と融合しているようだった。
そう考えると、取り扱いに気を付けなければいけないとも思うけど、まあそこまで気にする必要もないだろう。
とにかく、ここの草むしりをしてもらって、瓦礫はこのまま残しておいて【リペア】で直す。こうすれば、比較的簡単に元の状態に戻せるかもしれない。
「とりあえず、草むしりは誰かに任せるの」
俺がやってもいいが、わざわざそこまでやる気力がない。
そもそも、こうして直せるということは、闘技大会が開かれる日程が前倒しになるということだ。
国民に対して強さを見せなければならないというのはわかるけど、わざわざ戦いたいとも思わない。王の座は譲れるものならさっさと譲りたいわけだし。
だから、これに関してはゆっくりやっていけばいいと思う。
大丈夫、これが使えるのは俺だけなんだから、そうそう怪しまれることはないだろう。俺の特技が少し増えるだけだ。
「ひとまず、今日は休むの」
気が付けば、すでに日が暮れてしまっている。
朝から視察して、図書室で調べ物をしてと色々やっていたから、時間が過ぎてしまっていたのだろう。
こうしてがっつり一日を満喫したのは久しぶりかもしれない。いつもは、ルーチン通りに訓練場で訓練してあげてただけだし。
いや、ルーチンに訓練が入ってるのもおかしいな。なんでそんなことやってるんだ俺。
以前だったら、戦争に勝たなければならないからと思って必死になってやっていたけど、もう戦争は起こらないだろうし、そこまでして兵士を育てる意味もない。
まあ、強いて言うなら俺がいなくなった後も強い兵士を残すという目的はあるけど、ヘスティア王国がどうなろうと俺の知ったことではないし、そこまで気にすることでもないと思うんだけどな。
なんだかんだ言って、俺もこの国を気に入ってしまっているのだろうか。だとしたら、なんか複雑な気分だな。
たまには休みの日があってもいいかもしれないと考えながら、俺は城へと戻っていった。
それから約一か月。闘技場は修復する方向で話が進んでいった。
ナボリスさんは新たに闘技場を作る方向で話を進めていたが、俺が修復がそこまで難しくないということを話すと、そちらに方針転換してくれた。
ナボリスさんとしても、どちらにしても金がかかるのは必至だし、それであれば安く済む方を取りたかったらしい。
もちろん、俺が修復する以上は俺に対して報酬が出されるだろうけど、俺を抜きにした人員を用意することを考えればよっぽど安く済む。
ただ、あんまり早く修復しきっても困るので、完全に修復するのには半年くらいかかるかも、とは言っておいた。
まあ、それでも新しく作るより早いんだけど、それくらい経ったらファウストさんの熱も冷めないかなと思ってのことである。
絶対冷めないだろうけど。
「お帰りなさいなの。調査の結果はどうだったの?」
闘技場に関しては俺が少しずつ修復していくという形で収まり、そちらは一応の落ち着きを見せた。
草むしりもそろそろ終わるようだし、俺の出番も近いだろう。
でも、今はそれは置いておこう。それよりも、ようやく帰ってきたシリウス達の報告の方が気になる。
シリウスはともかく、カインは敏捷にはそこまで振っていなかったはずだが、レベル補正のおかげもあってこの世界では結構速い方になるらしい。
それでも、一週間の道のりを一日で行くなんてことはできないが、馬車でのんびり行くよりは早く進めるようだった。
まあ、今回はちゃんと馬車で移動したようだけど、いざとなれば時間短縮として走るのもありかもしれないね。
「ああ。どうやらアルメリア王国はいい線は行っていたらしい。エルフの里と思われる結界は見つけたよ」
「おお、それは重畳なの」
シリウスに授けた【エレメンタルアイ】はきちんと効果を発揮してくれたようだ。
エルフの里の情報を持ってきてくれたカインと合わせて、とてもいい感じに事が進んでいる。
ただ、いいことばかりでもなかったようだったが。
「だが、中に入ることはできなかった。俺が結界に触れたら弾かれたし、カインも同様。恐らく、エルフ以外は弾かれるようになってんじゃねぇかな」
「まあ、隠れ里というならそれが妥当なの」
「それだけだったらまだいいんだが、しばらく結界を触っていたらどこからか矢が飛んできてな。明らかに俺達に敵意を向けてきていた」
「大丈夫だったの?」
「ああ、カインが庇ってくれたからな。だが、エルフにとっては結界に触られるだけでも敵対対象とされることのようだ」
結界に触るだけでも攻撃されるってことは、エルフでないってだけで敵対意識を持ってるってことだ。
いや、本来見えないはずの結界を触っている以上、里の存在に気が付いているということだから警戒するのは当たり前だけど、それはつまり、よほどの信用がなければ中に入れてもらえることはないということでもある。
もちろん、結界を強引に壊すことは可能かもしれないけど、そんなことをしたらエルフと敵対することは明らかだ。
俺としては、できればエルフとは仲良くしておきたい。サクラを助けてくれたかもしれない相手なのだから、もし敵対しようものならサクラの情報を追えなくなる可能性がある。それは避けたいところだ。
「これじゃまともに入ることはできないと思うが、どうする?」
「うーん、どうにかしてエルフの協力者を見つける必要があるの」
エルフ以外を通してくれないのなら、エルフの協力者を見つけるしかないだろう。
幸い、エルフは排他的な種族とは言っても、外の世界に進出する変わり者もいるらしい。そう言ったエルフに声をかけて里に案内してもらえれば、もしかしたら入れてくれるかもしれない。
「エルフが里に案内してくれるとは思えませんが」
「そうなの?」
「エルフの里から飛び出したエルフは人に友好的な人も多いですが、それだけ里ではつまはじき者だった人も多いらしいですから。以前会ったエルフはあんな里に戻るなんて御免だ、と言っていましたよ」
「カインがエルフに会ったことがある方が意外なの」
エルフなんてファンタジーな種族、俺だって会いたいのに。
いや、それはともかく、そうなると外にいるエルフに案内してもらうというのは無理があるか。
入ることもできないし、近づくだけでも敵対する可能性がある。これは割と八方塞がりでは?
「うーん、どうしたものか」
闘技場を何とか出来たと思ったらまた別の問題がやってくる。
さて、どうやって情報を得たものか……。
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