第百五十話:ミスリルの代用品
ミスリルというのはかなり優秀な金属らしい。
というのも、探してみてもミスリルより硬い金属というのはあまり見つからなかったのだ。
いや、見つからなかったわけではない。ミスリルより硬い金属もあることはある。
例えばオリハルコン。ミスリル以上の硬さと魔力伝導率を誇り、同じく魔剣にも使われることがある金属。
ただ、これはかなり希少な金属らしく、ミスリルと比べると、値段が一桁二桁変わるくらいの希少性があるらしい。
取れる場所もかなり限定されており、このヘスティア王国にオリハルコンが取れる鉱山は一つもないようだ。
他にも、ヒヒイロカネとかアダマンタイトとか色々あったが、いずれも希少性がかなり高く、ミスリルの代わりとするには高価すぎる。
結局、代わりとなりそうな金属は見つからなかった。
「どうすりゃいいの……」
ただ硬くすればいいというのであれば、例えばシリウスの【プロテクション】とかで強化するという手もあるが、あれは瞬間的に強化するものだし、いつ攻撃が飛んでくるかもわからない状態でやるのは難しいだろう。
仮にできたとしても、それ前提の作りではシリウスがいなくなった時に容易に壊れる欠陥建築が出来上がってしまう。
俺はいずれ元の世界に帰る予定だし、いつまでもこの国の王様でいるつもりはない。だから、俺がいなくなった後も機能する構築をしなければならないのだ。
そう考えると、やはりミスリルは必要。でも、ミスリルは数が不足していてとてもじゃないけど使えない。
どうしたものか……。
「……いっそのことミスリルを作るというのはどうなの?」
俺はとあるクラスのことを思い出す。
【ブラックスミス】。鍛冶を行うクラスであり、スキルによって武器を生み出したり、武器に特殊な追加効果を付与したりすることができる。
武器を作るためには素材が必要で、序盤ではそれらの金属は高いのであまり使われることがないクラスではあるけど、その中に使えそうなスキルが一つある。
それが【メタルコンバート】というスキル。素材を複数消費し、よりレア度の高い素材へと変換するか、逆にレア度が高い素材を使って一ランクレア度の低い素材を複数作り出すというスキルだ。
例えば、銅、銀、金という順に素材のランクが上がっていくなら、銅を五個消費して銀を一つ生成する。あるいは、銀を一つ消費して銅を五個生成する、みたいなことができるわけである。
『スターダストファンタジー』でもミスリルという素材はあって、鉄の上位互換素材だった。レートとしては、鉄十個でミスリル一個を生成できるという感じだったかな。
これを考えると、鉄さえ大量にあればミスリルを調達することも可能なのではないかと思う。
「でも、単純にミスリルの十倍の量の鉄が必要になるわけだし、流石に無謀なの?」
ミスリルが不足していることは間違いないが、鉄が有り余っているかと言われたらそう言うわけでもない。
もちろん、ミスリルよりは採掘量も多いだろうし、多少の量であればすぐにでも調達できるとは思うけど、ミスリルの十倍の量ともなれば流石に賄えなくなると思う。
闘技場にどれほどのミスリルが使われるかは知らないが、そこまでするならもうそのまま鉄を使った方がましなのではないかとも思う。
どうせ、鉄すらも壊すのはファウストさんみたいな化け物だけだろうし、壊れたらその度に補修すればいいのではないだろうか。
それとも、ファウストさんみたいな化け物がたくさんいたりする? だとしたらまずいだろうけど、あんな人そこまでいると思えないけど……。
「どうにかして鉄を強化できればそっちの方がよさそうだけど……」
そのままの素材でダメなら、何か手を加えてミスリル以上の強度を持たせるというのでもいいだろう。
鉄だって、そのまま使うよりは合金にした方が使い勝手はいいだろうし、強度だって上がるはずである。
ただ、合金の作り方なんて知らない。二つ以上の金属を混ぜ合わせてできるものなんだろうけど、どんな金属を何パーセントくらいの割合で混ぜたらその合金が出来上がるとか知るわけがない。
もしかしたら、鍛冶屋とかならそれについて詳しい情報を持っているかもしれないけど、それで代用できるならとっくにやっていそうな気がしなくもないし、多分ミスリルには敵わないんだろう。
俺にできることがあるとしたら、それ以外の方法での強化。
スキルに頼った何かでひっくり返すしかないわけだけど、果たして何があっただろうか。
「うーん……」
『スターダストファンタジー』には多種多様なクラスがあり、それぞれに数々のスキルが存在する。
中には別のクラスでも同じようなスキルもあるけど、それらを無視したとしても相当な種類があるのだ。
俺はそれらのスキルを大体把握しているけど、そんな都合のいいスキルあっただろうか?
それこそ、さっき言った【ブラックスミス】の【メタルコンバート】とかだと思うけど、それはちょっと厳しそうだし……。
「……いっそのこと、修復した方が楽だったりするの?」
新しく闘技場を作り直すには大量のミスリルが必要。であれば、今ある闘技場を修復した方がミスリルの消費は抑えられるのではないか?
問題は、修復には莫大なお金がかかるという点だけど、それを何とかできればそっちの方がよさそうではある。
俺の力で修復を容易に進めることはできないだろうか?
「あるとすれば、【リトライトリック】とか?」
このスキルは、フェアリーの固有スキルである。
妖精であるフェアリーは、わずかに時間を巻き戻すことができる。その能力を使って、いたずらを仕掛けるという意味だ。
時間を巻き戻すという特性を持っているので、朽ち果てた闘技場を元の姿に戻せるのではないかとも思うが、多分、そこまで大規模な巻き戻しはできないだろう。
そう考えると、あまり適切なスキルとは言えないかもしれない。
他にも時間に関係しそうなスキルはいくつか思いつくが、時を一瞬だけ止めるとかそう言うスキルばかりなので、これで時間を巻き戻して元の状態に戻すというのは無理そうである。
「となると、【リペア】とか?」
【リペア】は武器などが壊れた際に使用することでそれを修復することができるスキルである。
敵の中には武器破壊をしてくる者もいるので、それらの対策のためにたまに使われることがあるスキルだけど、これならば役に立つだろうか?
一応、用途的には武器や防具を対象にしていると思うけど、フレーバーテキスト的に壊れたものなら何でもよさそうだし、壊れた闘技場の修復も夢ではないかもしれない。
やってみてもよさそうではあるかな?
「とりあえず、色々やってみるの」
幸い経験値はあまりに余っている。
これがレベルの上限が決まっているというのなら少しは渋りもするけど、別に決まっているわけではないし、今更多少レベルの無駄遣いをしたところで問題はないだろう。
それに、【リペア】は後々使えるかもしれないスキルだし、取っておいて損はないと思う。
とにかくやってみるだけやってみよう。そう思い、俺はキャラシを開いた。
感想ありがとうございます。
 




