第百四十六話:捜索に行くために
「だめですね」
「やっぱり?」
とりあえず、エルフの捜索をしたいということを宰相であるナボリスさんに告げてみたが、即答で断られてしまった。
確かに、この国では本来王様が行うであろう仕事をほとんどナボリスさん達国の幹部達が行っているので、俺が直々にやらなければいけないことは、せいぜい来客時の対処くらいだ。
だから、そう言う意味では暇なのだけど、だからと言って城を安易に離れていい理由にならないのが辛いところ。
以前のようにやむを得ぬ事情があるのならともかく、今回はエルフの里を探すというぱっと見ただの宝探しの理由である。
これでは当然ながらナボリスさんも頷かない。
一応、すぐに帰るとか色々言って見たけど、首が縦に振られることはなかった。
唯一あるとしたら、エルフに戦争を仕掛けるという名目なら調査くらいはしてもいいとは言われたけど、そんな喧嘩を売るつもりはないし、その調査にしたって俺でなく他の兵士達がやるという話である。当然ながら、そんな提案を受けるわけにはいかなかった。
そう言うわけで、俺はとぼとぼと部屋に戻らざるを得なかったわけである。
「まあ、知ってたって奴だな」
「どうすればいいの?」
部屋にはシリウスとカインがまだくつろいでいた。
ナボリスさんを説得できない以上、俺が城を離れることはできない。
宮廷治癒術師であるシリウスや、正式にアルメリア王国軍から脱退し、将軍として雇用したカインなんかはまだ派遣できるかもしれないけど、二人に【エレメンタルアイ】を覚えさせるのは正直面倒だし……。
いや、割とありなのか? すでに二人ともレベル20に到達しているし、これ以降はメインのクラスをサポートするクラスを取って強化していくのが基本だけど、今の時点でも十分強いわけだし、別に他のクラスに逃げたところでそこまで問題はないのかもしれない。
近接特化の奴に遠距離である魔法を覚えさせるのはどうかと思ったけど、よく考えたらシリウスはまさにそのタイプだし、魔法剣士という新しい職業と考えれば悪くないのかもしれない。
まあ、欲を言うならすべて万全の状態で取得してからそういうものは取りたいけど、多少順番が前後する程度だし影響は少ないかもしれない。
「シリウス、【エレメンタルアイ】を取得してみる気はないの?」
「今から【キャスター】経由して【エレメンタルマスター】になれって? まあ、別に構わねぇけど」
「本当に申し訳ないけど、私が離れられない以上二人のどちらかに行ってもらうしかないの」
「気にすんなって。どうせセカンドクラスを何にするかは決めてなかったし、ちょうどいいだろ」
シリウスとカインだったら、まだシリウスの方が相性はいいと思う。
【キャスター】には魔法を全体化するスキルがあるから、【アコライト】の魔法の一部も全体化することができる。
まあ、【ヒールライト】に関しては全体版である【エリアヒール】がすでにあるけど、他のバフとかは基本的に単体だし、自分以外にかけるんだったらちょうどいいかもしれない。
カインは近接型だし、相性は悪い方だと思う。覚えても使う機会がなさそうだし、別のクラスを取ってくれた方が嬉しい。
「それじゃあ、お願いするの。経験値は大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。前回の戦争での経験が経験値になってくれたみたいだ」
ああ、確かに戦ったわけだし、経験値は入るのか。
実際に殺したわけではないから入らないと思っていたんだけど、瀕死にまで追い込んだからそれで経験値が加算されているらしい。
まあ、殺してはいないから一人当たりの経験値量的にはそこまで多くないみたいだけど、数が数だから結果的にはかなりの量が舞い込んだようだ。
あれ、となるとシリウス以上に敵を倒していた俺はもっと経験値が溜まっているのでは?
試しに確認してみると、桁が一つ変わっていた。
えぇー……こんなにあったらもはや経験値稼ぐ必要がなくなるのでは? 少なくとも、今ある経験値だけでレベル100にはできると思う。まあ、そんなに上げても意味ないかもしれないけど。
「【キャスター】で前提スキルを取って、【エレメンタルマスター】にクラスチェンジして、【エレメンタルアイ】を取得……うん、こんな感じなの」
「できたか?」
「できたの。キャラシを確認してほしいの」
とりあえず、5レベル分ほど上げて、目的のスキルを取得させた。
経験値さえあればほぼ無限にレベルを上げられるのが強すぎる。能力値もレベルアップボーナスでかなり増えたし、シリウスも順調に人外への道を歩んでいるな。
まじで【手加減】は必須だな。これがなければ、ちょっと本気を出しただけで何でも殺してしまう。
「なんか、目がむずむずするな……」
「ゴミでも入ったの?」
「いや、なんか、疼くというか……あ、厨二じゃないからな」
【エレメンタルアイ】、いわゆる精霊眼という奴だけど、それを取得したせいだろうか。
精霊や妖精は相手が意図的に姿を見せてこない限り、特別な目を持っていないと見えないとされている。
今まで普通の目だったのに、いきなりそう言う特殊な目に変わったから違和感があるのかもしれない。
シリウスは何度か目を擦って違和感を拭おうとしていたが、やがて慣れたのか、目をぱちぱちとさせて辺りをぼーっと眺めていた。
「大丈夫なの?」
「ん、ああ、なんとかな。なんか目がよくなった気がするぜ」
「そんな効果もあるの」
目がよくなるなんて効果は聞いたことがなかったけど、不可視のものを見れるという特性故だろうか。まあ、デメリットではないし、よかったのかもしれない。
さて、これでシリウスは結界が見えるようになったはずだ。後は、エルフの里を見つけるだけである。
「じゃあ、シリウス、さっそくだけど」
「ああ、探してくるよ。カイン、場所の案内をしてくれるか?」
「もちろん。アリスさん、よろしいですか?」
「構わないの。その方がこちらとしても安心するの」
シリウスはだいぶ強くはなったけど、やっぱり足の心配がある。カインが一緒に行ってくれるのなら安心だ。
俺は無理でも、二人なら許可は出してくれるだろう。それすらも却下されたら、もう無理矢理抜け出してやろうかな。
「んじゃ、行ってくる。なるべくすぐ戻るよ」
「期待していてくださいね」
「わかったの。よろしく頼むの」
そう言って、二人は部屋を出て行った。
さて、俺だけ楽をしているようでなんだか申し訳ないが、城から離れられない以上は仕方がない。
もう、期限が来たらすぐにでも誰かに王の座を引き渡してやる。
「さて、私もやるべきことをやるの」
俺は残っていたお茶を飲み干すと、部屋を後にする。
やるべきことと言っても、王としてそこまでやることはないが、他にもやらなければいけないことはあるのだ。
クリング王国で出会ったルナサさんの体を作ることとかね。
そういえば、ホムンクルスの材料にはエルフの聖水というアイテムでも代用できたような気がする。もしエルフの里を見つけられたら、少し分けてもらいたいね。
そんなことを考えながら、訓練場へと向かった。
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