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第百三十九話:裏切りの理由

 アラスはヘスティア王国における交渉人という立場ではあったが、その実態は数々の悪事を働く詐欺師のような奴だった。

 ヘスティア王国は実力至上主義。国王は強さを見せつけなければならず、だからこそ戦争を繰り返していたわけだが、それをやるようになったのは先代の王様であるファウストさんの代からである。それも、就任した当初は普通に闘技大会などを開いてそこで実力を見せていたはずなのだ。

 それを、アラスはいいようにそそのかして周囲の国へ戦争を仕掛けるようにした。

 類稀なる強さを持ったファウストさんは戦争でも大いに活躍したが、相手にされる国からしたらたまったものではない。

 例えば、領土が欲しいとか、技術が欲しいとか、何かしらの理由があるならまだ戦争もわからなくもないが、理由はただ強さを示したいがためというもの。つまり、ただの自己満足のために利用されたわけである。

 しかも、正々堂々ならともかく、アラスは色々と妨害をし、ファウストさんに適度に気持ちよくなってもらうことでこの戦争の正統性を主張していた。

 つまり、今回の戦争の引き金になったのは、アラスの責任ということである。

 アラスがなぜそこまでして戦争を促したのかはわからない。

 周囲の国からのヘイトを集めてファウストさんを殺し、自分が王になるつもりだったのか、それともファウストさんの腰巾着として甘い汁を吸いたかったのか。戦争を繰り返すことによって得た利益を懐に入れていたという可能性もあるだろうか。

 いずれにしても、それは俺がアラスを降格処分にしたことによってできなくなり、アラスは国の幹部の座から引きずり降ろされた。

 ファウストさんもただの強さを示したいだけの脳筋だとわかったし、これでもう悪さはできないはずだった。

 でも、だとしても、全く監視をしなかったのは甘かったのかもしれない。

 おかげで、こうして敵に寝返り、戦争をそそのかす役割を担っているのだから。


「はて、誰なの?」


「なっ!? き、貴様、あれだけのことをしておいて、私のことを覚えていないというのか!?」


「覚えてほしいなら記憶に残るようなことするの。ただの小物の悪党のことなんていちいち覚えてないの」


「この、言わせておけば……!」


 まあ、本当に覚えていないわけではないけど、アラスにはこの方が挑発になるだろう。

 一応、アラスがこんなことをしでかしたのは、俺が降格処分にしたからで、その後厳重な監視もなく解き放ってしまったことが原因だから、俺のせいと言えないこともないけれど、そもそもこいつが変なこと企まなければこんな国になっていなかった。

 おかげでこちらは自分の首が飛ぶかもしれないという不安を抱えながら、あんまり従ってくれない兵士達を必死に鍛える羽目になったのである。

 であれば、これくらいの挑発許されてもいいだろう。

 俺の挑発に、アラスはわなわなと体を震わせていたが、どうにかして怒気を収めたのか、努めて冷静な口調で続けた。


「私はあれから苦労した。お国のために必死に働いてきたというのに、王が変わった瞬間に切り捨てられるとは思いもしなかった。私ほどの逸材はそうはいない。それなのに、それに気づかず切り捨てた君を私は許しはしない」


「だから、寝返ったの?」


「その通り。幸い、サラエット王国の国王は話のわかる人でね。ヘスティアの情報を高く買ってくれたよ」


 あれだけ妨害しておいてよく言う。

 多分、これは表向きの理由だろう。実際は、もうほとんど上に上がる目を潰されたヘスティアを捨てて、成り上がれる別の国に移りたかったというのが本音な気がする。

 アラスが各国の妨害をしていたことが知れていれば、相手さんも考えたと思うが、生憎それらは秘密裏に行われていたことだから知られていない。

 そう考えると、サラエット王国もそそのかされて戦争に踏み切ったんだろうな。可哀そうに。


「それにしても驚いた。そこにいるのはシリウスだろう? 足を完全に斬り落とされていたはずだが、どうして立っていられるのかな?」


「勝手に想像するの」


「君が何かしたことに違いはないようだ。いや、君の能力は本当に惜しい。私の屋敷に忍び込んだのも、今考えれば君の仕業だろう? あの時の手際は素晴らしかった。完全に勝ちを確信していたのに逃げられたのだからね」


「それはどうも」


「どうだい? 素直に投降し、城を明け渡すなら殺しはしないと約束しよう。サラエット王国が要求するのはファウスト元陛下の首だ。その類稀なる能力を提供してくれるというなら、ある程度の優遇措置も取れるだろう。どうだい? 興味はないかな?」


 流石、交渉人だけあって言葉巧みに心を揺さぶってくる。

 まあ、俺の中ではファウストさんの首を渡すことは許容できないし、ここで命乞いをするほど追い詰められているわけでもないから頷く気は全くないけどね。

 ちらりとシリウスを見てみると、ふっと笑ってウインクしてくれた。

 あちらも全然余裕らしい。まあ、レベル20もあればこの世界では相当強いだろうしね。少なくとも、ここで死ぬことはないだろう。

 いざとなれば【シャドウウォーク】で逃げ出すこともできるしね。


「興味ないの」


「それは残念だ。となると、殺すしかないわけだが、恨まないでおくれよ」


「この程度の包囲で殺せると思ってるならおめでたい頭してるの」


「減らず口を。将軍、頼みます」


「うむ。者ども、かかれ!」


 将軍の声を合図に、敵兵が斬りかかってくる。

 しかし、俺はその程度で慌てることはない。シリウスの方を見ると、了解したと言わんばかりに剣を掲げた。


 【プロテクション】


 敵の攻撃を防ぐバリアを展開し、ダメージを抑えるスキル。

 【アコライト】になったのなら、必ずと言っていいほど取らなければいけないスキルであり、その汎用性は相当高い。

 なにせ、すべてのダメージに対して軽減ができるのだ。相手が剣で斬りかかってこようが、魔法をぶっ放してこようが、大砲を撃ち込まれようが、すべて軽減することができる。

 もちろん、限度はあるのですべての攻撃をダメージゼロにするわけではないけど、この程度の攻撃だったらお互いに防御力だけで弾けるくらいには軽減してくれることだろう。

 敵はバリアに弾かれて飛ばされ、その場に倒れる。

 何が起こったの変わらないって顔だな。


「い、今のはなんだ!?」


「【結界】? まさか、シリウスはそれほどまでに高位の治癒術師だったとでもいうのか?」


 慌てふためく将軍に対し、アラスは冷静に分析している様子。

 一応、この世界でも【プロテクション】に似たようなものはあるらしい。

 ただ、そこまで一般的でもないのか、使える人は限られている様子。

 それがどんなスキルかは知らないけど、シリウスのMPが尽きるまではいくら攻撃しようがダメージを与えることはできないぞ。


「アラス、どうすればいい?」


「大丈夫。【結界】はそう連発できるものではない。攻撃を続ければいずれ使えなくなりますよ。ですが、アリスの方にはお気を付けを。近づけばそれだけで武器を奪われる可能性があります」


「よし、皆怯むな! 攻撃を続けろ!」


 どうやら俺の方には攻撃を加えない様子。

 確かに、以前のように【コール・ミカヅキ】で回避を上げ、武器を奪ってしまえば無力化も簡単だが、そもそも攻撃されなかったら意味がない。

 そう言う意味ではいい対処法と言えるかもしれないけど、それだけではないんだよなぁ……。


「シリウス、お願いできるの?」


「俺がやっていいのか? アリスでもできそうだが」


「私の専門は弓なの。近接は任せるの」


「そう言うことなら、了解」


 そう言って、シリウスは剣を構える。

 【クルセイダー】は支援と攻撃を両立するクラス。他の特化したクラスには遠く及ばないが、器用さという意味ではかなり強いクラスである。

 もし、シリウスのことをただの治癒術師と思っているのならその情報は古すぎる。

 まあ、シリウスの訓練は大っぴらに行われていたことではないので知らないのも当然かもしれないが、一緒に訓練していたはずの俺の実力すら知らないようではまだまだだな。

 シリウスが飛び出す。さて、【クルセイダー】の戦い方を見せてもらおうか。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元自国に不意打ちするための新規進攻ルートの開拓する。前線に情報を漏らさない様に静かに都市を落とす。相手の情報を正確に手に入れないと出来無さそうな奇襲作戦を成功させる。 これら全部に関わってる…
[一言] クルセイダー、某キャラクターのせいでドMの印象しかないw
[良い点] アラスはプライド高くて自信満々だから 誰?という挑発は刺さりますね。ざまぁ( ´艸`) [一言] お!シリウスくんの戦いが見れる。明日が楽しみです 足を切り落とされた事の一端を担っているの…
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