第百三十五話:作戦は
打って出るということは、城の戦力をさらに減らすということで、もはや城に防衛戦力は残らないという意味である。
つまり、これに失敗したらそのまま王都になだれ込まれ、負けるということだ。
そうなるくらいだったら、城に籠って籠城戦した方がいい気もするけど、この国の考え方がそれを許さない。
本当に面倒くさい。王様に必要なのは強さではなく、国民を率いるカリスマと国を運営する頭脳だと思うのだけど。
強さなんて、戦うことが仕事の将軍とかが持っていればいいと思うんだけどな。
まあ、愚痴っていても仕方ない。今は目の前のことに集中するとしよう。
あれから三日。偵察に出ていた斥候によって敵の大体の場所がわかった。
敵のルートは王都の南。途中の町を制圧しながら徐々に進んできているらしい。
距離的には王都から約5日の距離。今からこちらが出発するとしたら、多分2日目の夕方辺りに接敵することになるだろうか。
かなり近いけど、とりあえず王都に着く前に迎え撃てそうで何よりである。
で、問題の地形なんだけど……。
「どうやら、接敵すると思われる地点は平原になってるようだな」
「足止めには全然向かない地形なの」
まあ、この辺りは土地が豊かだし、街道も整備されている場所だから平原は珍しくもないんだけど、今回戦うにあたってはかなり面倒な場所である。
広いから単純に横の面積が増えるし、陣地を構えるにもただの平原に構えるのではかなり辛い。
一応、少し下がれば丘があるようだから、そこに陣地を築けば何とかなるかもしれないけど、そこまでは障害物らしいものは何一つないようだ。
まあ、逆に考えれば矢が通りやすいということでもあるけど、少しくらい何か欲しかったなと思う。
「どうする? 正々堂々戦ったらかなりきつそうだが」
「と言っても、それ以外にできることもないの」
矢が通りやすいのだから、先んじて矢を射かけ、警戒させて少しでも侵攻を遅らせつつ、その間に矢継ぎ早に放つってところだろうか。
でも、射撃後にすぐに矢を放つ【ラピッドショット】は追撃にはスキルを乗せられない関係上、【アローレイン】が使えない。つまり、やっても一人しか倒せないのだ。
そうなると、純粋な俺の装填速度にかかっているけど、【アローレイン】はかなり矢を引き絞る必要があるからそんな早くは撃てない。
敵がターン制で行動してくれたら行けるんだろうけどな。いや、1000人規模が全員一人一人別の行動すると考えるとターン制は余計面倒くさいか。普通に全員から攻撃受けたら死にそうだし。
「一応、夜襲をするとか囮を使うとか色々あると思うが」
「夜襲はあんまりする気が起きないの。また何か言われそうだし……」
「まあ、確かにそうか」
「囮も危険に晒したくはないし、やっぱりゴーレムに守らせて時間を稼いでいる間にやるのがいいと思うの」
戦争で犠牲を出したくないとか言ってる場合ではないのかもしれないが、無駄に犠牲を出すよりはよっぽどましだと思う。
特に、今回は俺がどれだけ敵を減らせるかにかかっている。こちらが接敵する前にいかに数を減らし、兵士達の相手を少なくするかが俺の仕事だ。
乱戦になったら、【アローレイン】も使えないだろうし、その後は兵士達の活躍にかかっている。まあ、もちろんその後も弓で援護はするけども。
「俺が囮をやってもいいが」
「それは絶対ダメなの」
確かに、シリウスなら一人でも耐えきれるだろうけど、万が一にも突破されたら命に関わる。
【プロテクション】や【ヒールライト】で粘るとしても、装備は初期装備だから防御力は低いし、普通にダメージは食らっていくだろう。
もちろん、多少槍に刺されようが剣に斬られようが即座に回復できるだろうけど、斬られたら痛いのは変わらないし、わざわざ傷つきに行く必要はない。
もし囮にできるとしたらいくら壊れても構わないゴーレムだろうけど、ゴーレムで囮ができるだろうか? 足止め用に進ませるくらいはできそうだけど、それだけじゃ止まらないだろうしなぁ。
「相変わらずアリスは心配性だな」
「シリウスにこれ以上傷ついてほしくないの」
「ま、その気持ちは嬉しいからいいけどな」
シリウスなりの冗談ってことなんだろうか。でも、シリウスならやれって言ったらほんとにやる気がして怖い。
というか、シリウス的に斬られることに対してはトラウマを持っていそうだけど、もう心の傷は癒えたんだろうか。あんまりそれについて話さないようにしているからよくわからない。
「まあ、心配しなくても大丈夫だろう。俺のバフ魔法だってあるしな」
「ああ、そう言えばそれを忘れてたの」
「忘れるなよ。これでもレベル20なんだからな?」
ついつい俺一人で何とかしようとしていたが、よく考えればシリウスだって十分強い。
特に【クルセイダー】となったシリウスは【アコライト】の基本的な支援の他に特に攻撃バフに特化している。
当然、それは味方にもかけることができるので、兵士達の攻撃力をかなり底上げすることができるだろう。
多少数で負けていようが、レベルも上げてあるし、バフもかけるとなればそうそう負けることはないだろう。
防御面はゴーレムが補ってくれるだろうし、仮に【アローレイン】が通らなくなったとしても、問題なく戦えるはずである。
「シリウス、頼りにしてるの」
「任せとけ。俺だって、ただの足手まといじゃないってところを見せないとな」
まあ、本音を言うならシリウスは城で待機していてほしいけど、流れ的にシリウスも行くことになってしまっている。
ここでシリウスを置いていくと言ったら拗ねそうだし、今回は俺一人ではどうにもならないかもしれないと考えるとシリウスの協力は必要だろう。
回復役がいるかいないかで戦局は大きく変わる。特に、相手には即座に傷を治せる治癒術師などいないだろうから、余計にな。
一人いるだけでも違うのに、アルマさんも合わせれば二人もいる。これほど心強いことはない。
あんまり戦ってほしくはないけど、ぜひとも活躍してほしい。
「アリス、辛くなったらいつでも逃げ出していいんだからな?」
「急にどうしたの?」
「いや、なんか思い詰めているみたいだったから」
そんなに思いつめたような表情していただろうか。
確かに、こうして攻めることが本当に合っているかはわからない。
そもそも、砦でこちらから攻めた時だって、これでいいのかと何度も自問自答したものだ。
それでも攻めると決めたのは、結局この国の在り方のせいである。強さこそが正義で、王様は強さを示さなければならない。だからこそ、弱腰の選択を取ることができない。
できることなら犠牲は少ない方がいいけれど、やり方は犠牲が多く出そうなものばかりで、それを選ばなければならないのだ。
思ったよりも、それはストレスだったのかもしれない。俺は知らずのうちに不安を溜め込んでいたようだ。
顔をパチンと叩き、気を引き締める。
シリウスの言うように、こんな戦争放っておいて国を捨てて逃げてもいいのかもしれないけど、成り行きとはいえ王様になった以上はあまり無責任なことはしたくない。
大丈夫、俺はこのままでもやっていけるはずだ。
「心配しないでほしいの。私は大丈夫なの」
「ならいいが、あまり無理はするなよ?」
「ありがとうなの、シリウス」
さて、シリウスに元気をもらったところでそろそろ出発するとしよう。
すでに出発の準備はできている。後は敵がいるであろう平原に向けて出発するだけだった。
そんな簡単に事が運ぶとは思っていないが、できることなら、最小限の犠牲で済むことを祈る。
俺は自前の弓を握り締めて、覚悟を決めた。
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