第百三十四話:将軍の意見
「お言葉ですが陛下、それは悪手だと思われます」
籠城戦しかないと思っていたが、将軍の一人が否を唱えた。
確かに、敵の数はこちらのほぼ倍。まともに戦っても勝ち目はないだろう。
しかし、今までにもそう言う状況は何度もあったという。そして、そんな状況でもこちらは臆さず攻め、勝利をもぎ取っていったというのが将軍の主張だった。
つまり、守りに行くのではなく、こちらから攻め落としてしまえという話である。
「陛下はファウスト元陛下を下した強者。それなのに、ファウスト元陛下よりも消極的になっては、国民からの支持も下がりましょう」
「それに、城に住人を避難させるというのもよくない。城はいわば、選ばれた者しか入れない高みにある場所。庭に匿うだけならともかく、城内にまで入れるとなると、勘違いする輩も出てくると思われます」
「なにより、王都にまで攻め込まれてしまえば、たとえ勝ったとしても批判は免れません。陛下のためにも、ここは打って出るべきです」
「えぇ……」
将軍の声に対して、他の将軍達も声を上げる。
今までにも数的不利があったのに勝てていたのは、恐らくアラスの仕込みだと思う。
あいつは色々妨害の手を考えていたようだし、恐らく数が揃っていても容易に攻撃できない状態だったか、後ろで何かが起こっていたか、とにかくまともな状況ではなかったんじゃないかな。
で、先陣を切るファウストさんは強いから、混乱した相手であれば負ける道理もなく、強引に押し切れたと。
ただの想像ではあるけど、ファウストさんの戦い方を考えるに、大軍を相手にできるとは思えない。だから、何かしらのトラブルが相手にあったと考えるのが自然だと思う。
そして、兵士達はそんな成功体験を何度も体験しているから、わざわざ守りに行くよりも、攻めてうち滅ぼした方が国民に強さも示せるし、一石二鳥だと考えているってことなんだと思う。
砦にいた時にさっさと攻めようって言われた時もそうだったけど、みんな血の気が多すぎる。
それとも、俺がおかしいのか? 戦争ではこれくらい血の気が多い方が活躍するんだろうか。
「待ってください。相手はこちらの倍はいるのでしょう? いくらゴーレム部隊を連れて行くとしても、城の有利を捨てては不利なのではない?」
「アルマ殿、その程度の不利は不利とは言わないのです。もちろん、陛下はわかっているかと思いますが」
そう言ってこちらを見てくる。
強いんだからこれくらいは当然だよな? とでも言いたげな様子だ。
まあ、確かに、相手が固まってくれているならある程度は【アローレイン】で一掃することができるだろう。
でも、流石に1000人規模の大軍となったら一撃じゃ無理だ。
いくら射程が視界内全域とは言っても、限度はある。せいぜい、一度に相手できるのは100人程度じゃないだろうか。
もちろん、何度も放てばいずれは倒せるかもしれないけど、その間に敵の何人かはこちらに攻撃することができるだろう。そうなれば、数的不利なこちらの被害は免れない。
理想はゴーレムに壁を任せ、その間に殲滅することだけど、血の気の多いこの人達が矢を防ぐ以外の目的でゴーレムを盾にしてくれるかというのも疑問だ。
下手に先走って殺されたんじゃ意味がない。俺は誰も犠牲にしたくはないのだ。
「おい、どうする?」
「うーん……」
隣のシリウスが小声で聞いてくるが、正直将軍達を説得するのは難しいだろう。
仮に俺が自分の意見を押し通して籠城戦を選択したとして、当然ながら将軍達の支持は下がるだろう。
一応、ファウストさんの命令によって俺のことを敬うように言われているのかもしれないが、俺のことを本当の王様と認めている人はそこまで多くないと思う。
いや、確かにゴーレムを作り始めてからは俺も一緒に訓練することも増えたし、俺の強さを知って支持してくれる人はいるけど、そういう人達なら余計に打って出るべきだというだろう。
籠城戦をするとなれば、当然ながら王都に敵兵が入ってくることになる。住人を城に避難させないのであれば、当然彼らは敵兵と接触することになるだろう。
略奪が行われるかもしれないし、抵抗して殺されてしまうかもしれない。
そして言うだろう。こんなところまで敵兵を侵入させるとは今代の王は何をやっているのか、と。
ただでさえ低迷している支持率はがた落ちだろうし、勝ったとしても被害は少なくない。
いくら俺が王様の座は惜しくないとは言っても、戦争が終わった後にそんな針の筵のような状態になるなんて普通に嫌だ。
住人への被害を抑えるためにも、俺の精神ダメージを抑えるためにも、ここは攻めに出て、強さを示す必要がある。
なんとも面倒くさい国だ。さっさと出ていきたい。
「……はあ、わかったの。ここは攻勢に出るの」
「陛下ならそう言ってくれると信じておりました!」
「ではさっそく準備をいたしましょう。時間はあまり残されていないようですからな」
結局、俺は攻めに出ることにした。
確かに、無謀な賭けではあるけど、俺の【アローレイン】があれば敵の大半は削れるだろうし、数的不利は早々になくなるだろう。
それにゴーレム部隊の壁や、シリウスやアルマさんの治療があれば、かなり粘り強く戦えるはずである。
ファウストさんがいないのは残念だけど、まあそれは仕方がない。一応早馬で知らせは出すけど、あの人には引き続き東の森を警戒してもらおう。
「なんか面倒なことになったな」
「ほんとなの」
みんなが会議室から出て行った後、シリウスが話しかけてくる。
まあ、山から侵攻してくることを読めなかった俺が悪いのかもしれないけど、そこは作戦提供をしたこちらの裏切り者が優秀だったということだろう。
こちらの人間ならこちらがどういう風に攻めてくるかを考えているのはわかるだろうし、それを逆手に取った作戦などいくらでも思いつけると思う。
いったい誰が裏切ったんだろう。俺が王様になったことを快く思ってない連中はたくさんいるだろうから、候補は無数にありそうだけど。
「勝てると思うか?」
「【アローレイン】である程度削れば、可能性はあると思うの。もし、相手がビビって足を止めてくれたら、そのまま勝てる目もあるの」
「【アローレイン】でも1000人一気には無理か?」
「流石に無理なの」
「そうか」
1000人規模を一気に葬るようなスキルは『スターダストファンタジー』にはない。
一応、軍団戦という、戦争のように軍同士が戦うルールはあるが、それは戦闘の一部分を切り取り、相手にするのは多くても10体程度だった。
だから、1000人を一気に崩すことは不可能である。
まあ、それでも100人程度だったら捕捉できると思えるだけましなのかもしれないけども。
「まあ、地道に削るしかないだろう。頑張ろうぜ」
「憂鬱なの」
まあ、攻めると言ってしまった以上、今から取り消すことはできないし、頑張って倒しきるしかない。
敵の正確な位置は不明だけど、多分そんなに遠くはないだろうし、偵察を出せばそれなりに把握することはできるだろう。
後はできるだけ足止めできるような地形の場所で迎え撃てればこちらが削り切る未来もある。それを期待していくとしよう。
俺はため息をつきながら、出発の準備をするために会議室を後にするのだった。
感想ありがとうございます。
 




