第百三十二話:制圧された町
町にはすぐに辿り着くことができた。
本気を出せば、馬車で一週間の道のりでも一日足らずで移動することができるのだ。これくらいの距離わけない。
そして、町がどうなっていたかだけど、やはりというかなんというか、制圧されてしまっていた。
遠くから【イーグルアイ】で見てみたけど、町は活気を失って、周りには敵国の兵士が巡回している。
「やられたの……」
情報伝達手段が馬による伝令しかない以上、それを封殺されてしまったら他の場所の情報は一切入ってこない。
そして、町に存在するのは元々常駐している兵士や警備隊のみだから、圧倒的な数がいる軍隊に勝てるわけもない。
あっという間に制圧され、補給線として搾取されていたってことなんだろう。
どうしてもっと早く気づけなかったのか。
いや、確かに今までの定石としてはあの時上げたルートしかなかったし、過去にそれ以外のルートから攻めてきた事例はないから、予想できなかったのは仕方ないかもしれない。
でも、戦争で決め撃ちで動いたりしたら、予想が外れたら総崩れになる。
類稀なる頭脳を持つ軍師とかなら当てられるかもしれないけど、俺はただの高校生、そんな予想がポンポン当たるはずもない。
この侵攻は仕方なかったと言えばそうなのかもしれないけど、それでもやはり悔しかった。
今思えば、あの時攻めてこなかったのは補給線としての役割があったからだろう。あくまで本隊に物資を送るのが目的であって、牽制は二の次だったというわけだ。
それでも、攻めてこられる可能性はあったと思うけど、もしかしたら俺が『草』から情報を得たように、相手もスパイから何か情報を貰っていたのかもしれないね。
俺が戦争に乗り気でなく、こちらから攻撃することはない。そう聞いたからこそ、ああいう手段を取ったという可能性もある。
こちらが情報を仕入れられるのだから、相手だって同じことをしていてもおかしくないのに、今までその可能性を考えなかった俺のミスだ。
いったいどこまで侵攻しているのだろう。
山ルートを通ったってことは、通り抜けるのにそれなりに時間を使ったはず。なら、流石にまだ王都には着いていないか?
いや、ここは最悪の事態を想定しておくべきだろう。すでに王都まで辿り着いているとしたら、残るは最終防衛地点に置いたゴーレム部隊と城の守りを固めている兵士達のみ。
あそこにはシリウスとアルマさんがいるから多少は耐えられるとは思うけど、本隊ということは、それぞれの町にいる制圧部隊を除いても、多分千人くらいいるんじゃないかな?
こちらの数はゴーレムを合わせても、少し負けている。まあ、城での防衛戦と考えるとそんなに早くは落ちないと思うが。
でも、補給を絶たれたらやばいだろうし、侵攻したタイミングによってはもうやばいかもしれない。
「どうする……町を解放して情報を確実なものにするか、それとも王都に直接行くか」
こちらのルートは完全に想定外だったので、恐らく町の中にはまだ市民が残っている。
条約がどうなっているかは知らないけど、流石に市民に手を出しているとは考えにくいし、あってもどこかに監禁しているとかじゃないだろうか。
仮にそうだとして、彼らを見捨てて王都を目指すのはどうかと思うけど、そもそも王都を落とされたら負けなわけだから、そちらの方が優先ではある。
でも、今敵がどのあたりにいるかを把握するのは大事だし、できることなら助けてあげたいというのも事実。
悩ましいところだ。
「……ここは助けるの。情報を得るのが先なの」
考えた末、俺は町を解放することにした。
もし、王都まで侵攻されているとしたら、制圧されている町はこれだけではないだろう。
それらすべてを解放するのは流石に骨が折れるが、一つでも解放できれば、そこから敵の位置がある程度把握できるかもしれない。
位置がわかれば、どれくらい急げばいいのかもわかるし、兵士達を呼び戻すこともできる。
シリウス達のことが心配ではあるけど、ここは冷静に対処していこう。
「よし、行くの」
俺は町に近づき、タイミングを窺う。
町を制圧されている以上、どこに敵が潜んでいるかわからない。
できることなら、司令部のようなところを探し出して潰したいところだけど、そのためにはやはり情報が必要だろう。
そのために、まずは巡回の兵士を落とす。
「ちょっと失礼するの」
「何……ぐっ!」
近寄ってきた兵士の背後に忍び寄り、解体用のナイフを首元に当てる。
思ったけど、戦闘用のナイフも用意した方がいいかもしれない。いつまでも解体用のナイフを使ってたら刃こぼれしそうだ。
「貴様、何者……」
「ヘスティアの兵士だと思ってくれたらいいの。それより、色々吐いてもらうの」
首元にナイフを突きつけるのはいいが、なにせ身長が足りないので、相手に抱き着くような形になってしまっている。
まあ、そのおかげで身動きできないようではあるけど、ちょっと格好がつかないからあんまりやりたくない。
でも、今はそんなこと言ってられないので妥協する。尋問には慣れていないけど、まあ、多分何とかなるだろう。
「ふん、少しはできるようだが、お前一人で何ができる……」
「場所さえわかればこの町の兵士を全滅できるの。まあ、信じるか信じないかは任せるの」
「随分おてんばなお嬢さんだ……何が聞きたい」
「まず、司令部の場所を吐くの」
「言えないと言ったら?」
「その時は首と体がさよならすることになるの」
「え、こわ……」
うん、まあ、これは俺もどうかと思う。
でも、パーツさえ残っていれば【ヒールライト】繋げるし、死んでしまったとしても直後だったら【リザレクション】で蘇生もできる。
もちろん、痛みは感じるからかなりやばいだろうね。死ぬ時の苦痛を味わうってどんな気分なのかな?
とりあえず、思わず素が出るくらいには予想外の答えだったようだ。
「それで、吐くの? 死ぬの?」
「わ、わかった。言うから殺さないでくれ」
あまりに残酷な尋問方法に慄いたのか、案外簡単に吐いてくれた。
司令部の場所や、この町に常駐している兵士の数、それに、いつからこの町にいるかも。
これによると、この町を制圧したのは三週間前らしい。
数に物を言わせて制圧し、伝令も封殺。これはすべてある人の教えらしく、それに従った結果こうも簡単に侵攻できて驚いていたようだ。
そのある人っていうのが、なんとこの国の人らしく、どうやら裏切り者が潜んでいる様子である。
まあ、スパイとかは普通にいるだろうし、裏切り者自体は別に不思議でも何でもないけど、ここまで効率的に攻め入る案を考え出すってことは相当頭のいい人だな。
というか、侵攻が早すぎる。三週間前なんて、まだ敵の姿すら見えていなかったタイミングじゃないだろうか?
山を越えてきたのだとしたら、宣戦布告前に侵攻していない限り不可能な速度だ。
こちらも先んじて砦に戦力を集結させたから人のこと言えないけど、あっちもあっちで宣戦布告前の侵攻をしていると考えるとお互い様って感じか。
まあ、圧倒的にこちらの方が不利だったわけだけども。
とにかく、三週間前にここってことは、今どこにいるかは大体絞り込める。というか、普通に王都に着いていてもおかしくない時間だ。
これは急いだほうがいいかもしれない。
俺は洗いざらい吐いてくれた兵士に礼を言うと、気絶させて縛っておく。
町を解放したらすぐに向かわなくては。
感想ありがとうございます。




