第百三十一話:本隊の居場所
陣地を調べてみたが、あるのは補給物資の記録とかこちらへの偵察の報告書とかばかりで特に有益な情報は見つからなかった。
容赦なく叩き潰したからもし何か残しているなら見つかると思ったんだけど、どうやらそんなにうまく事は運ばないらしい。
まあ、明らかに陽動だから捕まることを想定してそう言う行動をとったのかもしれないけど、だとしたらナバルさん達が少し可哀そうだな。
「さて、ここからどう動いたものか」
とりあえず、こちらの方面から来た敵はすべて制圧できたはず。
後続が来る可能性もあるけど、陽動であるならばそれは考えにくい。
やはり、どこかしらのルートから本隊が来ていると考えるのが妥当だろう。しかし、それがどこなのかわからない。
制圧してからしばらく経っても定期連絡では異常なしと来るばかりだし、東や北から来ている様子はない。
あるとすれば、兵士達の目の届かない場所でこっそりと移動しているかだけど、いくら森の範囲が広大とは言っても来るルートは何となくわかる。
ただでさえ、森を抜けるのは大変なのだから、わざわざ大回りしてくることはないだろうからね。
しかし、その危険を承知で抜けてきたのであれば、どこかから侵入されている可能性もある。
一応、それらを警戒するように連絡は送ったけど、果たしてどこまで効果があるものか。
「とりあえず、このルートから敵が来る可能性はほぼなくなったし、移動すべきだとは思うけど……」
まあ、もしかしたらがなくはないので、最低限の兵士は残していくけど、少なくとも俺自身は別の場所に行った方がいいだろう。
でも、移動するならやはり敵がいるべき場所を特定しなくてはならないし、それがどこかという話である。
詳しい情報を得るために東や北に行くのもありだけど、これまでの定期連絡で何もないなら行くだけ無駄のような気もする。
いや、基地を乗っ取られて嘘の報告をさせられているとかならワンチャンあるけど、そんなことほぼできないだろうしなぁ。
「陛下、報告いたします」
と、そこに将軍の一人が部屋に入ってきた。
ここ最近は、捕虜の移送をどうしようかという話をしていた。
大量の捕虜を抱えてしまったので、このままでは味方もろとも干上がってしまう。なので、彼らを収容所に移送するために近々移動することになっていた。
それまでは、砦にため込んだものと、敵の本陣にあった兵糧で食いつなぐことになっていたんだけど、どうやらそれについて何か報告があるらしい。
「どうしたの?」
「はっ、それが、どうにも兵糧の減りが早く、このままでは移動中の兵糧が持ちません。ですので、出発を早めてはいかがかと」
「兵糧がないの? でも、目録を見て、これくらいなら持つって言ってたような?」
「そのはずなのですが……恐らく、誰かが盗み食いしているのだと思われます。ですが、今はまだ調査中で、誰がやったかは判明しておりません」
「そう……」
一応、兵糧に関しては定期的に近くの町から補給されてはいるが、これだけ一気に捕虜が増えれば供給は追いつかない。
だから、どこかのタイミングで尽きるだろうなとは思っていたけど、案外早いな。
おかしいな。兵糧に関しては、敵本陣に残されていた兵糧の目録を見て、それを含めて計算し、これくらいなら大丈夫と見積もったはずなんだけど。
毎回食べる量は同じのはずだから、それこそ盗み食いでもされない限り間違いはないはずである。
魔物か何かが盗っていったという可能性もあるけど、流石にこれだけ人が集まっている砦に魔物が現れたらすぐに気づく。盗ったとしたら、砦内の人間だろう。
そんな少なかっただろうか。確かに俺は小食ではあるけど、別にそれに合わせて少なくしているわけではないし、普通の人ならそこまで飢えることはない量を渡していたはずだけど。
「……ねぇ、その兵糧って、ちゃんと目録を見て計算したの?」
「はい、そうですが。陛下も一緒に計算していたでしょう?」
「それで足りないってことは、そもそも目録に載っていたものと実際にあった兵糧の数が合ってなかったってことじゃないの?」
一つの可能性として、目録が間違っていたというのがある。
まあ、目録は持ってきた直後の状態を書いたものだろうから、間違っているのは当たり前と言えば当たり前だけど、残されていたものにはきちんといつどれだけの兵糧を消費したかが書かれていた。
もちろん、それも含めて計算したし、書き間違いでもなければ合っているはずなのだ。
つまり、何日分かの兵糧がどこかへ消えているということになる。
「確かにそれは考えられますが、ではどこに消えたというのです?」
「うーん……」
こうして敵に捕まることを考えていたとしても、わざわざ兵糧を隠す意味は薄い。自分達のご飯になるかもしれないし、そこまでして隠したところで何の意味もないのだから。
隠したのではないとすると、どこかに持っていった、あるいは消費した?
そんな消費できるルートがどこに……。
「……そういえば、この山って道があったはずなの」
南の方角には山が存在しているが、この山はかなり険しく誰も利用しないものの、一応道が存在すると聞いた。
ヘスティア王国の南にあるバーンド王国では、時たま行商のために利用する者もいるらしく、その道はサラエット王国まで続いているらしい。
もし仮に、このルートを通っているとしたら、そこに兵糧を送るための補給線として機能していた可能性もあるかもしれない。
「でも、あそこはかなり険しくて、少数でも通るのが難しいって聞いたの。軍隊が通れるものなの?」
行商に使うってことは、多分馬車が通れるくらいの幅はあるだろうけど、そんな道をサラエット王国からずっと通ってきたとなると命知らずもいいところだ。
崖だってたくさんあるだろうし、普通だったらそんな危険なルートを通ってまで行くくらいなら、数に物を言わせて砦を落とした方がいいはずだ。
でももし、そこを移動していたとしたら、まずいかもしれない。
「仮に最初から移動していたとしたら、すでに一か月くらい経過している。通り道の町をすべて制圧して伝令を出せなくして、移動しているのだとしたら、すでに王都に迫っている可能性も……」
かなり薄い確率ではあるが、この考えが合っていたら大惨事だ。
とにかく、連絡を取らなくてはならないけど、今から早馬を飛ばしたところで間に合わないだろう。
確認するのであれば、俺が直接行った方が早い。
「将軍、この場の指揮権を預けるの」
「は? それはどういう……」
「もしかしたら王都が危ないかもしれないの。私は先に行くの」
「あ、陛下!」
俺はそう言って砦を飛び出す。
今回は道の心配をしている場合ではない。全速力で向かう。
【アジリティブースト】をかけ、念のため【シャドウクローク】も使っておく。
多分土煙で気づかれるとは思うけど、姿を見られるよりはましだろう。
もしかしたら、敵が町に潜んでいるかもしれないしね。
「間に合うといいのだけど……」
まずは南。そのあたりにある町を確認する。それで確認が取れたら、王都に行こう。
そう考えて、俺は走り出した。
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