第十四話:レベルアップ
もう寝ようかと目を閉じかけた時、ふと思い出したことがあるので再び自分のキャラシを開く。
確認するのは『レベルアップ処理』の項目だ。
ゼフトさんのキャラシを見て、数千という膨大な経験値を得ているのは魔物を倒した際に取得しているからだ、と推測した。
もしそれが真実ならば、俺も経験値を得ているはずなのである。なぜなら、俺はここに来る道中で十数体の魔物を倒しているのだから。
「さて、どれくらい……えっ?」
タッチしてウィンドウを表示させてみると、ゼフトさんの時と同じように自分の持っている経験値と次のレベルアップまでに必要な経験値が表示されている。
予想通り、経験値は持っていた。しかし、その量は異常で、約1000ほどある。いや、この世界基準では普通なのかもしれないけど、俺の知る『スターダストファンタジー』の設定では明らかに異常だった。
俺が倒したのはホーンウルフを始めとした、いわゆる雑魚である。『スターダストファンタジー』の知識に当てはめて経験値を得るとしたら、せいぜい1とか、多くても5くらいだろう。
それがたった十数体倒しただけで1000近く。一体辺り50から100くらい入っているだろうか。明らかに雑魚を倒して手に入る経験値量ではない。
まあ、それはいいだろう。この世界は色々と『スターダストファンタジー』とは違うことはわかっているし、経験値の仕様が全然違う世界であっても不思議ではない。
問題なのはレベルアップに必要な経験値量だ。
俺の次のレベルアップに必要は経験値量は300。つまり、『スターダストファンタジー』の頃と全く同じ経験値量になっている。
取得できる経験値に対してレベルアップに必要な経験値が少なすぎるのだ。
これはあれか? 『スターダストファンタジー』のキャラだから、その設定通りの経験値でレベルアップできるということか? もしそうだとしたら、今持ってる経験値だけで三つほどレベルアップできるのだが。
「レベルアップ、してみるの?」
あらかじめ経験値を持っていたという可能性もある。しかし、経験値の余りなどは設定していなかったし、その可能性は低いだろう。
たった十数体の魔物を倒しただけで簡単にレベルアップすることが出来る。これが本当だとしたら、俺はとんでもないレベルにまで至ることが出来るだろう。
俺は恐る恐る『レベルアップ』の項目をタッチする。すると、『上昇させる能力値を選んでください』と表示されると共に各種能力値の欄が表示された。
『スターダストファンタジー』では、レベルアップによる能力上昇とは別に、特定の能力値を上昇させることが出来た。つまり、この能力値の中から選べと言うことだろう。
上げられる能力値は全部で三つで、基本的にはそのキャラのクラスに合った能力値を上昇させるのが基本だ。アリスの場合は弓の命中力を上げる器用、攻撃力を上げる筋力なんかがそれに当たる。
セカンドクラスで【アコライト】も取っているから魔法を使うためのコストであるMPに関係する精神力なんかも重要だが、それはNPCスキルの【無限の魔力】によってすべて解決しているため振る必要がない。
キャラの設定もあるため、俺は残りの一つは敏捷に振ることにした。
それぞれの欄をタッチすると、表示されている数値が上昇する。三つタッチすると、能力値の表示は消え、代わりに『スキルを取得するかクラスチェンジするかを選択してください』と出た。
これも仕様通りだ。スキルを取得する場合は二つ選ぶことが出来、クラスチェンジする場合は好きなクラスになって終了となる。だから、クラスチェンジする場合は一つのクラスでスキルを取得していくより持つスキルが少なくなってしまう。
まあ、それでもクラス補正で特定の能力値が強化されたり、そのクラスになっている間だけ使える特別なスキルがあったりと、悪いことばかりでもないのだが。
クラスはレベル20になると、そのクラスの上位クラス以外のクラスになる以外では固定化されて変更できなくなってしまうのだが、代わりにセカンドクラスというものが解放され、メインクラスのクラス補正を受けながら別のクラスになることが出来る。当然、セカンドクラスのクラス補正も適用されるので単純に能力値がかなり上昇する。
俺の場合はメインクラスが【デッドアイ】、セカンドクラスが【アコライト】となっているが、今のところは変更しなくてもいいだろう。かといって、スキルも粗方取ってしまっているため欲しいものはあまりないが。
「とりあえず、スキルを取得、なの」
スキルの取得を選択すると、スキル一覧が表示された。
スキルに関しては基本ルールブックが発売されてからも追加要素を収録した、いわゆるサプリがいくつも発売されていてその種類はかなりものになる。
この膨大な量のスキルからスキルを選択するのも醍醐味の一つだったが、こうして纏められるとその種類の多さに圧倒された。
というか、色々と見慣れないスキルも混じっている。ちらほらと覚えているスキルを見ている限り、どうやらNPCスキルも選択できるようだ。
NPCスキルとはその名の通りNPCだけが取得できるスキルで、強力なものが多い。【無限の魔力】という、スキルを使用する際のMPコストを零にするというスキルもNPCスキルの一つだ。
これに関してはわざわざNPCのMP計算までしたくないという理由で入れただけなのだが、実際に使えるとなればとんでもないスキルだ。
「ん? これは……」
さらに見てみると、スキルの中に【槍術1】というスキルが混じっていることに気が付く。よく見れば他にも【乗馬1】やら【剣術1】やらスキルの後にレベルのようなものがついているスキルがちらほら。
これ、砦の兵士達のスキルだよな? もちろん、こんなスキルは『スターダストファンタジー』ではなかったが、どうやらこれも取得できるらしい。
まあ、弓使いが槍術やら剣術やらを修得しても意味はないと思うけど、でもルールも違う世界のスキルまで取得できるとは思わなかった。
「何を取ろうかな……」
【乗馬1】とかは後々使えなくはなさそうだけど、そもそもアリスの脚力なら下手したら馬より早く走れる。わざわざ馬に乗って移動する場面はほとんどないだろう。
となると……。
「やっぱり、これは重要なの」
俺は結局【アコライト】のスキルからいくつか取ることにした。
もちろん、すでに【ヒールライト】や【キュア】系統などの回復系スキルはいくつか取っている。しかし、【アコライト】になる前に弓関連のスキルと隠密関連のスキル、それに能力値上昇系のパッシブスキルなどを粗方さらって行った関係上、【アコライト】になるのはかなり後半になってからで、取っているスキルもかなり少ないのだ。
別に【アコライト】に関しては冬真がなっていたし、所詮は危なくなったら手を貸す程度のお助けキャラだからそこまで必要ではないと思い、あまり取らなかった。
だが、今は違う。一人だし、自分の身は自分で守らなければならない。
この守るというのは物理的な要因以外も含まれる。例えば、病気だとか、呪いだとか。そう言ったものも自分で対処できなければならないだろう。
それらに対処できるスキルは【アコライト】にはないが、上位クラスである【プリースト】ならばある。だからまずは、【プリースト】になるための前提スキルを取得し、【プリースト】への転職を目指すのが一番だと思えた。
というわけで、3レベル分をスキル取得枠を費やし、スキルを取得した。
NPCスキルとか新たに追加されたスキルにも興味はあるけど、今は自分の身を守ることを最優先で動こう。
すっかりなくなってしまった経験値に少し寂しさを覚えるが、またすぐに貯まるだろうと思い直し、キャラシを閉じる。
【アコライト】は大体のスキルが神に祈りを捧げ……、とか神に愛されし……、とか言う設定が付いて回るけどこの世界には神様はいるのだろうか。もしいるなら、いきなり祈られて迷惑していそうだ。
それとも、『スターダストファンタジー』の神様が存在しているとか? アリスが存在しているのだから神様だっていたっておかしくないかもしれない。
そんなことをぐるぐると考えながら眠りにつくのだった。
感想ありがとうございます。
 




