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第百二十九話:交渉

 翌日。俺は兵を率いて敵を倒すために出発した。

 もちろん、連れていくとは言っても全員ではない。砦の守りも考えなくてはいけないし、せいぜい三割程度の兵士だ。

 100人にも満たない兵士で500人規模の部隊を相手にするのは正直無謀なんだろうけど、そこはゴーレムを作って嵩増ししてある。

 まあ、それでも負けてるけどね。

 でも、今回は兵士達に戦わせる気はない。俺が攻めるからな。

 もしうまく行かなかった時は戦ってもらうかもしれないけど、多分大丈夫だろう。大丈夫だと信じたい。


「すぅー……はぁー……」


 一日ほどかけて道を進み、敵が陣取っている狭路までやってくる。

 途中、少しだけ前進していた敵の部隊とかち合ったが、すぐに【アローレイン】で殲滅することができた。

 確認してみたけど、きちんと死んではいない様子。ただ、本当に死んでいないだけで、大怪我には違いなかった。

 『スターダストファンタジー』では毒などによる継続ダメージで倒れることはあったけど、出血によって消耗して倒れるなんてことはなかった。しかし、こうして現実になった以上は、大怪我をすれば当然動けなくなるし、時間が経てば死んでしまう。

 そう考えると、【手加減】も万能ではないんだなと思った。

 まあ、死んでさえいなければ【エリアヒール】で治せるし、問題はないんだけど、見た目にはまじで死にかけだから心臓に悪い。

 狙って回復量を下げることはできないので、回復させてしまうと傷もすべて治ってしまい、攻撃した意味がなくなると思ったが、彼らは【アローレイン】のあまりの理不尽ぶりに戦意を喪失してしまったらしい。

 大人しくするから殺さないでくれと懇願してきたので、俺はそれを受け入れた。

 うん、まあ、大人しくしてくれるのならありがたい。まあ、それでも危険だろうから縄で縛らせては貰うけどね。


「これだけやれば、本陣にいるのは少なそうなの」


 前進していた部隊はそれなりにいて、全部合わせれば200人は超えているだろう。

 それだけの数がいるのなら、それこそ素直に攻めればいいと思ったんだけど、未だになぜ攻めてこなかったのかよくわからない。


「流石は陛下、敵は何もできませんな!」


「まあ、先手を取れればこんなもんなの」


 正確には先手を取れて、且つ敵が固まってくれていたらという話だが。

 いやまあ、【アローレイン】の説明的に、視界にさえ入っていればいくらでも巻き込めるので、【イーグルアイ】と併用すれば、障害物が少ない場所ならどこまでも攻撃することができるだろう。

 ここには森があるのでそこに逃げ込まれると面倒だけど、【ライフサーチ】で見る限り逃げ込んでいる人はいない様子。

 隠れてでもいなきゃ、即死級の矢が飛んでくるとか、敵からしたらとんだ理不尽だろうな。


「このまま本陣を攻めるの。みんなはここで待機していてほしいの」


「本当にお一人でよろしいのですか?」


「大丈夫なの。その代わり、捕虜の監視は任せるの」


 ある程度進んだところで、俺一人で進むことにする。

 離れている間、捕虜が暴れ出さないか心配ではあるけど、うちの兵士も弱いわけではないし、多分大丈夫だろう。武装解除もしてあるしね。

 そういうわけで、例の狭路へとやってくる。

 【イーグルアイ】で見てみると、結構きちんと陣地を作っているようで、天幕がいくつも並んでいた。

 山側を覗いてみると、やはりというか弓兵が待機している様子である。

 迂闊に近寄ったら撃ってくるだろうな。まあ、わかっていれば対策は簡単だけど。


「そこにいる兵士達。サラエット連合の者だとお見受けするの。私はアリス、ヘスティア王国の国王なの。聞こえているなら、交渉を望むの」


 俺の声に、陣地が騒がしくなる。

 しばらくして、数人の兵士を引き連れて、ちょっと豪華な鎧を身につけた男がやってきた。


「俺はこの部隊の指揮官、ナバルだ。アリス王、わざわざ敵の陣地の真っただ中にたった一人で来た理由を伺いたい」


 いきなり指揮官が出てきてくれたか。ただ、周囲の兵士はこちらをかなり警戒している様子だし、山にいる弓兵もすでに弓を引き絞ってこちらを狙っている。

 少しでも変なことしたら撃つってことだろう。まあ、話を聞いてくれそうなだけましか。


「すでに先にいた部隊は制圧したの。彼らは今、捕虜として丁重に保護しているの」


「……なるほど。捕虜と引き換えに、何かを要求したいと?」


「話が早くて助かるの」


 本当はそんな気なかったけど、せっかく勘違いしてくれたのだから有効活用させてもらおう。

 俺としては無駄な戦いはしたくないのだ。捕虜と引き換えに身を引いてくれるならそれが一番楽である。


「では、要求を聞こうか」


「私から要求するのは、降伏なの。無駄な争いはしたくないから、抵抗をやめて大人しく帰ってほしいの」


「それはできない相談だな」


 俺の言葉に対して、即答してくるナバルさん。

 まあ、そりゃそうだ。捕虜数百人の命は大事だろうが、捕虜として捕まえた以上は下手に殺したりはできない。

 そんなことをすれば、禍根を残すことになるし、そもそもそんな大量の人員をただ殺すだけだってかなりの労力となる。死体の処理だって大変だろうしね。

 なので、捕虜とした以上は、牢屋に放り込んでおくか、あるいはどこかの土地で開拓作業でもさせるのが普通だろう。

 捕虜の返還は戦争が終わった後にゆっくりとすればいい。もちろん、その間捕虜となった人はつらい境遇になるだろうが、無条件で降伏しろという要求を飲めるはずもないのでそこは諦めろってことだろうな。


「俺達は今までに何度もヘスティア王国に苦汁を舐めさせられてきた。この戦争は、その報復であり、捕虜数人と引き換えに退けるようなものではない。それに、今優勢なのはこちらだ。アリス王、あなたはそこのところをわかっていない様子。その気になれば、あなたの命をここで奪うことも可能なんだぞ」


 そう言って睨みを利かせてくるナバルさん。

 相手の国の王様がのこのこと出てきたのだから、敵からしたらこんなチャンスものにしないわけがない。

 何を言おうが相手はただ一人、数に物を言わせて捕えるなり殺すなりしてしまえば、もう勝ちは確定だ。

 じゃあ他の人を交渉役にとも思うけど、そもそも兵士達はみんな交渉する気なんてさらさらないみたいだし、俺以外が言ったところで交渉決裂しましたと言って帰ってくるのが落ちだろう。

 俺しか適任がいなかった。そして、その適任も本当の適任ではなかったとなればもう話しの行く末は決まっている。

 まあ、元々殲滅する気だったし、別にいいけどね。


「私の命はそんなに安くないの。少なくとも、あなた達程度じゃ奪うことはできないの」


「ふっ、王とはいっても所詮は子供のようだ。いいことを教えてやろう。今、高台には弓兵がいて、あなたを狙っている。俺達の言うことを聞けないのであれば、すぐにでもあの世行きになるだろう」


「弓兵くらい知ってるの。それどころか、そっちの森には伏兵がいて、さっきから背後に回ろうとしていることも知ってるの」


「……そこまで見抜いているのか。では、状況は理解しているだろう。こちらから要求する。即座に降伏し、ファウスト元王の首を差し出せ。そうすれば、あなたの首までは取らない」


 やはり、恨みを持っているのはファウストさんのようだ。

 まあ、アラスにそそのかされていたとはいえかなりあくどいことやってたわけだしね。

 いや、あくどいことやってたのはアラスだけで、ファウストさんはただ愚直に突っ走っていただけか。

 どっちでもいいけど、流石にファウストさんの首を上げるわけにはいかない。

 俺はこれ以上の交渉は無理だと考え、一つため息を吐く。

 殺しはしないけど、少し痛い目に遭ってもらおう。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひぇー、HP1で残るというのが現実になるとこんなにも恐ろしい事になるなんて…… 確かに死んではいないのでスキル的にはそうなんだけど、手加減という言葉とはかけ離れた結果でしたね
[一言] 交渉は決裂か~
感想一覧
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