第百二十三話:『草』の報告
部屋に戻ってから例の魔剣を調べてみたが、やはりフレイムソードで合っているらしい。
効果としては、攻撃を火属性に変更するというだけのものだったけど、フレーバーテキスト的には常に熱を発しているため、暖として使うこともできるようだった。
多分、ちゃんとした鞘に入れておかなければあっちこっちに熱を振りまいて大変だろうな。
シェーラングさんは鎧すらも溶かすとか言ってたけど、多分そんなたいそうな能力はない。
攻撃力もそこまで高くはないし、せいぜい多少熱がらせる程度のものだろう。
まあ、使い手の筋力が高ければいけるかもしれないけどね。
「カイン、どこにいるの?」
この剣は間違いなくカインのものだったはずだ。
自分から手放したのか、それとも強引に奪われたのか、それはわからないけど、この世界の武器と比べて俺達プレイヤーが持っている武器は強力なものが多い。
俺の弓だって、本来は雷を纏わせて敵に追撃ダメージを与えるという効果があるし、シリウスの杖も地味ながらMPを増加させる効果がある。
そう言う特殊な効果を持っている武器は希少のようだし、それを手放すのは悪手だと思う。
それこそ、切羽詰まって売らざるを得なかったとか、何者かに無理矢理奪われたとかでない限りは手放すことはなかっただろう。
自分から手放したのならギリギリの状態だったってことだし、誰かに奪われたのならそれも危険な状態だったってことになる。
生きているというのが確認できるからまだ安心できるけど、きちんと安全に生活できているかはわからないのでかなり心配だ。
無事でいてくれるといいのだけど。
「今は報告を待つしかないの」
本当なら今すぐにでもそのアルメリア王国とやらに行ってみたいが、今俺が国を離れると戦争に不安が残る。
ある程度なら返り討ちにできるとはいえ、王様が一人で敵国に行くというのもやばいだろうしな。
幸いにも、アルメリア王国にも『草』はいるらしいし、その人達が有用な情報を送ってくれることを祈るしかない。
俺は若干の不安感を覚えつつ、その日は眠りについた。
それから約二か月が経過した。
停戦条約の期限まで残り一か月ちょっと。そろそろ各地に戦力を分散しておかないとまずいかもしれない。
もしかしたら、停戦条約なんて関係なしに襲い掛かってくる可能性だってあるし、あんまり条約を信用しすぎてもいけないしね。
ここ二か月の間で、兵士達はそれなりに強くなった。
レベルも上がったし、スキルレベルに関してはすでに5に到達している人も多い。
スキルレベルの最大は10のようなので、5あれば素のレベルが低くてもそれなりに戦うことができるだろう。
ちなみに、【格闘術8】のファウストさんは未だにスキルレベルが上がっていない。
やはり、スキルレベルが高くなるに従って、次のレベルアップに必要な経験値の量も高くなっていくようだ。
修行によって得られる経験値は少ないとはいえ、自己鍛錬を欠かしていないファウストさんでも上がらないと考えると、スキルレベル8は相当高いんだと思う。
「しかし、ちょっと面倒なことになりそうなの」
兵士の練度はそれなりで、この短期間の間にこれだけ育ってくれたのなら文句はない。
ただ、問題なのは敵の動きだった。
あれから、『草』から報告があったのだが、どうやら敵は戦力を二分して攻めてくる方針らしい。
すでにサラエット王国には各国から集まった兵士達が集結しており、いつでも攻めてこられるような状況らしい。
その上で、戦力を二つに分け、一つを陽動として、一つを本命として攻めてくる作戦だと言っていた。
ただ、流石に重要な作戦だからなのか、それ以上の情報は手に入らず、その戦力のどちらが囮でどちらが本命かはわからないらしい。
まあ、考えうるルートとしては、以前視察した森ルートと森外ルートの二つが有力だから、そこから来ると仮定すればどっちが陽動でも関係はないんだけど、不安要素として、サラエット王国以外にもいくつか兵士が集結しているという情報が入ってきているのだ。
もちろん、サラエット王国に向かう途中の兵士という可能性もあるが、『草』の人が言うにはそう言うわけでもないらしい。
その集まっている場所というのが、アルメリア王国。位置としては、ヘスティア王国の北側だ。
北側にはサラエット側とは比べ物にならないくらいの広さの森が広がっているし、普通だったらそこを突破していくのは不可能。しかし、アルメリア王国には空を飛べるワイバーン部隊が存在する。
それを使えば、少数であれば森の突破も可能だろう。だが、あくまで少数であって、ワイバーンを乗りこなせない人がいくら集まったところで森の突破は難しいはずだった。
それなのに、兵士が集結している。それが気になるところ。
もし仮に、北側の森をどうにかして突破できる手立てがあるのだとしたら、それはかなりまずい状況だ。
北側は深い森があるからと砦も少なく、あるのは森に近い町が築いている防壁のみ。
流石に、それだけでは何百という兵士は止められないし、止めるとしたらこちらもある程度の兵士を出さなくてはならない。
いくら魔物避けを大量に使って魔物を退けたとしても、それでもあの距離を突破するのはかなりの賭けになると思うんだけど……。
「防衛のためにそっちにも戦力を割くべきか。突破されないことを祈って少数にするか……」
突破してくる可能性があるとしたら、ワイバーン部隊のみ。
正確に何体のワイバーンがいるかは知らないけど、多くても多分三十体とかそこらだろう。
精鋭部隊というならそれでも多いだろうし、ワイバーン自体の戦力も考えると決して弱くはないと思うが、本隊に当てる戦力と比べれば少なくてもいいとは思う。
しかし、もし集結している兵士達が全員攻めてこられる状況になったらきちんと戦力を配置しておかないとまずい。
王都がある場所も若干北寄りだし、もし抜けられてしまったら一気に王都に迫られる可能性もある。
万全を期すなら戦力を三等分して北の森ルートと東の森ルート、そして森外ルートにそれぞれ戦力を割り振るのが適当だろう。
ただ、あんまり等分にしすぎて肝心な戦闘で勝てなかったら意味はないし、できれば重要な部分を多くしておきたい。
これは悩みどころだ。
「今から北を調べている時間はないし、ワイバーンの強さを考えると正規兵は必須なの。逆に、砦がある森外ルートは少ない戦力でもそれなりに戦えはするはず。なら、厚くするのは東の森ルートなの?」
それに加えて城に残す戦力も必要となると、やはり森外ルートは最低限の戦力にせざるを得ない気がする。
東の森ルートの方は最悪砦が使えないし、数が必要になるだろうからね。一番戦力を少なくしやすいのは砦という高い防壁がある森外ルートだけだ。
まあ、そこが一番本隊が来る可能性が高いと考えるとちょっと心配だけど、どのみちそこには俺が行く予定だ。弓が届く範囲なら、多少多くても相手にできるだろうし、問題はない、と思う。
もうそろそろ戦争が始まると思うと胃が痛い。
できれば、お互いに少ない犠牲で済むようにと願うばかりだ。
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