第百二十二話:有力な情報
「これはどうやって入手したのだ?」
「本当に偶然のことでした。私はその時、アルメリア王国にいたのですがね……」
シェーラングさんの話だと、そのアルメリア王国で商売を終え、次の国へと移動しようとしていた時、最近魔物の被害報告が多い地区を通る場面があったそうだ。
もちろん、そんな危険な場所を通るわけだから、その時は護衛を雇い、なるべく早く抜けようと思っていたらしいのだが、そんな時、ちょうどアルメリア王国の騎士達が魔物と戦っている場面に遭遇したらしい。
恐らく、騎士達は被害が頻発しているという報告を受けて、魔物を討伐しに来たのだろう。このままでは巻き込まれると思い、一度引き返して、一日町で様子を見ることにしたそうだ。
翌日、流石にもう討伐されただろうということで同じ道を通り、先に行こうとすると、昨日戦闘していた場所で複数の騎士の遺体が転がっていたそうだ。
どうやら、騎士達は魔物に負けてしまったらしい。あるいは、被害が甚大になって撤退したか。どちらにしろ、ここはまだ安全ではないと思い、早々に抜けて、近くの町で報告してやろうと思っていたが、その時に目についたのがこのフレイムソードだったようだ。
騎士の一人の持ち物だったのか、多少汚れてはいたものの傷などはあまりなく、綺麗な状態だった上に、よく見ると貴重な魔剣だったので、持っていこうと考えて回収していったようだ。
これは窃盗に当たるのではないかと思ったが、道中死亡した冒険者などの遺品を見つけた場合、冒険者の間ではギルドを通して遺族に返すのがマナーだが、別にネコババしたところで罪には問われないようだ。
魔剣なんて珍しいものが、しかも状態がいい状態で転がっていたら、商人としては持っていくしかない。そう言うわけで、大事に取っていたらしい。
「このまま家宝にするのも手かと思いましたが、商人の私が魔剣を持っていたところで無駄に敵を増やすだけ。であれば、相応しい方にお譲りし、金に換えた方が賢明と考えた次第です」
「なるほど」
話を聞く限り、このフレイムソードの持ち主はその騎士達の誰かだったのだろう。
カインは【ナイト】であり、出で立ちは騎士のような恰好をしている。だから、その中にカインがいたとしても不思議はない。
ただ、どんな魔物に襲われたかは知らないけど、カインがそうそう後れを取るだろうか。
カインのスキル構成は、基本的に防御寄りである。戦術的には味方を庇いながら殴るという形だし、防御に関してはレベル5とは思えないほど高かったはずだ。
それが、そのままみすみす殺されてしまったとは考えにくい。
そもそも、キャラシを見てわかるように、カインはまだ生きている。死んでいたなら、キャラシにその情報が書かれているはずだから。
だから、その戦闘によってカインが死んだということはないはずだ。
じゃあ、なんでフレイムソードがそこに落ちていたんだろう。さっきも言った通り、売って金にした後、その騎士達の誰かに買われ、使われていたってことだろうか?
もしそうだとすれば、そのアルメリア王国の近くにカインがいる可能性はあるかもしれない。
これは、ちょっと聞くことが増えたかもしれない。
「一つ聞きたいの」
「はっ、なんでしょう」
「カインという男を知っているの?」
「カイン、でございますか? ……いえ、存じ上げませんね」
「そう……」
もしかしたら知らないかと思ったけど、そんな状況で手に入れたのなら知っているはずもないか。
まあ、これが本当にカインのものかはわからないけど、その可能性は高いし、持っておいた方がいいかもしれない。
さっきも言ったように、しばらくの間シリウスの剣として使うのでもいいし、もしカインに会って持ち主が確定したなら、その時に返せばいい。
今は、カインが近くにいるかもしれないとわかっただけでも良しとしよう。
「こほん。その魔剣はいくらで譲る気なのだ?」
「はっ、拾い物ではありますが、状態もよく、さらに魔剣であることを考えると、金貨600枚でいかがでしょうか」
「600枚か。陛下、いかがなさいますか?」
「貰うの。ちゃんと払ってあげてほしいの」
「承知しました」
金貨600枚はかなりの高額だけど、国庫が尽きるほどではない。
この剣自体がカインの手掛かりになる可能性もあるし、きちんと確保しておかないとね。
「ありがとうございます。この魔剣もふさわしい人物の下に渡って喜んでいることでしょう」
「そうだな。金は後程用意しよう。しばらく客室で待っていてくれ」
「承知しました。ではアリス陛下、これにて失礼します」
そう言って退出するシェーラングさん。
俺はフレイムソードを一度箱に戻し、兵士に部屋に持っていくように頼む。
この場で【収納】にしまってもいいけど、あれはレアスキルっぽいしあんまり見せないほうがいいだろうしね。
「意外と良いものが手に入りましたね」
「魔剣ってそんなに珍しいの?」
「はい。数いる名工の中でもほんの一握りしか魔剣を作ることはできません。それを拾えるとは、奴も相当運がよかったんでしょう」
新品の魔剣なら金貨どころかその上の白金貨を使うこともあるらしいし、金貨600枚は割と安い方のようだ。
拾い物でそれだけ稼いだとなればシェーラングさんもホクホクだろうな。
「しかし、アルメリア王国ですか。確か、サラエット王国の連合の一つだったかと」
「てことは、今回の敵なの?」
「はい。それも、例のワイバーン部隊を持つ国です」
ああ、例の。比較的小さい国らしいけど、ワイバーンを使役しているという点でのし上がってきた新興国家らしい。
今回はサラエット王国の連合の一つに入ったようだけど、今回の戦争が終わったら普通に脱却しそうな予感がする。
まあ、それはどうでもいいんだよ。問題は、そこにカインのものと思われるフレイムソードがあったことだ。
「アルメリア王国にも『草』はいるの?」
「はい。ワイバーンがいれば森を突っ切ることも可能でしょうし、警戒すべき国の一つですから」
「じゃあ、最近軍にカインという兵士が加わった、とか言う情報はないの?」
一つの可能性として、カインがアルメリア王国の軍に所属しているというものがある。
カインが俺と同じようにいきなりどこかにぽつんと立っていたという状況なら、右も左もわからないだろうし、最初にいた国に所属してひとまずの衣食住を確保する、という可能性もある。
俺だって、最初はマリクスの町でお世話になっていたし、強さだけあっても生活はできない。
冒険者という証もこの世界では役に立たなかったしね。
いや、カインの年齢は確か24歳だから、普通にギルドに所属もできそうだけど、そっちに関しては流石に『草』の人でもわからないだろう。
冒険者ギルドなんて、日々新しい人が来てそうだしね。
だけど、軍ならば新しい人が入ればすぐにわかるだろうし、ワンチャンあるかもしれない。
そう思って聞いてみたのだけど、答えはあまり芳しくなかった。
「少々お待ちください。……最近軍に入ったという者はそれなりにいるようです。その中でカインという名前は……報告に上がっていませんね」
「そう……」
もしかしたらと思ったけど、そううまく事は運ばないらしい。
まあ、シリウスみたいにふらふらとさまよっている可能性もあるし、確実に軍に入ったっていう証拠はどこにもないわけだから決めつけるのは早い。
とにかく、アルメリア王国に関しては後程詳しく調べてもらおう。もしかしたら、いるかもしれないしね。
そう考えながら、部屋に戻るのだった。
感想ありがとうございます。
 




