第百二十一話:来客
よくよく考えると、仮に停戦条約が明けてすぐに攻め込んでくるのだとしたら、それまでに色々と準備しておかなければならない。
あらかじめ兵士を移動させて置いたり、物資を運んで置いたり、そうしておかないといざ始まってからじゃ後れを取ることになる。
もちろん、正式に戦争をするなら宣戦布告がなされるだろうし、そこから準備しても間に合うかもしれないけど、初めから襲われるのがわかってるならできるだけ先手は取っておいた方がいいだろう。
そう考えると、半年と考えていた準備期間はもう少し短くなってしまうかもしれない。
兵士の育成はできる限りぎりぎりまでやりたいけど、あんまりやって本番で疲れて動けませんでしたじゃ困るし、そこらへんも考えておかないといけないね。
「ナボリスさん、戻ったの」
「ああ、陛下、お帰りなさいませ。随分と早かったですね?」
「ちょっと本気出したの。おかげで道がボロボロになったけど」
「道がボロボロ? いえ、それはともかく、ちょうど陛下にお会いしたいという方がいらっしゃっています。会われますか?」
「来客? 誰なの?」
「商人の方ですね。なんでも、珍しいものを取り扱っているそうで、ぜひ陛下に見てもらいたいのだとか」
商人ねぇ。
こういう風に、俺に何かを献上しようとしてくる人は結構いる。
国民にとっては頼りない王様でも、商人にとっては右も左もわかっていなさそうな子供が相手なのだから、カモにしやすいとでも思っているのだろう。
おかげで、城の保管庫にはよくわからないアイテムが結構置いてある。
一応、高価ではあると思うんだけど、正直俺は使わないんだよね。
そういうものをよこす商人の魂胆は、俺の機嫌を取ってこの国で商売がしやすいようにするというのが目的なわけだけど、俺も一応貰ったわけだしと思って多少は優遇している。
元々、俺が王様になったことによる最大のメリットは、情報を集めやすいというものだし、その情報源の一つである商人は優遇しておいて損はないはず。
だから、贈り物が微妙でも一応対応しているわけだ。
まあ、今まで有用な情報が上がってきたことはないわけだけども。
「せっかくだし、一応会うの。謁見室でいいの?」
「はい。いつも通り、受け答えは私がしますので、陛下はどんと構えていらっしゃってください」
何も話さなくていいのは楽だけど、いちいち許可を取らないと発言できないのは面倒だよなぁ。
まあ、ナボリスさんなら悪いようにはしないはずだし、俺の意図もわかってくれているので多分大丈夫だとは思うが。
俺は一度部屋に戻ると、服を着替える。流石に、いつもの冒険者の格好で会うわけにはいかないからね。
防御力という観点ではあっちの方が高いし、性能もずば抜けているからあっちの方が安全ではあるけど、やはり見た目は大事らしいから。
謁見室へと向かい、玉座に腰かける。後はその商人とやらが入出するのを待つだけだ。
「行商人のシェーラングがお越しになりました」
「入れ」
しばらくして、謁見室に件の商人が入ってくる。
行商人とは珍しい。大抵は、この国で一旗揚げてやろうっていう商人ばかりだから、行商人がわざわざ謁見を求めてくるっていうのはあまりないことだ。
普通なら、こんな簡単に会えないと思うけど、俺の場合は商人に関しては積極的に会うようにしているから入れたんだろうね。
それか、よっぽど珍しい商品を持っているか。
目の前で跪くシェーラングさんに頭を上げるように言い、話を始める。
まあ、話すのはナボリスさんの方だけど。
「行商人のシェーラングと申します。本日は私のような流れの商人と謁見していただきありがとうございます。旅の途中、珍しいアイテムを入手したので、ぜひともアリス陛下にご覧いただきたく、馳せ参じました」
「ご苦労。では、そのアイテムを見せてもらおうか」
「はい。こちらでございます」
そう言って見せてきたのは箱に収めらられた一本の剣だった。
刀身が白いのに対し、刃は赤く、普通の剣と違ってかなり凝った意匠となっている。
何となく、『スターダストファンタジー』にでてくるフレイムソードという武器に似ている気がした。
「こちら、見目も美しい剣にございますが、その性能も折り紙付きでございます。まずは手に取ってお確かめください」
「うむ。陛下、どうぞ」
「わかったの」
シェーラングさんから兵士に手渡され、一応何か罠がないか軽く調べられた後、持ってこられた箱の中から、俺は剣を手に取ってみる。
すると、持った瞬間熱を感じた。
どうやらこの剣、わずかに発熱しているようである。
ますますフレイムソードっぽいけど、この世界ならこういう剣があってもおかしくはないし、たまたま似ているだけだろうか。
軽く一振りすると、熱が残像のように剣についてくる。火属性の剣、そんな感じかな。
「これは、魔剣か?」
「お気づきになられましたか。その通り、こちらは炎の魔剣となっております。一振りすれば剣に込められた炎が刀身に纏い、どんな硬い鎧もたちどころに溶かしてしまうことでしょう」
「魔剣を作れる鍛冶師は限られているからな。本当に魔剣だとしたら、確かに珍しいお宝と言えるだろう」
「ご理解いただけて何よりです。どうでしょう、こちらをお譲りしたいと考えているのですが、ご一考いただけないでしょうか?」
「ふむ……」
まあ、ナボリスさんの反応を見る限り、この世界ではかなり珍しいものなんだろう。
俺は剣は使わないけど、シリウスが使う剣にちょうどいいし、最終防衛ラインの強化に役に立つっちゃ立つ。
ただ、それよりも気になるのは、このフレイムソード、本当にこの世界のものか?
俺は気になってキャラシを開いてみる。
確か、フレイムソードって、カインの初期武器じゃなかっただろうか?
そう思ってカインのキャラシから装備欄を見てみたけど、そこにはフレイムソードの代わりにショートソードと書かれていた。
ショートソードも『スターダストファンタジー』の初期武器候補だし、むしろ金額を考えるとこっちの方が断然可能性は高い。
俺の勘違いだったんだろうか? うーん……。
「陛下、いかがなさいますか?」
「……ねぇ、ちょっと入手した経緯を聞いてみてほしいの」
「入手手段ですか? 確かに気になりますね、聞いてみましょう」
ナボリスさんが小声で聞いてきたので、念のために聞いておくことにした。
これが仮に、カインの持ち物だったとしたら、なぜ手放してしまったのかが気になる。
一応武器を持っているってことは、お金に困ってって可能性もあるだろうか。珍しい魔剣を売って、新しく安い剣を購入したと考えれば、一応辻褄は合う。
そして、それが巡り巡ってシェーラングさんの下に来たというなら、カインの居場所の手掛かりになるかもしれない。
そう考えれば、聞いておいて損はないはずだ。
俺は若干期待しつつ、回答を待った。
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