第十三話:スキルの仕様
キャラシを見られるということはその人物のスキルを見られるというわけなのだが、見ているとそのスキルが俺の知っているスキルと異なるものだということがわかった。
例えばゼフトさんは【槍術6】というスキルを持っている。まあ、これは読んで字のごとく槍術を使えるということなんだろうが、これは俺が持っているスキルとはちょっと違う。
俺が持っているスキルは【イーグルアイ】だとか【ハイジャンプ】だとかそのスキルを持つことによって特別な行動をすることが出来るようになるというものである。弓を扱ってはいるが、【弓術】のようなスキルがなくても弓は扱うことはできるし、ないからと言って素人のように扱いが下手というわけでもない。
つまり、俺が持つのは弓を使うことでできるスキルであって、【弓術】というスキルではないということだ。
翻って、ゼフトさんが持つスキルは槍を扱うことが出来るという行為そのものがスキルとなっている。しかも、その後ろにはレベルのような数字がついている。
これはつまり、槍を使うことによって使用できるスキルなどは持っておらず、代わりにその技量がレベルという形で表示されているということだろう。
完全にスキルという概念の捉え方が異なっている。そう考える他ない。
レベル6がどれほど強いのかは知らないが、他の兵士と比べる限り中々強そうだ。砦一番の実力者というのは本当らしい。
「やっぱりこのキャラシなんかおかしいの」
おかしな点は他にもある。例えばキャラクターレベルだ。
ゼフトさんを例に取ると、レベルは15となっている。辺境の砦にいるにしては中々に高レベルだ。しかし、能力値を見てみるとレベル15とは思えないほど数値が低い。
もちろん、一般人と比べたら遥かに強いだろう。しかし、冒険者としてはせいぜいレベル3くらいだろうか。
明らかに能力の上昇幅が低すぎる。これじゃあ、レベルアップ時の能力上昇ボーナスをほとんど無視しているのと同じだ。
レベルアップも仕様が異なるのだろうか。だとしたら、ますますこの世界は俺の知らない異世界ということになる。そうなったら、俺が持つ『スターダストファンタジー』の知識はほぼ役立たずということになってしまう。
なかなか厳しい現実を見せつけられたようで思わず顔を顰めてしまう。しかし、悪いことばかりでもない。
「これだと、だいぶ私が有利なの」
レベル15で冒険者のレベル3と同程度ということは、単純計算で私と同じレベルに到達するにはレベル150が必要である。
ゼフトさんは、兵士というからにはその辺の一般人よりはかなり強いだろう。兵士の中でどの程度の立ち位置かはわからないが、仮に一般的な兵士だったとしても俺の能力は飛びぬけていることになる。
つまり、仮に襲われたとしても十分に対処できるということだ。
右も左もわからない異世界。何が起こるかわからない。魔物もいることだし、戦闘力を持つことは大事だ。だから、少なくとも弱くはないということが知れて少しだけ安心することが出来た。
「さて、他には……」
まだ『キャラクターシート閲覧』みたいに何かおかしな点があるかもしれない。
食い入るようにキャラシを眺めていると、案の定見慣れぬ項目を発見した。
『レベルアップ処理』
言葉自体は聞き覚えがある。プレイヤーはシナリオをクリアした際に手に入る経験値を使ってキャラをレベルアップさせることが出来る。
これにはゲームマスターの許可が必要で、必然的にゲームマスターはそのキャラのレベルアップを見届けることになる。
俺はゲームマスターをやることが多かったし、当然レベルアップ処理も何度かやってきた。
だから、言葉自体は不思議なところはない。問題は、その中身だ。
「だいぶ経験値量が多いの……」
タッチしてみると、現在持っている経験値と次のレベルアップまでに必要な経験値が表示された。
『スターダストファンタジー』の世界観においてはレベルアップごとに10、20と増えていく。例えばアリスをレベル31にレベルアップさせたければ300の経験値が必要になるというわけだ。
一シナリオ辺りに手に入る経験値の量はゲームマスターが決めることになっている。これは倒した魔物の量や強さ、あるいは依頼の達成度などを加味して判断されることが多い。多くの場合は一シナリオクリアすれば一つレベルアップできるくらいの経験値が手に入る。
それに比べ、ゼフトさんが持つ経験値量は数千とかなり多い。
これならレベルアップし放題じゃないかと思いきや、次のレベルアップに必要な経験値量も数千とまた多かった。
どうやらレベルアップの仕様も違うらしい。いい加減覚えられなくなってきたぞ。
「経験値は魔物を倒して手に入れているの?」
『スターダストファンタジー』で言うなら、シナリオをクリアするまでは経験値は手に入れることはできない。しかし、現実世界となればシナリオなんて区切りは存在しないだろう。
となれば、単純に魔物を倒したとか修行をしただとか、そういう方法で手に入れているのかもしれない。
魔物の蔓延る未開地に隣接する砦なら魔物の襲撃も多いだろうし、それで経験値を得られるのならこの量も納得かな。ただ、レベルアップに必要な経験値量は多すぎると思うけど。
これはつまり、俺が魔物を数体倒せばレベルアップできるのと違い、この世界の人は何十、何百と倒してようやくレベルアップできるということになる。
必然的に魔物を倒す量は激増するだろうし、それでいてレベルアップ時の能力上昇ボーナスもないならだいぶ生きづらい世界だ。
「これ、レベルアップできるの?」
ゼフトさんが持つ経験値は次のレベルアップに必要な経験値を上回っている。つまり、レベルアップが可能だ。
『レベルアップ』という項目があったので試しにタッチしてみると、『本人の同意が必要です』と出てきた。
なるほど、確かに他人が勝手にレベルアップしたら色々と問題があるだろう。本人の同意は必要だ。
とはいえ、逆に言えば本人の同意さえあればレベルアップできるのか。
この世界のレベルアップがどういう風に行われるのかは知らないけど、普通は自分でレベルアップするものだろう。それを同意が必要とはいえ他人がいじれるのは凄いことではないだろうか?
どうにも、お助けキャラだからという理由だけでは説明できない力が多すぎる。これは何かしら別の要因がありそうな気がしてきた。
可能性があるとすれば、俺がゲームマスターだったということだろうか。
普通、ゲームマスターはただの進行役でキャラを持たない。それを強引にキャラを作り、プレイヤーのパーティに入ったのがアリスだ。
『キャラシ閲覧』も『レベルアップ処理』も考えてみればゲームマスターの特権ではある。とするならば、俺はゲームマスターとしての力を使えるということなのではないだろうか。
「チートなの……」
キャラ作成の手順をすっ飛ばした強キャラの身体、相手のキャラシを見れる能力、それにレベルアップ操作。チートと呼ぶにふさわしいだろう。
もしかしたらまだまだあるのかもしれない。なにせゲームマスターはそのシナリオにおいては神にも等しい権力を持っているのだから。
この力を喜ぶべきなのか恐怖するべきなのかよくわからないけど、とりあえずあまり人に知られない方がよさそうだなというのはわかる。
どう考えても面倒事の種だし、今は大丈夫でもその内悪用してくる人が出てくるかもしれないし。
このことは黙っていようと決め、俺はキャラシを閉じた。
感想ありがとうございます。
 




