第百二十話:実際に見てみて
砦は結構強固なようで、城壁も十分な範囲があるようだ。
これだけあれば、ちょっとやそっとでは陥落することはないだろう。
もちろん、適切に兵士を配置していればの話だが。
地形としては、北側に森、南側は山になっている。
一応、山にも道はあるようで、バーンド王国の人々は時たまその道を利用しているようだが、かなり険しい道で、滑落事故も多く、危険な道として有名なようである。
流石に、わざわざそんな危険な道を通ることはないだろう。通ったところで砦を一つスルー出来るだけで、後ろにはまだ砦はないことはないし、砦一つのためにする危険としては大きすぎると思う。
この道を通ってくるとしたら、まず間違いなくこの砦が機能するはずだ。
で、攻める場合だけど、それなりに奇襲を受けやすい場所ではある。
特に、砦から少し行ったところには森と山に挟まれたかなり狭い道があるようで、そこで待ち伏せしていれば一方的に攻撃されることになるだろう。
まあ、それはこちらも同じことなので、どちらがその場所の地の利を得るかという勝負になりそうな気がする。
今回はこっちが防衛側だからこちらがとることになりそうだけどね。
そこを抜けていくと、しばらくしてサラエット王国の砦があるはずだ。
これはファウストさんからの情報なので、多分間違いはないだろう。実際に戦争を経験しているのだから、それに関する知識はそこそこ高いと思う。
サラエット側の砦もこちらの砦と同じような造りらしく、抜けるにはそれなりの覚悟をしなくてはならない。
そして、補給線もそこだと思うので、もしその砦を破壊できれば、一気に有利にはなりそうだけど、回り込むには森を抜ける必要があるのでちょっと難しいだろうか。
まあ、そう言う小細工はあまりしなくていいかな。多分、砦くらいなら正面から壊せるし。
「こちらで気を付けるべきはあの狭路くらい。となると、やっぱり森の方が気になるの」
こちらは道がある程度整備されているからお互いにどう動くか読みやすいけど、森の方はあまり予測できない。
一応、今までに森を使われたことはないようだけど、連合となって数が増えた今なら、そのルートを使ってきてもおかしくはない。
森には決まったルートはない。あらかじめ森を調査し、通るべき道を作っているなら別だが、そうでないなら方角を頼りにまっすぐ進んでいくくらいなものだろう。
当然、魔物も普通に存在するので、それらをどうにかする必要があるが、逆にそれさえなんとかできればお手軽に奇襲を仕掛けることができる。
確か、森側にも砦はないことはないが、森から抜ける場所によってはその砦は機能しない。
なにせ、森が広がる範囲はかなり広い。それらすべてを城壁で覆えるほど森の重要度は高くないし、ただ単に森から出てくる魔物を防ぐだけだったら町に防壁を築くだけで充分である。
なので、森の近くにある町は防壁がある町も多い。だから、そこに兵士を配置していればある程度籠城しながら戦うことは可能だと思う。
ただ、その場合、運が悪ければ市街戦になるだろうから、町の人達を避難させておかないといけないね。
いつ来るかもわからないのに避難しろというのもちょっと酷だけど、それで本当に敵が来てしまったら命が危ないし、これに関しては早めにお触れを出しておいた方がいいかもしれない。
「とりあえず、森の方もちょっと見ておくの」
俺は森の中に分け入っていく。
今回は魔物を倒すのが目的ではないので、【ライフサーチ】を使いながらなるべく魔物は回避していく。
深い森だけあって、森の中に入ると結構暗い。今は昼過ぎだが、これだと夕方以降に移動するなら松明などの明かりが必須になるかもしれないね。
まあ、俺は【暗視】があるので必要ないんだが。
森の浅瀬はともかく、少し奥に入ればほとんど人の手が入っていないのがわかる。
森はヘスティア王国の人達にとって森の恵みを手に入れることのできる場所であると同時に、魔物の巣窟という見方をされているらしい。
なので、多少腕に自信のある者や、生活に困窮して仕方なくといった形で森に入っていく人は多いようだ。
浅瀬の方であれば、そこまで危険な魔物はいないようだが、それでも一般人にとって魔物は脅威である。
今までにもそれによって亡くなっている人はかなりの数いるようで、町によっては森に入らないように制限をかけている場所もあるようだ。
それでも冒険者などは入って行っているみたいだけど。
そう言えば、冒険者って戦争の時どうするんだろう。依頼すれば力を貸してくれるんだろうか?
なんか、イメージ的には無理そうな気がする。そう言うのは冒険者じゃなくて傭兵の仕事だろうし。
「ちょっと上から見渡してみるの」
俺は適当な木に登り、そこからさらに【ハイジャンプ】を使用して森を上から見ることにした。
どこまでも広がってそうな森ではあるが、先の方には町のようなものが見える。
恐らく、あれがサラエット王国の町なのだろう。森を迂回するルートでは結構な距離がありそうだけど、森を突っ切ってくるならせいぜいかかって二日とか三日ってところだろうか。
まあ、足場の悪い森だし、さらに魔物の対処も考えるともうちょっとかかるかもしれないけど。
なんかこれしか距離が離れてないとなるとちょっと不安になってきた。
なんで今までここを抜けるルートを取らなかったのかが気になってくる。
「ここを抜けてくるとしたら、迎え撃つのはあの町なの」
こちらも森から抜けて奇襲をかけるなら、森の中でばったり出会うなんてことにもなりそうだけど、もし防衛を意識するなら近くにあったあの町だろう。
あそこは防壁もあるし、守りにはそれなりに力を入れているようだから戦力を集められれば何とかなるとは思う。
どう守るかも大事だけど、どう攻めるかも大事だよなぁ。
「うーん、作戦としては、まず防衛して、できればそこで話し合いを要求し、あわよくば和解するっていうのが一番だけど、それは多分無理な話だし、ある程度蹴散らしてから話し合いって形にはなると思うの」
初めから話を聞いてくれるんだったら戦争なんてしかけてこない。
やはり戦争に勝利し、話を聞いてもらえるくらい弱らせる必要があるだろう。
もし話し合いに持っていければ攻める必要はなくなるわけだし、それが一番楽なんだけど、果たしてどうなることやら。
「隠されたルートのようなものは見つからないけど、それがあっても大丈夫なように兵士を多めに配置しておく必要はありそうなの」
今のところ、俺が森外ルートの砦で待ち構え、森ルートへの警戒は他の兵士とファウストさんに任せる予定である。
攻めるとしてもファウストさんがいれば士気は高いだろうし、配置的には問題ないだろう。
もし問題があるとすれば、全く別のルートから来ることだろうか?
今のところ、俺が思いつく限りでは今のルート以外にないけれど、もし何かあって、そこから攻められたらやばいかもしれない。
まあ、そんなの考え始めたらいくらでもルートは見つかるだろうし、言ってもしょうがないっちゃしょうがないけども。
ひとまず、地形の把握はこんなものでいいだろう。後は、作戦を完全に固めるだけかな。
そう考えて、俺は城へと戻るのだった。
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