第百十八話:戦う覚悟
【マシンボディ】による義足の生成はうまく行った。
今、シリウスの足にはメカメカしい銀色の足がくっついている。
確か、【マシンボディ】は見た目は自由に選べたはずだけど、シリウスは肌色に近づけることはせず、そのままの色を選択したようだ。
「そっちの方がかっこいいだろ?」と言っていたけど、俺としては元の足に近づけけていた方が違和感も少ないと思うんだけどな。
まあ、シリウスの趣味に口を出す気はない。重要なのは、これできちんと歩けるようになるかどうかだ。
「シリウス、調子はどうなの?」
「いい感じだな。ちょっと重くてバランスがとりにくいが、しばらくすれば慣れるだろう」
この世界に機械の義足なんてない。機械自体はあるかもしれないが、ここまで高度なものは存在しないだろう。
スキルの影響で作ったものとはいえ、こんなものまで作り出せるとなるとスキルを自由に取れるって凄いことだなと思う。
「やっぱ足があると違うな。断然歩きやすい」
「それは当然なの」
「ついでに敏捷も上がったしな。言うことなしだ」
一応義足なので、接続不良なんかが起こる可能性もあるかなとも思ったけど、最初から体の一部だったかのように自由に動かせるようだ。
敏捷が上がったのは足を機械化した影響だろう。腕とかなら筋力が上がったかもしれない。
まあ、機械化するだけだったらいくらでも変えれるけど、上がる能力は一つだけだからそこまでするのは見た目を変える以外ではないかな。
「さて、これで足の問題はなくなった。今なら十分戦えるぜ」
「あんまり無理しないでほしいの。まだレベル11だし」
「レベルに関しては俺もガンガン上げていくつもりだから大丈夫だよ。まあ、ゴーレムを用意してもらう必要はあるが」
「まあ、そのくらいなら問題はないの」
石や土はいくらでもある。いや、土の方は日々消費してるから少しずつ減って行ってるけど、追加でシリウスの分を作るくらいは訳ない。
コアに関しても、無理しない範囲で量産を続けているし、ゴーレム軍団を作り出すことも可能だろう。
いっそのこと、城の防衛はそれらに任せて、兵士はみんな前線に送るとかでもいいかも?
いや、いくらゴーレムが頑丈とは言っても弱点はあるのだし、それはだめか。
結局、兵士の割り振りに関しては頭を悩ませることになる。
「アリスも自分のレベルを上げた方がいいんじゃないか? 今でも十分強いが、念のためにも」
「うーん、あんまり暇がないの」
「自主練の時間も取れないのか?」
「大体兵士の訓練と魔石もどきの作成で時間を取られてるの」
自分が死なないようにするためには自分のレベルを上げるのが一番手っ取り早いが、それは今は難しい。
まあ、兵士達と一緒にゴーレムを倒していくなら少しは経験値を稼げるかもしれないけど、基本的にゴーレムは兵士の訓練に当てたいし、俺が倒しまくってたら絶対足りなくなる。
魔石もどきの数もそこまで余裕があるわけではないし、夜の作製をさぼったらすぐに枯渇してしまうだろう。
そもそも、今の俺のレベルは61。この世界だったら、すでに300レベル以上の計算である。
これだけ高ければ、今の時点でも俺を真正面から倒せる奴はいないだろうし、レベルに関してはそこまで気にしなくていいんじゃないだろうか。
まあ、念のためにスキルを追加しておきたいというのはあるけども。
「まあ、それなら仕方ないか」
「そこまで心配しなくても、私は負けないの」
「それはわかるが、心配なものは心配なんだよ」
「それはこっちの台詞なの」
心配してくれるのはありがたいが、レベル的に心配なのはシリウスの方だろう。
レベル11は、この世界だったら大体50ちょっと。それだけあれば、並の相手には負けないとは思うが、シリウスはあくまでも支援役だ。
いくら戦う力を手に入れたとは言っても、もしかしたら負ける可能性もあるし、それによってまた拷問を受けるなんてことになってほしくはない。
「わかってるよ。だから俺は城に残って最終防衛地点を守ろうと思う」
「前線に出たいと言わなくて安心したの」
「まあ、アリスに前線を任せるっていうのはちょっと心苦しいがな」
「私なら心配ないの。軽くひねってやるの」
「できるのか? 相手は人だぞ?」
相手は人。そこが確かに不安要素ではある。
相手が救いようのない悪人とかならまだしも、今回相手にするのは今までヘスティア王国に虐げられてきた国の兵士達だ。
彼らからしたら、悪なのは圧倒的にこちらだし、俺だって、相手を悪人として見ることはできない。
というか、できることなら話し合いで解決したいと思っているし、本当は戦争なんてしたくないのだ。
だけど、すべてを丸く収めるためには少なくとも一回は戦って、勝たなければならない。
そのためには、相手の兵士を倒す必要がある。
俺の弓なら、簡単に大量の人を殺めることができるだろう。【アローレイン】を使えば一瞬だ。
だけど、何の罪もない人を、俺のために殺せるかと言われたらそんなことはない。
そんな人達を殺して、果たして俺は正気でいられるのか。それが一番の問題だった。
「……もちろんなの」
「声が震えてるぞ。相手を一番多く倒せるのは間違いなくアリスだが、それが実行できるかは心次第だ。もし自分で倒す気なら、覚悟はしておいた方がいいと思うぞ」
「覚悟……」
一番いいのは、自分では戦わず、兵士達に戦ってもらうことだろう。
この調子でレベルを上げていけば、それなりに使える戦力にはなるだろうし、適切に戦力を配置することができれば、兵士達だけでも押し返すことはできると思う。
でも、自分は安全なところから見ているだけで、兵士を戦わせるだけの王様に誰がついてくるだろうか。
特に、この国では強さが何よりも大事である。戦争だって、自分の力を誇示するためにやっていたのだから、王様自らが先陣を切って敵を倒すくらいのことはやらないと国民に示しが付かない。
こうして戦争しようとしているのは、国民を納得させるためでもあるのだからそこで逃げ腰でいたら意味がない。
そうなると、自分が相手をした上で、相手を殺さない立ち回りが必要になるだろう。
普通に撃つだけで魔物を一撃で殺せるような弓でどうやって殺さないようにするかが思いつかないが。
「……なるべく、善処するの」
「辛くなったら俺に言え。少しくらいは、気が楽になるかもしれないしな」
「ありがとうなの」
あえて弓を使わないというのも手ではあるが、それでは大量の相手をすることはできない。
いや、一応他の武器でも範囲攻撃をできるスキルは存在するから、それを取得すればできなくはないけど、どっちにしろ殺してしまう可能性を考えるとあまり意味はない。
むしろ、相手を生存させる確率を考えれば、矢の方がまだましなのか? 体内に矢尻が残る可能性を考えるとちょっと微妙だが。
あんまり生存を考えすぎて倒せなければ意味はないし、範囲攻撃をどうやって無力化するだけの攻撃にするか。
これに関しては、じっくり考える必要がありそうだ。
ひとまず今は、どのルートから敵が来るのか、どのルートで攻めるのか、それを考えるべきだろう。
俺は問題を横に置いておいて、ルートを考えるのだった。
感想ありがとうございます。
 




