第百十七話:侵攻ルート
今回相手となるサラエット王国だけど、ヘスティア王国の東に位置する隣国である。
国と国の間には広大な森が広がっているが、少し南にずれれば森もないので、攻め入られるとしたらそのルートになるだろう。
森には強力な魔物も多数存在するらしいし、それを無視してまで突っ切ってくるかと言われたら……まあ、可能性はゼロじゃない。
なにせ、今回は相手は数がいるのだ。数に物を言わせて魔物を倒し、進軍してくる可能性はなくはないし、一応魔物避けというか、魔物が嫌がる匂いを出す植物を使った松明を使って魔物を退けさせるという手段もあるようだから、それを使ってくるという可能性もある。
それに加えて、北には連合の加盟国がいくつかいる。
北の森は東以上に広大だから突破するのは恐らく不可能だと思うけど、それでも例のワイバーン部隊を使えば突破できるかもしれない。
幸い、クリング王国は今回連合に加盟していないようだから西から攻められることはないけど、それでも北と東の二方面から来る可能性があるのが怖いところ。
で、こちらから攻めるとしたら、連合の長であるサラエット王国なわけだけど、これは同じく森に阻まれているので南にずれるか、森を突っ切るかの二択になる。
第三の選択肢として、南から海に出て、そこからぐるっと回り込むなんてルートも考えられるけど、海に面した南のバーンド王国は連合加盟国なので通るのは無理がある。
まあ、小さな国だからせいぜい物資支援くらいしかしないと思うけど、そっちの警戒も一応した方がいいんだろうかね。
そう言うわけで、海ルートはなし。行くとしたら、森ルートか森外ルートかになるわけだ。
「シリウスはどう思うの?」
「まあ、普通に考えるなら森を避けるルートなんだろうけど、それじゃあ十中八九ぶつかるだろ?」
「それはそうなの。だから、どちらにしろそっちに防衛戦力は送る必要があるの」
こちらはほぼ包囲されている現状、それぞれの方向に防衛戦力を置く必要がある。
幸い、それぞれの場所には砦や要塞があるので、そこを使って防衛陣地を築くことは可能だけど、問題は兵士の数だ。
今現在、きちんと訓練している兵士は千人余り。それに加えて徴兵によって集める平民兵士がその倍くらいいると考えて、大体三千の軍勢だと考える。
それだとして、攻めてくると考えられるルートは今のところ四つ。まんべんなく分けるなら約七百ずつ分けるべきだろうけど、それじゃ本隊とかち合った時に勝てない部隊が出てくる。
つまり、どこから本隊が来るかを予想し、そこに万全の戦力を割り当てる必要があるわけだ。
今のところ、一番怖いのはその森を迂回するルート。だから、そこに正規兵を多めに割り当てたいところだ。
「そこを馬鹿正直に抜けるか、それとも森を通って奇襲をかけるかってところか。兵士達は森の魔物を相手にできるのか?」
「多分、できるの。すでにクレイゴーレムくらいなら余裕で倒せているし、雑魚くらいなら簡単だと思うの」
もちろん、ゴーレムと森の魔物では戦い方が全然違うだろうが、レベルとステータスは裏切らない。この調子でレベルが上がっていけば、いずれ余裕で魔物を倒せるくらいにはなるだろう。
ただ、森で相手にするのが雑魚ばかりとは限らない。もしかしたら、もっと強い魔物と出会ってしまう可能性もある。
奇襲をかけるつもりでそこで損害が出てしまえば、負けは確定。ちょっと怖いところ。
「アリスはどこへ行くつもりなんだ?」
「迷ってるの。森ルートか森外ルートのどっちかではあるんだけど」
相手の本隊がくる可能性が高い森外ルートは一番戦力が欲しい場所。
俺なら、遠距離から大量の相手を狙えるし、一気に相手の戦力を削るチャンスでもある。
しかし、そうなってくると森ルートをどうするかという問題が出てくる。
俺が囮となって本隊を引き付けている間に森ルートで奇襲をかけるとしたら、魔物の遭遇が怖い。そうでなくても、予想が外れて相手の本隊が森ルートに進んだ場合はかなり辛い戦いになるだろう。
では森ルートに行き、部隊の護衛をしながら奇襲をかけるかと言われたら、それも難しい。
森外ルートに相手の本隊が来てしまったら、今戦力で押し返せるかどうか。
いや、流石に全戦力投入すれば勝てるだろうけど、他の防衛もしないといけないからそれは無理だし。
自分の部隊を信じて森に送り出し、俺が敵を殲滅するか、味方を護衛し、攻められる前に決着をつけるかと言ったところか。
果たしてどっちがいいんだろうか。
「アリスはどう考えてもこっちの最高戦力なんだし、敵をたくさん倒せるほうに進んだ方がいいと思うが」
「てことは、森外ルート?」
「そうなるな。それに、アリスの足なら、仮にヤマが外れても走って駆け付けられるだろ?」
「ああ、確かに」
馬車よりも速く走れるのだから、異変に気づけさえすれば駆けつけることは可能だろう。
ここまで育ててきた兵士がそう簡単に負けるとも思わないし、それだったら兵士を相手にできる方に行った方が賢い選択かもしれない。
「後、俺も今なら多少の戦力にはなれるし、森にはファウストを送れば戦力的にも十分だろう」
「シリウス、戦うつもりなの?」
「そのつもりだが?」
「え、でも、その足じゃ……」
確かにシリウスは今【クルセイダー】となって、剣を扱えるようになっている。
しかし、流石に片足がない状態ではスキルに頼っても無理があるだろう。
だから、シリウスには城で大人しく待っててもらうつもりだったんだけど……。
俺のために戦ってくれるのは嬉しいけど、勇気と無謀は違うものだぞ?
「まあ聞けよ。アリス、お前なら知ってるんじゃないか? 体の一部を失っても、それを補うことができるスキルを」
「え? そんなスキルあったの……?」
「あるだろう? ほら、一般スキルの一つだ」
「一般スキル……もしかして、【マシンボディ】?」
【マシンボディ】は筋力、体力、敏捷のいずれかを上昇させる代わりに、魅力を減少させる効果がある。
フレーバーテキストとしては、体の一部が機械であるというスキルだ。
多分、本来は体の一部を機械に置き換えて、力を強くしたり防御力を高めたりするのが目的だと思うんだけど、確かに体の一部が欠損していて、その部分を機械の体に置き換えているとも取れなくはない。
というか、そっちの方が現実的だし、無理なく足を作ることも可能だろう。
しかもこれ、スキルの取得だから【ホムンクルスクリエイト】のように素材を必要としない。
スキル枠を一つ潰す代わりに足が生えると考えれば、かなり有用なスキルかもしれない。
「俺も最近まで思いつかなかったんだがな。これなら、簡単に足を何とか出来るだろう?」
「確かに……でも、経験値は?」
「そこはほら、ゴーレムを倒せば」
「ああ、なるほど」
すでに経験値の問題はあってないようなものだ。特に、シリウスのようなプレイヤーはレベルアップに必要な経験値が少ないし、余計にね。
戦争が終わるまでは足は治せないと思っていたけど、機械とはいえ代わりができるのはいい意味で誤算かもしれない。
それでもシリウスを参加させるのは少し心配だけど、最終防衛地点に配置する分には【ヒールライト】も使えるし適任ではあるだろう。
俺は早速ゴーレムを作り出す。なんだかんだ何とかなる気がしてきた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




