第百十五話:気が付いたら
ゴーレムを相手にした訓練は結構きついものらしい。
兵士達は、今まで行ってきた戦争の経験がそれなりにあるようだが、それでもこんなに硬い敵は見たことないと言っていた。
いやまあ、石なんだから普通の人間よりは硬いだろうけど、相手だって鎧とか着てるだろうし、硬さに関してはそこまで変わらないどころか鎧の方が硬いまでありそうな気がするけどな?
と言っても、中身が違うから何とも言えないけど。
硬いおかげで剣で攻撃すると手が痺れてしまうし、練習用の刃がない剣だったとしても歪んだり削れたり損傷が激しく、とてもじゃないけどこんな訓練を毎日続けていたら身体的にも物資的にも無理だと言われてしまった。
うーん、確かに練習用とはいえ剣が使えなくなっちゃうのは問題だなぁ。
まあ、それに関してはストーンゴーレムじゃなくてクレイゴーレムにすれば硬さの問題に関しては解決できるだろう。
泥なら硬くて切れないってことはないだろうしね。
逆に手ごたえがなさ過ぎて困るってことにもなるかもしれないが、そこらへんは兵士同士での模擬戦を絡めて慣れすぎないようにしておきたい。
素材も多分集められるだろうし、そっちの問題は大丈夫だろう。
問題なのは、兵士達の士気の低さだ。
「一応、見ている間はやってくれているけど、それ以外はさぼりも多いの」
兵士の数は千人以上に及ぶ。当然、そんな数を一気に訓練するなんて無理なので、俺が直接教えられるのは行けても百人程度。
そうなると、他の兵士達は自主練という形になるのだけど、今までが今までだったせいもあって、さぼりが続出している。
一応、真面目な兵士もいて、俺が課した訓練メニューをこなしている人もいるが、かなりの少数派。
これでは、一向に強くならない。急に訓練内容を変えられて面倒くさいのはわからないでもないけど、まじで国の存亡がかかってるのだから真面目にやってほしい。
「うーん、なかなかうまく行かないの……」
俺、そんなに間違ってることやってるかな?
確かに、俺は王様なんてやりたくはないと思っているけど、それでも国が崩壊しないように色々と考えているつもりだ。
それなのに、国民も兵士達も全然ついてきてくれない。
辞められるんだったら今すぐにでも辞めたいけど、それはできないと言ってくるし、まじで俺はどうしたらいいんだよ。
頭痛くなってきた。
「……とりあえず、ストーンゴーレムは実戦投入の時に作るとして、訓練用のクレイゴーレムを量産しないと」
石を運ぶついでに土に関してもお願いしておいたので、すでに素材は潤沢に揃っている。
コアとなる魔力の籠った石に関しても、訓練が終わった後夜なべして量産しておいたので、十分な数が用意できている。
後は【ゴーレムクリエイト】を用いて量産してやればいいだけだ。
「……あれ?」
そう思って立ち上がったのだが、なぜか視線が下がっていった。
なんでだろうと思ったが、それが自分が倒れているからだと気づいたのは、顔に床の冷たさを感じてからだった。
おかしいな、なんで倒れたんだろう。躓くものなんてなかったと思うけど……。
起き上がろうと思っても体がだるくて起き上がれない。というか眠い。瞼がどんどん下がっていく。
「あ、これ、ダメな奴……」
そんな言葉を最後に、俺は意識を手放した。
気が付くと、俺はベッドの上に寝かされていた。
頭が少し痛い。どうやら熱があるようで、体がポカポカしている。
額の上には濡れたタオルが置かれており、誰かが看病してくれたということがわかった。
「私、どうなって……」
「あ、起きたか?」
起き上がってみると、隣にはシリウスとアルマさんがいた。
どうやら看病してくれていたのは二人らしい。シリウスはわかるけど、何でアルマさんまでいるんだろう?
俺はぼーっとした表情で二人を見ると、アルマさんが心配そうに話しかけてきた。
「朝、アリスが起きてこないから様子を見に行ったら、倒れてたって聞いたから心配したわよ。大丈夫? 調子は悪くない?」
「……ちょっと頭が痛いの」
「一応、【治癒魔法】はかけたんだけど、やっぱり病気には効きにくいのかしら」
アルマさんにそう言われ、俺は気絶する前のことを思い出す。
あの時は何でかわからなかったけど、この体のだるさと熱が出ていることを考えると、多分過労による発熱だろうな。
この一週間、昼は兵士の訓練、夜は魔石の製作を繰り返していたから、あんまり寝ていなかった。
一時間以上全力疾走しても疲れないのだから、スタミナには自信があったんだけど、流石に無理をしすぎたようだ。
「いや、だいぶ楽になってる方なの。ありがとう、アルマさん」
「私は【治癒魔法】をかけただけだから、お礼はシリウスに言って。各所への報告とか、アリスをベッドに寝かせるように指示したのはシリウスなんだから」
「そっか。シリウスもありがとうなの」
「仲間なんだから当たり前だろ」
俺が訓練場に出てこなかったから兵士達はきっと右往左往していたことだろう。
停戦条約が切れるまでに何としても兵士達を強化しなくてはと思っていたけど、それを気にしすぎるあまり自分の体調管理がしっかりできていなかったようだ。
いくらアリスが優秀とは言っても、流石に疲労は感じるらしい。今後はしっかりと休む時は休まないといけないね。
「今、どれくらいなの?」
「夕方だ。だいぶ疲れが溜まっていたようだな」
もう夕方なのか。結構な時間眠ってしまったらしい。
残念だけど、今日の訓練は無理そうだな。
「アリス、一人で背負いすぎだ」
「えっ?」
「そりゃ、ゴーレムを作ったらどうかって言ったのは俺だけど、俺にだって手伝えることはあるだろう。忙しいんだったら、言ってくれていいんだぞ?」
「そうね。私も今は宮廷治癒術師なのだし、遠慮なく命令してくれていいのよ?」
確かに、シリウスは俺が王様ならと宮廷治癒術師の座に収まってくれたし、アルマさんもその治癒能力はよく知っているから一緒に宮廷治癒術師になってもらったけど、まさかそんな風に言われるとは思わなかった。
でも、確かに今までは一人で背負いすぎていたかもしれない。
訓練に関しては、俺が教えなきゃいけないことも多いだろうけど、ゴーレムが導入されれば、戦闘訓練は俺が監督しなくてもできるだろう。
そもそも、俺一人では兵士達全員の面倒を見ることはできないし、もっと他の人に仕事を割り振ってもよかったのだ。
それができなかったのは、俺が王様の仕事に慣れていなかったというのも大きいだろう。
誰かに命令できる立場になんてなったことないしな。
「……ごめん。次からは気を付けるの」
「そうしてくれ。王様だからって、自分だけで頑張る必要はないんだから」
まあ、そうは言われても初めから命令できるとは思わないけどな。
でも、シリウスとかアルマさんとか、心を許している相手にだったら少し頼みごとをするくらいはしてもいいだろう。
いくら兵士が強くなっても、俺が倒れてしまったら意味がないんだから、無理をしない範囲で仕事を割り振っていかなくちゃね。
俺は二人の優しさを感じつつ、体を休めるのだった。
感想ありがとうございます。




