第百十三話:経験値を稼ぐ方法
『スターダストファンタジー』において、経験値を手に入れる方法は主に二つ。
一つは魔物を倒すこと。もう一つはシナリオをクリアすることだ。
ただ、現実となったこの世界では、恐らくシナリオという一つのくくりがない。あるとすれば、それは恐らく人の一生が終わった時とかだろうな。
だから、実質経験値を手に入れる手段は魔物を倒す以外にない。
一応、その他の要素として修行をすることで多少の経験値を得ることはできるようだけど、それで手に入る経験値はかなり少ないので、あまり考えない方がいいと思う。
では、魔物を倒すべきというのはわかるが、そもそも魔物とは何か。
これは、ホーンウルフやらデスマンティスやらのまんま魔物以外にも、防衛装置と言った機械的なものでも、なんなら敵兵とかでも魔物と呼ぶことになっている。
要は、プレイヤーに立ちはだかる敵はみんな魔物なわけだ。
それを考えた時、一つ行き当たる経験値の稼ぎ方がある。シリウスはそれを言っているのだ。
「まさか、味方同士で殺し合わせて強い奴だけ育てるの……?」
「アホか。蟲毒じゃないんだからそんなことやらねぇよ」
違うのか。
いやまあ、シリウスがそんな非人道的な手段を取らないとは思ったけど、割とありそうな選択肢だと思ったんだけど……。
やばいやばい、アリスの思考にかき乱されるな。いや、これはアリスの思考なのか?
アリスは熟練冒険者として割り切る時は割り切る性格だと思っているが、流石に味方兵士を殺し合わせてなんて考えはしないだろう。
となると、今のは俺自身の考え? ……こわっ。
「アリス、確かお前【セージ】になったんだよな?」
「うん。今は【ニンジャ】だけど」
「なら、【アルケミスト】も通ったんだよな?」
「もちろん。……あ、そういうことなの」
「わかったか?」
【アルケミスト】は錬金術によって様々なものを作り出すスキルだ。
主に使われるのは【ポーションクリエイト】系で、作りだされるポーションは序盤から終盤までお世話になることがある。
だが、作れるのは何もポーションだけではない。上位クラスである【セージ】が【ホムンクルスクリエイト】を覚えるように、【アルケミスト】も生物のようなものを作り出せるのだ。
それが【ゴーレムクリエイト】。【ホムンクルスクリエイト】と違って永久的に稼働させることはできないが、簡単な命令をこなすゴーレムを作り出すことができる。
序盤のクラスだからか、要求される素材も安く、コアとなる魔力の籠った石さえあれば、その辺の石や土から作り出すことができる。
もちろん、ただこれだけではあまり意味はないが、ここで魔物の定義が関係してくる。
魔物とは、プレイヤーに敵対して襲ってくる者のことを言う。そして、魔物を倒せば経験値を得ることができる。
では、ゴーレムに攻撃するように命令して、それを倒した場合どうなるか?
経験値が手に入ってもおかしくはないだろう。
材料さえあれば無限に作り出せるゴーレムと、それを倒すことによって得られる経験値。それらが合わされば、レベル上げなんて簡単だ。
まあ、自分で作るものだから、経験値が限りなく少なく設定されているって可能性もなくはないけど、ゴーレムを相手に実践訓練はできるし、普通に訓練するよりはよっぽど効率的に経験値を稼げるだろう。
レベルが上がらなかったとしても、スキルレベルを育てられるなら十分に意味のある行為である。
「うまく行くかはわからんが、試してみる価値はあるんじゃないか?」
「シリウス天才なの。流石は私が認めた男なの」
「よせよ。照れるぜ」
ゴーレムを作るのに必要なのは、コアとなる魔力の籠った石と、体となる石や土。
そして、魔力の籠った石は多分簡単に量産できると思う。
俺は試しにその辺に落ちていた石を拾う。
魔力の籠った石というと、純粋な魔石が必要になるとも思うが、ただ魔力を込めるだけだったらこうして握って意識を集中させれば、ある程度移すことができる。
少し握りしめた後、手を開いて石を鑑定してみる。すると、『微弱な魔力が籠った石』に名前が変わっていた。
「うん、大丈夫そうなの」
「魔石って作れるのか。買うだけじゃないんだな」
「まあ、これは私の解釈だけどね」
この方法は正規の方法ではない。
『スターダストファンタジー』において、こうしたアイテムを手に入れるには特定の魔物を倒すか、後は購入するしかなかった。
そして、シナリオ中に特定の魔物を倒すのはほぼ無理なので、基本的には購入することになる。
でも、それだと序盤で装備やアイテムにお金を使ってしまった冒険者はスキルを活かすことができない。だったら、ある程度のMPを消費して粗悪品を作るくらいはできてもいいのではないかと考えたわけだ。
実際、そういうスキルもある。MPを消費して、簡易的な傷薬を作りだす【マジックハーブ】とかね。
これを許可するかはゲームマスターによると思うけど、俺は許可していた。なので、多分できるだろうなと思っていたら、案の定だ。
これ、俺の裁定次第でいくらでも常識を捻じ曲げられそうだよな。まあ、あまりに無理なものは無理っていうからそこまで便利になるわけではないと思うが。
「これを繰り返せば、ゴーレムの量産は簡単にできそうなの」
「そうだな。というか、これならゴーレム兵を作るのもいいんじゃないか?」
「戦闘に耐えるようなゴーレムを作るとなると、粗悪品の魔石じゃ無理そうだけど……まあ、壁くらいにはなれそうなの」
この世界の戦争では、近接兵が交戦するまでに弓や魔法による遠距離攻撃の雨を浴びせられることもしばしばらしいので、それを防げる壁という意味では役に立つかもしれない。
材質を石にすれば、矢くらいは弾くだろう。魔法は知らんが。
「希望が見えてきたの」
「そりゃよかった」
「シリウス、アドバイスありがとうなの」
「俺にはこれくらいしかできないからな。お前が死んだら俺だって困るし、頼むぜ?」
「任せるの」
さて、そうと決まれば素材の確保をしなければ。
いくら石や土でいいとは言っても、その辺の地面を掘り返すわけにもいかない。
やるなら、影響の少ない場所に穴を掘るべきだろう。
しかし、ただ穴を掘るってだけでも時間はかかりそうだし、できれば石材屋とかから石を買って、早々にゴーレムの確保に動きたいところだ。
石の確保はナボリスさんに任せれば用意してくれるかな。どこに何が売っているかとかはよく知らないし、土地を探すにしてもナボリスさんならいい場所を見つけてくれることだろう。
さて、忙しくなってきたぞ。まずは魔石の量産からだな。
一体のゴーレムにつき一つのコアが必要になるので、とりあえず先んじて数個作っておこう。
小さなものでいいなら、その辺に結構落ちてるしな。
俺は石を拾いながら城へと戻る。両手いっぱいに石を持った俺の姿を見て、門番が首を傾げていたが、まあ気にしないでほしい。
さあ、作るぞー。
感想ありがとうございます。
 




