第百十一話:兵士の練度
まず、必要なのは兵士の育成だろう。
あと半年程度で何ができるのかと思うが、やらないよりはましだ。
それに、俺がレベルアップをしてやれば多少のレベルアップでも十分強くなる可能性はあるし、今からでも間に合うかもしれない。
そう言うわけで、この国の軍の資料を見てみたんだけど……なんというか、弱い。
いや、全員弱いわけではないよ? 将軍とか、幹部クラスになればレベル30後半くらいのレベルの人もいる。
だけど、通常の兵士。これに関してはかなり弱かった。
平均で大体レベル10程度だろうか。数はかなり多いけど、その分レベルはそんなに高くない人ばっかりである。
強さこそが尊ばれるこの国で、なんでこんなにレベルが低いんだろうか。
隣のクリング王国だって騎士のレベルは大体30くらいはあったのに。お金がなくて練度でカバーしていたマリクスの町の兵士だってレベル10は超えてたぞ。
スキルのレベルに関しては書かれてなかったので直接見てみないとわからないが、これでスキルレベルも低かったら今まで何をしていたんだと言いたい。
レベルが低くても、スキルレベルが高ければそれなりに戦えるのはわかっているから、せめてそっちだけでも高くなってくれていたらいいのだけど。
「それで? 兵士の訓練はどういう風に行っているの?」
「はっ、それぞれが高みを目指し、思うがままに訓練しております」
「……思うがままに?」
「はい。参考までに、私は毎朝一時間ほど素振りをしております」
とりあえず、城に常駐している兵士達を集めて日頃どんな訓練を行っているのか聞いてみたんだけど、そしたら頭が痛くなるような答えが返ってきた。
思うがままに訓練してるってことは、決まった訓練がないってことだ。
それはすなわち、人によって訓練量にかなりの差が生まれるということである。
だから、一部の努力家な人達はどんどん強くなって幹部に昇進し、そうでない人達は兵士止まりなんだと思う。
素振り一時間ってなんだよ。一日一時間素振りするだけで強くなれたらここの兵士達はみんな歴戦の兵士だろうよ。
誰もが強くなって偉くなってやろうという思考の持ち主というわけでもないらしい。ほどほどでいいって人も多いようだ。
「これは問題すぎるの……」
せめて、みんな同じ訓練をして、その上で各自強くなるために自主練しているっていうならまだましだけど、そうでないなら何の意味もない。
これは、早々に直させないと。
「はぁ……みんな、よく聞くの」
集まった兵士達は俺の言葉に一応こちらを向いて気を付けをしている。
まあ、聞きわけがいいだけましなのかな。これで言うこと聞かなかったらぶん投げてるところだ。
「正直に言うの。今のお前達は弱い、弱すぎるの!」
「よ、弱いでありますか」
「決まった訓練もなく、ただその日の気分で訓練してるだけで強くなれるわけないの。この程度なら、全員束になってかかってきても私は倒せないの」
兵士達がざわつき始める。
こんな小娘相手に束になっても倒せないと言われて少しむっとしている人もいる。
だけど、割と冗談抜きで勝てないと思う。弓を縛ればそれなりの勝負はできるかもしれないけど、それでも勝つことはできないだろう。
それほどまでに、力の差は歴然なのだ。
「このままでは、次の戦争で確実に負けるの。だから、新しい訓練メニューを用意するの」
「し、しかし、この訓練方法はファウスト元陛下の訓練法でして……」
「そんなの知ったこっちゃないの。強くなりたいと思うなら従うの」
「は、はぁ……」
ファウストさんがやっていた訓練方法と同じか。まあ、確かにあの人なら強くなるために自主練は欠かさないだろうし、それを真似たというのであれば納得できなくもない。
だが、ファウストさんの訓練は素振り一時間程度じゃすまないだろう。血のにじむような努力をしてきたに違いない。そうでなければ、スキルレベル8なんて行くものか。
訓練法だけ真似して、中身が伴っていないなら何の意味もないのだ。
「ひとまず、名前と役職を教えるの。役職ごとに、訓練する内容を伝えるの」
数だけは多いので、すべての兵士の名前を覚えるのはかなり大変そうだが、そこは何とかするしかない。
少なくとも、名前さえわかればキャラシ閲覧ができるし、それを見て今後どういった指導をすればいいかは見えてくるだろう。
あと半年しかないのだ。休んでいる暇はない。
「まずお前から。さっさと名乗るの」
「は、はっ!」
そうして兵士達のチェックが始まった。
強さこそが正義の国だけあって、軍事にはそれなりに力を入れているようで、施設は豊富にあった。
各地には要塞や砦も作られているようだし、バリスタや投石機なんかの兵器も完備している。訓練施設に関しても、剣や槍を始め、弓などに対応した専用の訓練場もあった。
一部森を切り開き、ゲリラ戦の訓練もできそうである。全く使われていなかったが。
まじで、よくこれで今まで勝てていたものだ。
「流石に一日じゃ終わらないの……」
とりあえず、名前を調べる作業だけでも一日では終わらない。
正規の兵士のみならず、戦争時に徴兵される非正規兵士も含めたら確認だけでも一週間はかかるだろう。
流石にそこまでやってられないので、城に常駐している正規の兵士に絞って名前を調べたが、それでも三日はかかった。
それで、ようやくキャラシを見られるようになったわけだけど、案の定スキルレベルもそこまで高くなかった。
そりゃそうだ。碌に訓練してないんだもん。
まあ、それでも最低でもスキルレベル2はあるから、全くの素人ってわけではないと思うけど、流石にこの程度でレベル10にも届かないのでは話にならない。
せめて、スキルレベルは5は欲しいところ。5あれば、レベルで負けていてもタイマンで戦ったらそれなりの勝率にはなるだろう。
問題はどうやってそこまで上げるか。
「とりあえず、スキルレベル3になるまでは基礎練習させて、その後は魔物狩りをしたい、かな。レベルアップも考えないといけないの」
経験上、ただ素振りなどをするだけではスキルレベルは上がりにくい。上がらないことはないけど、貰える経験値量がかなり少ないと思うのだ。
やはり、効率的に上げるなら模擬戦か実戦がいい。パーティを組んでいれば経験値は分配されるし、ある程度育ったら森に遠征に行くのもいいだろう。
……いや、遠征なんてしてる暇ないか。
立地的に、魔物が住む森まで行くには片道で五日はかかる。しかも、大人数ともなれば足は遅くなるだろうし、もっと時間はかかるだろう。
往復で大体二週間かかると仮定して、それを全部隊に施すとなると、流石に半年では無理がある。
となると、魔物を相手にした実戦は無理だ。やるなら模擬戦くらいしかないかな。
「うーん、割と絶望的なの」
まあ、数回程度なら遠征もできなくはないかもしれないけど、その間城に残っている兵士達が真面目に訓練するかどうかもわからないし、それだったらまんべんなく育てた方がましな気もする。
どっちがいいんだろう。少しでもとがらせた方がましなんだろうか?
俺は一部だけ育てまくるっていうのはあんまり好きじゃないからできればまんべんなく上げたいけど、それはただの我儘だし。
でも、これが正解なんて道はない。手探りで探り当てていくしかないのだ。
「とりあえず、明日から訓練開始なの」
考えていても仕方がない。今はやれることをやっていくしかないのだ。
俺はそう考えて、訓練メニューを考えるのだった。
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