第十二話:キャラクターシート
カステルさんが作る夕食に舌鼓を打ち、寝床である休憩室へと戻ってくる。
もちろん、この部屋も掃除済みだ。最初はくすんだ壁の印象が強かったが、今では汚れを落としたせいか少し部屋が明るくなったようにさえ感じる。
洗濯は朝のうちに済ませ、干した服もすでに回収してある。
一度洗濯ものを回収しに行った時、屋上を警備している兵士の一人が俺が干していた下着をじろじろと眺めていたという事件があり、それ以来早朝に起きてさっさと洗濯を済ませてしまうという結論に至った。
いやまあ、わかるよ? こんな女っ気のない場所でいつ来るかもわからない魔物の襲撃に備えながら一日過ごすって言うのはとんでもないストレスだろうし、そうした欲求もどうにかして解消しなくてはならないということはわかる。
だけど、なぜそれを俺の下着で解消しようとするのか、これがわからない。まあ、魅力の能力値が高い美少女なのだからそれが原因なんだろうけど、俺は男なわけで、そんな俺の下着をとっていったところで気持ち悪いとしか思わない。
いや、実際には設定のせいかもの凄く恥ずかしくて弱弱しく「返して欲しいの……」と囁くことしかできなかったけど……。
まあ、そんなわけで夕食後は特にすることもなく、ただ部屋でじっとしているくらいしかできない。要するに暇なのだ。
「何かゲームでもあればよかったのに……」
元の世界にいた頃は夜はもっぱらパソコンで動画を見たりゲームしたりして過ごしていた。友達が泊りに来た時はTRPGで夜を明かすのが普通だったし、次の日の予定的にできない時は適当に駄弁りながら漫画を読んだりして時間を潰すこともあった
とにかく娯楽は豊富にあったし、退屈することなんてなかったのだ。
しかし、今はそれらが何もない。むしろ、夜長い時間を過ごすにはランタンの明かりが必須であり、それには油を消費するから起きているだけ損とも言えた。
それでも一応やることがないわけでもない。
「確か、スキルは……」
どうせ【暗視】によって暗闇でもある程度視界は確保されているのだからとランタンの明かりを消し、真っ暗な部屋で自分のスキルを思い出す。
この体は俺が作ったお助けキャラ、アリスのものだ。これまでの経験上、この体は俺が考えた設定を忠実に再現しており、また身体能力や使えるスキルなどもすべてそのままだということがわかっている。
だから、自分が使えるスキルを把握しておくことは大事だし、なるべくすぐ使えるようにと使えるものは実際に使ってみてどんな具合かを確かめておく必要があった。
ただ、自分で作ったキャラとはいえ、すべてのスキルを覚えているわけではない。そういうものはキャラクターシートに記載して保存しておき、その都度確認しながらやるものだ。主要なスキルやよく使う能力値の値などは覚えているが、普段使わないもの、特にNPCスキルと呼ばれるNPCしか使えないスキルは盛るだけ盛ってほとんど覚えていない。
確か、【HP自動回復】とか【無限の魔力】とかあった気がするけど……総じて強いスキルばかりだから思い出せないのは痛い。
「キャラシがあったら楽なのに……」
キャラクターシート……キャラシを見ればこんなことで悩む必要なんてない。そこにすべて書いてあるのだから。
しかし、そんなことを思ってもキャラシが目の前に出てくるはずもないだろう。せめて主要なスキルくらいは把握しておかないと……。
そんなことを考えていたときだった。
「うひゃっ!?」
いきなり目の前にゲームウィンドウのようなものが現れた。
ウィンドウ自体は【収納】を使う際にも見ているけど、今は別に【収納】を使おうとしたわけではない。不意に現れたウィンドウに驚きつつも確認してみると、そこには驚くべきことが書かれていた。
そこに書かれているのはアリスというキャラクターネームを始め、それぞれの能力値や覚えているスキル、装備品、果ては年齢やら身長やら体重やら、とにかくアリスのすべてが書かれていた。
その表記の仕方には見覚えがあった。常日頃からキャラを作る度に書いているのだから忘れようがない。
それは紛れもなくキャラシだった。
「え、え? いきなりなんでなの?」
そりゃ確かにキャラシがあればいいなとは思っていたが、まさか本当に出てくるとは思わなかった。
もしかして、念じればいつでも見られたとか? 俺は一度ウィンドウを消し、キャラシを表示しろと念じてみる。すると、先程と同じウィンドウが目の前に現れた。
どうやらその考えで合っているらしい。今までの苦労は何だったのか……。
「まあ、これで全部確認できるの」
お助けキャラとして作っただけあって、アリスの持つスキルは膨大だ。NPCスキルも含めれば100を超える。
流石にこれをすべて暗記するのは無理だよね。いやまあ、何回か使ってれば覚えるかもしれないけど、アリスは今回作ったばかりのキャラだし。
中にはこんなスキルあったな、と思うものもあり、なかなか発見があった。全体的に支援寄りだけど、弓使いとしては十分すぎるくらいのスキルを持っているんだよなぁ。
今思うとやりすぎた感は否めない。あまりお助けキャラが強すぎてもプレイヤーが勝った感がなくなって面白さが半減してしまう。
基本的に手は出さないとは言っても、こんな英雄級のキャラを作る必要はなかったな。
まあ、今はそのおかげで魔物に襲われても平気なくらいには戦闘力があるからその点ではよかったけど。
「……ん? これは?」
しばらくキャラシを確認しながらスキルの確認をしていると、ふとウィンドウに見慣れない文字があることに気が付く。
右上の隅の方に小さく書かれていたのは『キャラクターシート閲覧』という項目だった。
まあ、今まさにキャラシを閲覧しているから間違っちゃいないけど、わざわざ書く必要があるのだろうか?
気になってそれに触れてみると、アリスのキャラシが消え、代わりに別のキャラシが現れる。キャラ名を見てみると、そこには『ゼフト』と書かれていた。
「ゼフトさんの、キャラシなの?」
キャラシには立ち絵イラストのようなものが描かれている。それを見る限り、確かにゼフトさんのもののようだった。
え、どういうこと? なんでゼフトさんのキャラシが見れるの?
自分のキャラシを見れるのはまだわかる。自分の情報なのだから、見られるようになっていてもおかしくはない。だけど、ゼフトさんは赤の他人だ。見られる理由がわからない。
再び『キャラクターシート閲覧』を押してみると、今度はカステルさんのキャラシが出てきた。その後も何回か押してみると、砦に勤めている兵士達の名前が挙がってくる。
ゼフトさんが同じように別世界から来た人で、その関係で見られるのか、とも思ったが、カステルさん他兵士の皆さんまで見れるとなるとそういうわけでもなさそうだ。
ますます訳がわからない。何か共通点のようなものはないだろうか……。
「うーん……何人か表示されないの」
何回か押して試してみたが、砦の兵士すべてのキャラシを見られるわけではないようだ。
表示される者と表示されない者の差を考えると、恐らくこれは名前を知っている人だけ表示されるのではないだろうか?
試してみる途中、兵士以外にも夏樹達のキャラシまで表示されていた。直前までプレイしていたし、キャラシも受け取っているから名前も知っていて当然。もし名前を知っていることが条件だとするならば、表示された理由として十分考えられる。
「なんか、とんでもない力を手に入れた気がするの……」
キャラシを見れば相手の能力値もどんなスキルが使えるのかもすべて見ることが出来る。戦いになった時、相手がどんなことが出来るのかを知っていればそれだけ有利に立ち回ることが出来るだろうし、かなり便利な能力となるだろう。
キャラシを見る限り、ただでさえぶっ飛んだ能力値をしているのにこれ以上強力な能力を付けてどうするのか……。
若干頭を抱えつつ、キャラシを眺めていた。
感想ありがとうございます。




