幕間:ゲームの世界?
主人公の友達、シリウスの視点です。
気が付いたら見たこともない鬱蒼とした森の中にいたなんて状況、普通に生きていて体験する奴はいるだろうか。
世界中探せば、もしかしたらそう言う人もいるかもしれない。でも、その一人に自分がなるだなんて誰が考えるだろうか。
しかも、体はかなり縮んでおり、見慣れない服を着ているというおまけつき。
最初目を覚ました時、俺はしばらくその場から動くことができなかった。
当然だろう。見知らぬ場所に見知らぬ姿、状況を素早く呑み込めという方が無理な話だ。
しばらくして、自分の体を確認し、それが先程まで遊んでいた自分のキャラであるシリウスだと気づいて、ここは『スターダストファンタジー』の世界なのかと思い至り、自分のキャラシを確認できる機能を見つけ、ようやく落ち着けたという形だ。
まあ、落ち着いたというか、諦めたというか。夢でも見ているんじゃないかとも思ったが、肌を吹き抜ける風も、むせ返る森の匂いも、いずれも現実としか思えず、この先どうすればいいのかと悩む羽目になった。
唯一救いだったのは、この体は作ったキャラシの通りの能力を持っているということだろうか。
シリウスは【アコライト】であり、回復に特化したクラスだ。レベル5スタートだったということもあり、基本的な回復手段である【ヒールライト】はもちろん、状態異常を回復する【キュア】系のスキルも数多く覚えていた。
これだけあれば、万が一怪我や状態異常になったとしても、死ぬことはないだろう。
少ないとはいえ、MPポーションも持っているし、少なくともこの森から出るくらいは余裕のはずだ。
いったいなぜこんなことになっているのかはさっぱりわからなかったが、丹精込めて設定を練り上げたキャラになれているというのは結構テンションが上がるもので、この状況を楽しんでさえいた。
だが、その余裕もすぐになくなることになる。
「キシャァァアア!」
「ひぃぃ!」
当然のように現れる魔物。そして、逃げ惑う俺。
【アコライト】である俺は攻撃の手段を何一つ持っていなかった。
もちろん、『スターダストファンタジー』の基本ルールとして、誰でも武器を使って、もしくは素手で攻撃することは可能だが、ダメージは筋力の数値によって決まるので、筋力に振っていないとダメージはほとんど通らない。
そして、【アコライト】は後衛職。一応、前衛で戦う【アコライト】もいないことはないが、シリウスのビルドは完全支援型だった。
つまり、攻撃手段はないに等しいのである。
敏捷はそれなりにあったので逃げ切ること自体はそこまで難しくはなかったが、それも絶対じゃない。時には地形に追い込まれて逃げ場を失うこともあった。
その時は、形見の杖で殴り倒すことになるのだけど、まあ大変だ。
それでも、相手が弱いのか、一対一だったらそこまで苦戦はしなかったが、それでも大変なことに違いはないので、極力戦闘は避け、俺は森から脱出した。
「ひとまず、金を稼がないとな」
幸いにして、森を抜けてしばらくすると町を見つけることができた。
ここが『スターダストファンタジー』の世界なら、冒険者である俺は依頼を受けることができるはず。
だから、何とかなると思ったのだけど、ギルドで告げられた言葉は「これでは冒険者の証明になりませんね」だった。
冒険者の証、すなわち冒険者バッジを見せたのだが、これではだめらしい。というか、そもそも大人として見てもらえず、遠回しに追い返された。
おかしい、ここは『スターダストファンタジー』の世界ではないのか?
試しに残っていた数少ないお金を見せてみたが、みんな首を傾げるばかりだった。
やはりここは少し勝手が違うらしい。そう単純な話ではなさそうだ。
とはいえ、今はお金を稼ぐことが大切。流石に、もう野宿はこりごりだ。
そう言うわけで、何か稼ぐ手段はないかと思っていたら、ちょうど目の前で事故があったらしく、怪我をした人が倒れていた。
ちょうどと言うと聞こえが悪いかもしれないが、俺にはそれを治療する手立てがある。助けるついでに、少しばかりお礼を貰うくらいは許されるのではないか。
そんな考えが浮かび、俺は【ヒールライト】で治してあげたのだが、そしたら予想以上に喜ばれてしまった。
こうして自分の能力が誰かの役に立つのは喜ばしい。そして同時に、これなら稼げるだろうとも思った。
どうやら、この世界では瞬時に傷を治すスキルは存在しないらしい。一応、【治癒魔法】というスキルはあるようだが、簡単な怪我ならまだしも、大怪我ともなると何日、何か月とかけないと治らないような場合もあるらしい。
だから、一回でいい上に、瞬時に治る俺の治癒魔法は瞬く間に話題になり、国中の関心を集めた。
余裕が出てくると、他のことを考える余裕も出てくる。すなわち、他の友達のことだ。
俺がこうしてシリウスの姿となっている以上、他の奴らも同じように自分のキャラとなってこの世界に来ているのではないか、そう考えるようになった。
いずれはこの国から出て、彼らを探しに行くのもいいかもしれない。
そう考えていた矢先、事件が起こった。国が俺をスカウトしに来たのだ。
俺の【治癒魔法】はとても有用らしい。だから、宮廷治癒術師となってくれないかとのこと。
宮廷治癒術師がどんなものかは知らないが、宮仕えとなれば待遇はいいだろう。お金に困ることもなくなるだろうし、いい誘いだったかもしれない。
でも、その時俺はちょうど国を出て友達を探しに行こうとしていたこともあり、その誘いを断った。
しかし、それがいけなかった。国は俺のことを何としてでも手に入れたいらしく、俺のことを指名手配してきた。
当然ながら、そんなことされたら大っぴらに表を歩くこともできないし、国から脱出するのも不可能だ。
これならいっそのこと捕まって、宮廷治癒術師とやらになるのもいいかとも思ったが、なんとなく嫌な予感がして、踏み切ることができなかった。
そうしているうちに、俺は捕まった。いや、捕まりに行ったというべきか。
王都で大規模な事故があり、治癒術師を欲しているという罠に自ら飛び込んだのだ。
以前から思っていたのだが、この体、すべてが俺というわけではない気がする。
というのも、時折考えてもないことが口から飛び出すことがあるからだ。
お礼を貰う代わりに治療行為を行うというのだって、気が付けばお礼は最低限のものになってしまったし、国からの誘いを断る口実も、「俺には大それた役職だし、本当に必要な人に手を差し伸べられなければ意味がないから」というよくわからないものだった。
「父の痕跡は……」みたいなことを口走っていたから、恐らくこれはシリウスとしての設定が作用しているのだろう。そう考えると、少し納得した。
「お前は優秀な治癒術師なんだろう? だったら、これくらいの怪我治せるよなぁ?」
捕まった後、俺はとてつもない拷問を受けた。中でも酷かったのは、足を切断されたことだろう。
麻酔すらかけられず、正気のままのこぎりで足を切られた時は、頭がどうにかなりそうだった。
誓約魔法という約束を破れなくする魔法もかけられ、俺はいよいよ逃げ場を失った。
このまま、このくそみたいな国で奴隷のように暮らすのかと思うと絶望したが、そんな時に助けてくれたのがアリスだった。
アリス、いや、秋一は俺の思った通りにアリスの姿となっていた。しかも、あのふざけた口調もそのままに。
初めて聞いた時は笑いたくもなったが、それ以上に心が死んでいて軽く冗談を言うくらいしかできなかった。
アリスは凄い。俺らと違ってレベル30からスタートしてたとは言え、一国を相手取って屈服させた挙句、そのまま王になるなんて誰が想像するだろう。
しかも、聞けばゲームマスターとしての力が使えるらしく、レベルアップもできればリビルドだってできる壊れっぷり。
おかげで俺も持ち直し、無事に戦う手段も手に入れた。
まあ、足だけはどうにもならなかったけど、アリスがいつか治してやると言ってくれたからそこまで心配していない。
アリスができると言ったなら、できるだろう。なにせ、アリスは俺達のパーティのお助けキャラなのだから。
「ま、足が治った時に動けなくならないように、適度に動いてなまらないようにしとかないとな」
クラスチェンジしたことによって剣も使えるようになり、安定感が増したように思える。
でも、やっぱり以前と同じように、みんなで冒険したいよな。
アリスが王様になっちまったせいでその夢は遠のいてしまったが、いずれはこの世界に来ているであろう残りの二人も見つけて、一緒に冒険したいものだ。
感想ありがとうございます。
 




