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第百八話:メリットとデメリット

 俺は必死に自分が王様にならない方法を探したが、ついぞそれを見つけることはできなかった。

 王様が頑固すぎて、王様やめる必要ないから続けてくれって言っても首を縦に振らないし、だったら別の人を王様にと言っても嫌だというから俺しか候補が残らない。

 強引に別の王様を立てるなりすれば、もしかしたら諦めてくれるかもしれないけど、次の王様を発表するのが明日と言われたらもう代わりを見つける時間すらない。

 一応、一国の王を決めるわけだからその辺の適当な人をというわけにもいかないし、そうなると俺がやるしかないわけである。

 もちろん、俺がわざわざこの国を背負う必要は全くないわけで、無視してさっさとこの国を出て行ってしまってもいいのだけど、知らなかったとはいえ王様になる条件を満たしてしまったわけだし、俺のせいで今後国が荒れるであろうことに罪悪感がないわけではなかったから、どうにも言い出せなかった。

 そう言うわけで、王様に押し切られ、俺は明日この国の次の王様としてお披露目することが決まってしまった。

 どうしてこうなった。どうしてこうなった!


「ははは、冗談で言ったつもりだったが、まさか本当に王様になるとはね」


「笑い事じゃないの!」


 ひとまず、ダメ元でもいいから代わりの人を探そうと思い、タウナーさんに泣きついた。

 この人なら俺の事情も知っているし、もしかしたら新しい王様候補も知っているかもしれない。

 そう思っていたのだけど、この様子を見る限り望みは薄いかもしれない。

 笑ってる場合じゃねぇんだよ!


「確かに、今の陛下を排して、次に陛下となる方の候補は探していたけれど、君に勝てるような人はいないだろう」


「もうそれでもいいから代わりになってほしいの」


「この国では何よりも強さが尊ばれるからね。特に陛下となる方は単純な腕っぷしの強さが必須となる。陛下を負かした君が次の王様に任命されたように、君に勝てる強さがなければ、王様にはなれないさ」


 あれはあの王様が考えているだけのものかと思っていたけど、どうやら国全体でも同じような認識らしい。

 やはり、強い人に統治してほしいという願いがあるからだろうか。

 もちろん、それだけでは国が成り立たないから単純な強さ以外にも頭脳や技術なんかもありがたがられているようだけど、トップにはそれらは必要ないっていうのもおかしいと思うんだけどな……。


「じゃあ、私が王様になるしかないの?」


「そうだろうね。もし、君が病気や事故によって衰えるようなことがあればその限りではないかもしれないけど、そもそも王様にならないというのは無理だろう」


 王様を負かした者は無条件で王様になれる。実力至上主義の国らしいシンプルなルールではあるけど、その人が辞退することを考えていないのは問題だと思う。

 まあ、普通は王様に喧嘩売る以上、それ以外に目的はないんだろうけども。暗殺者とかが相手なら、人知れず殺されていてわからないだろうし。

 堂々と城に入ってしまったのが運の尽きだったかな。こんなことなら、最初と同じようにこそこそと入ればよかった。


「なら、私が王様になった後、すぐにまた別の人を王様に任命するというのは……」


「いや、それはできないね。王になる者は、強さによってその座を勝ち取っているわけだから、すぐにその座を明け渡してしまったら可哀そうだろう? だから少なくとも3年は君臨することが決まっているんだよ」


 王様の座は要はトロフィーみたいなものだから、勝ったのにすぐに取って代わられてはモチベーションも上がらない。

 そもそも、そんなコロコロ王様が変わっていたら国の統治もままならないので、一度王様になった場合は最低限統治する期間が決められているようだ。

 その期間の間は、王様がたとえ負けようが何しようが王様は変わらないらしい。まあ、もし負けていたなら3年経った瞬間に退任しなくてはならないようだが。


「3年も統治しなきゃならないの……」


「まあ、諦めるしかないだろうね。大丈夫、そう難しいものではないさ、多分ね」


「3年も足止めされる時点で嫌なの……」


 俺の目的は、この世界に迷い込んでしまったであろう友達を見つけ出し、元の世界に帰ることだ。

 今、シリウスが見つかったとはいえ、まだ二人も見つかっていない。

 まだ手掛かりすら掴んでいないのだから、とにかく足で情報を集めていくしか方法はないだろう。

 それなのに、ここで3年も足止めを食らってたら見つけられるものも見つけられなくなる。

 3年だよ? 高校卒業できるくらいの時間だよ? これじゃあ、たとえ見つけられて元の世界に帰れたとしても、高校生活が台無しになってしまう。

 まあ、今の時点でもすでに半年以上経っているんだけども。


「確か、アリスは仲間を探しているんだったかな?」


「そうなの。まだ二人見つかっていないの」


「なら、これをチャンスとして捉えるのも手じゃないかな?」


 チャンス? これのどこがチャンスなのだろう。

 もし俺が王様になったらどうなるか少し想像してみる。

 まず、俺はこんな見た目だ。威厳など欠片もなく、とてもじゃないけど国民を引っ張って行けるようには見えない。

 この国の風潮として、強い人に引っ張ってもらいたいというのがあるのだとすれば、実際の強さはともかく、見た目にはそこまで強くも見えないし、どう考えても反発を生むだろう。

 そうなれば、俺を王の座から引きずりおろせという人が出てくる。でも、この国では王様の交代は現王様の指名か、あるいは王様を負かす必要がある。

 こちらが指名するのは簡単だけど、少なくとも3年は統治しなければいけないというルールがあるのなら、指名しても無駄。であれば、当然ながら俺のことを排除しにかかるだろう。

 3年のルールは、王様が事故や病気で亡くなったなら適用されない。つまり、さっさと俺を殺せば次の王様が決まるわけだ。

 なりたくもないものにならされた挙句、常に命を狙われるとか面倒が過ぎる。

 それに、他の国の報復も心配だ。

 今までやたらめったら戦争吹っ掛けてきた上に、色々あくどいこともやっていたようだから、この国に対する鬱憤はかなり溜まっていることだろう。王様が変わったのを機に、攻め込んでくる可能性もなくはない。

 今までのように通商妨害などをするわけにもいかないし、俺としては対話でどうにかしたいと思うけど、果たして聞いてくれるかどうか。悪いのは完全にこちらなわけだし。

 軽く考えただけでもこれなのだから、どう考えてもチャンスにはならないと思うんだけど……。


「王様になれば、国の話題は逐一入ってくる。例えば、この国に来る商人や、国民達の話を集めれば、君の探している仲間の情報も入ってくるかもしれない」


「それはそうかもしれないけど……」


「それに、国の人員を好きに使うこともできる。今の時点でも『草』は他国にたくさん入り込んでいるし、彼らを使って情報収集させるのもいいんじゃないかな?」


「うーん……」


 まあ、確かに国の諜報機関となれば情報収集はお手の物だろうし、闇雲に探していくよりは効率はいいかもしれない。

 ここでしばらく情報を集めて、見つかったら探しに行くというステップを踏むのも悪くない、のかな?

 まあ、もちろんそれ以外にもやることは山ほどあるだろうから、果たしてどこまで情報収集に手を回せるかわからないけど、情報収集の人手を増やせるというのは明確なメリットかもしれない。

 まあ、だとしても他の労力がかかりすぎな気がしないでもないけど……。

 チャンスというにはかなりリターンが少なそうではあるけど、お金の問題や身分証の問題なんかも解決できるし、ここを拠点として少しずつ手を伸ばしていくのは悪くないかもしれない。

 もう、いざとなったら王様の職務をすっぽかして逃げてしまおうか。

 そんなことを考えながら、無理矢理自分を納得させた。

 感想ありがとうございます。

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[気になる点]  片足失ったシリウスを置き去りに進むヘスティアコント「ババ抜きのババ扱いされる王座」……(´ω`)読者の心に浮かぶ『コレじゃない』感が、スゴく、スゴいです(´□` )もしかしてジャンル…
[一言] あの手この手で言いくるめられようとしている……
[一言] よく晴れた日の東京タワーからは100km近く離れた富士山の山頂を眺めることができる 東京タワーより高く跳ぶハイジャンプなら 他のスキルとの組み合わせ次第で 近い国境なら王都から攻撃が届くか…
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