第十一話:今後の方針
砦で生活すること早五日。意外と砦での生活は快適で、ボロボロで埃だらけの休憩室にも安らぎを感じるようになってきた。
もちろん、元の世界でしていたように、安全な部屋でベッドで寝ていた生活と比べれば粗末なものだけど、ここ数日野宿していた身としてはこれでも十分すぎるほどありがたかった。
まあ、こう思えるのも設定のおかげだろう。いくら野宿よりはましとはいえ、普通に考えたらこんな埃だらけの場所で硬いソファで寝る生活など耐えられないだろうから。
ただ、その代わりに女性としての恥じらいを感じさせられたり語尾が変になったりと色々大事なものをなくしてしまっている気がするが。今となってはそこそこ慣れてきたけど、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
目が覚めたら元の世界に戻っていないかな、という希望はすでに持っていない。流石にこんだけ時間が経って戻らないなら夢という線は完全に消えたと言っていいだろう。
そのうち本当の自分を忘れそうで怖いなと思いつつ、今日も一日が始まった。
一応客人という立場上、俺のやるべきことはほとんどない。やることと言えば、ご飯を食べたり洗濯をしたりするくらいだ。
ただまあ、それだと本当にただの穀潰しなので、水汲みを手伝ったり掃除をしたり思いつく手伝いはしている。
特に掃除は男ばかりの職場ということもあってあまり行き届いておらず、埃を被っている部屋がいくつもあった。
そこまで綺麗好きというわけでもないのだが、やることもないので集中してやっていると気づけば一日が終わっているということもあった。
「ふぅ、大体片付いたの」
今日も主要な部屋の掃除を終え、額に流れた汗を拭う。
この五日間で気づいたのだけど、この砦の兵士達はまあやる気がない。
ゼフトさんとかカステルさんは例外だけど、他の兵士は結構だらけていることが多い。
まあ、娯楽も何もないこんな辺境じゃストレスも多いだろうし、気持ちはわからないでもないけど、誰も見てないのをいいことに居眠りをしたり勝手に持ち場を離れて仲間と駄弁っていたり、あまりにもやる気がなさすぎる。
時たまゼフトさんが一喝してやる気を出させているけど、それも一時的なものに過ぎない。
話しかけたら普通に話してくれるし、悪い人達ではないんだけど、なんだかいずれ問題が起きそうだなと不安になる。
まあ、それは俺がそういうのが気になる性格だってだけで全然問題ないのかもしれないけどね。実際、この砦は今まで存続できているわけだし、もしこれで問題が起きているのなら人数を増やすなり兵士の質をよくするなりしているはずだろうから。
「ああ、アリス。ここにいたか」
掃除も終わり、少し一休みしようかと考えているとゼフトさんが部屋に入ってきた。
このゼフトさんだけど、どうやらこの砦の兵士達の隊長を務めているらしい。
門番をしていたからてっきり一兵士なのかと思っていたけど、この砦において一番重要なのがあの門らしいので、さぼる可能性を考慮せずともよく、また実力的にも一番である自分が警護した方が安全だと思ってあの場所にいたらしい。
まあ確かに、堅牢な外壁を突破されるよりは頑丈とはいえ木でできた門を突破される可能性の方が高いだろうからその理屈はわからなくはないけどね。
「今日も掃除してくれてたのか。ありがとうな」
「泊めてもらってるんだからこれくらいは当然なの」
日頃から使っている食堂や、自分の武器がある武器庫なんかは比較的掃除されているみたいだけど、そうでない部屋はほとんど掃除されないらしい。
それはゼフトさんにとっても悩みの種だったらしく、こうして掃除してくれるのは実にありがたいことだと言ってくれた。
今や俺の評価は未開地から来た怪しい人ではなく、掃除もしてくれるいい人くらいには上がっている。
まあ、俺がいる間はそれでもいいけど、出来れば自分でやってもらいたいものだ。
「それで、どうしたの?」
「ん、ああ、後二日もすれば伝令役が戻ってくるだろうからな。恐らく許可は下りるだろうが、その後どうするのか聞いておこうと思ってな」
俺がここにいる理由は国籍不明の獣人が現れたからそのまま通してもいいかどうか確認が取れるまでの間待っていて欲しいと頼まれたからだ。
しかし、これは元々現場の判断だけで許可してもいいくらいには些末なことで、十中八九許可は下りるだろうという話だった。
わざわざ確認に行かせたのはゼフトさんがマニュアル通りの対応をするのと同時に保身に走った結果であり、いくら国籍不明とはいえ人を魔物蔓延る未開地に放り出すことはないだろう。
「とりあえず、図書館にでも行こうと思うの」
「図書館? なんでまたそんなところに」
「私はこの世界……ここのことについてよく知らないから調べたいと思ったの」
現状の把握は大事だ。色々と異なる点はあるが、言葉は通じているのだし、まだこの世界が『スターダストファンタジー』の世界である可能性はある。
『スターダストファンタジー』としての知識が役に立つかどうか判断するためにも情報を集めることは急務だ。
「確かにマリクスには図書館はあるが……町人以外は閲覧料は結構高いぞ? 金はあるのか?」
本はかなり貴重なものらしく、閲覧するにはお金がかかるらしい。まあ、それはまだ想定の範囲内。
一応、減ってしまった食料を補充したり、宿をとったりしなくてはならないので、あまり無駄遣いすることはできない。
というかそもそも、俺が今持っているお金は使えるのだろうか?
「そういえば、このお金って使えるの?」
「ん、どれどれ」
俺が取り出したのは小さな銀貨。
本来、作り立ての冒険者は装備やらアイテムやらにお金を使ってしまうのでほぼすっからかんになっていることが多いのだが、俺の場合はその辺りを完全無視して作ったので初期にもらえる資金が丸々残っている。
まあ、それでも一万程度なのでそこまで多いわけではないが、これが使えればかなり楽になる。
「見たことのない銀貨だな。これもワールザー王国とやらの銀貨か?」
「そうなの。やっぱりここだと使えないの?」
「どうだろうな。両替商に持って行けば交換してくれるかもしれないが」
通貨は国ごとに決まっているらしく、国を移動する際は両替商に両替してもらうことでお金を得るらしい。
両替はその硬貨に含まれる金や銀の含有量によって変わるらしく、大まかに重さを量ることで判断しているらしい。だから、仮に存在しない国の硬貨だとしても両替してくれる可能性はある。
ただ、俺の持つ硬貨は小さいのでだいぶ安くなりそうだ。これ、図書館に行くだけのお金残るかな……。
「それ以外の硬貨は持ってないのか?」
「うん。これしかないの」
「そうか。まあ、冒険者って言うなら魔物でも狩って冒険者ギルドに卸せばそれなりの価値にはなるだろう。困ったら冒険者ギルドに行くといい」
冒険者ギルドとは、冒険者に対して仕事を斡旋したり、魔物の素材を買い取ったりと冒険者の活動をサポートする組織らしい。どこの国にも属さない代わりにどこの国にも存在し、魔物退治から町のお手伝いまで幅広い依頼を扱っているのだという。
素材の買取はものにもよるが、比較的状態が良ければ結構な高値で買い取ってくれることもあるらしく、適当にその辺で狩った魔物でも持ち込めばそれなりのお金にはなるらしい。
買取だけなら冒険者でなくともできるらしいので、もしこのお金が使えないとなれば、狩りをしてお金を稼ぐのもありかもしれないな。
俺は今後の予定を立てつつこの世界でどう生き残っていくかを思案した。
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