第百二話:目標の確認
ひとまず、俺は目的を確認する。
俺の目的は、シリウスを連れてこの国から逃げることだ。
他の友達も探しに行きたいし、いろんな意味でやらかされたシリウスにこの国での居場所はないだろう。
まあ、もしかしたら王様が変わればあるかもしれないけど、だとしても居座る理由はあまりない。
それが今の最終的な目標であるが、その前に、シリウスを酷い目に遭わせたこの国に一泡吹かせたい。
王様を始め、シリウスを陥れた人達を許すことはできないし、報復されるだけの理由はあるだろう。
できることなら、シリウスへの謝罪を引き出したいところ。そして、二度と近づかないと約束してもらいたい。
問題があるとしたら、それをやった後の影響だな。
王様に喧嘩売る以上、俺は指名手配にされることだろう。しかも、シリウスと違って本当の犯罪者として。
まあ、この国に近づく理由はシリウス以外にないから国外逃亡を決めてしまえば関係ないかもしれないけど、指名手配にされるってだけで少しそわそわするよね。
それを許容できるかと言われたら、シリウスのためなら悔いはないって感じだけど、アルマさんに会えないってなったら少し残念かもしれないね。
「まあ、もう決めたことなの。最後まで貫き通すの」
その時の激情で決めたことではあるけど、あの気持ちに嘘はない。
シリウスはそれだけ大事な人であり、それを傷つけた奴らは許せないのだから。
決めた以上は、最後までやり遂げたいところ。
「アリス、そんなこと考えてたのね……」
「いやはや、本当にとんでもない子だ。純粋な腕試しならともかく、陛下に真っ向から喧嘩を売ろうなんて、この国で考える人はいないというのに」
「でも、なんだかんだアリスならやりそうじゃない? こうしてシリウスを取り戻したことだし」
でも、最後の確認として、一応アルマさんの家族にも意見を仰ぐことにした。
一応、彼らはこの国の国民だし、流石に王様に牙を剥くというのは受け入れられないかもしれないと思ったけど、ここまで関わったのだから、一つの意見として聞いておきたかった。
でも、返ってきた答えは意外にも肯定だった。
実力至上主義のこの国では何よりも強さがものを言う。だからこそ、王様に逆らう奴なんていないってことだと思ってたんだけど、逆らわないのと不満がないのは違うらしい。
「私としては、君が持ってきてくれたこの書類を使って、アラスを失脚させる程度しか思いつかなかったが、それだけの気概があるなら、やってみるといいよ」
「えっと、そんなあっさり許可出していいの? 一応、自分の国の王様なのに」
「まあ、正直今のヘスティア王国はあまり景気が良くなくてね。それを打破できない陛下に疑問の声を上げる者も少なくないのが現状だよ」
「ふーん」
「なんなら、陛下を打倒して、君が王様になってもいいんだよ?」
「流石にそれはないの」
いくら強さが重視されるとは言っても、俺みたいな子供を王様にする国などないだろう。
というか、仮になれたとしても俺が国の運営などできるはずもない。だったら、他の優秀な人に任せた方がましだ。
そう言うことなら、それこそタウナーさんでもいいんじゃないかな? 頭よさそうだし、一芸は持ってるでしょ。
「残念だが私では無理だろう。狩りをできる程度の腕はあるが、本業は頭脳担当なのでね」
「私はアリスが王様になってくれたら嬉しいわ!」
アルマさんは目をキラキラさせながら俺のことを見てくる。
嫌だよ。頼まれたって願い下げだ。
「はは。それで、君は陛下に喧嘩を売りに行くようだけど、いつ実行に移す気だい? 君のことだから今日? それとも明日?」
「明日の朝行くの」
「ほう、明日か。なら、明日は予定をキャンセルして陛下が打倒されるところ見届けなければね」
タウナーさんもめっちゃ生き生きしているなぁ。そんなに今の王様はダメダメなんだろうか。
というか、見届けるってどういうことだ? ここから城見ても内部は見えないと思うんだけど。
「ああ、そうそう。先程城の兵士が来たが、追い返しておいたよ。こんな時間に来るのは非常識だからね」
「それで帰ってくれるの?」
「帰るとも。いくら王命を受けていようが、ちゃんとした書状がなければただの兵士に過ぎない。そして、兵士は大抵が平民だ。貴族の言葉に逆らえはしないさ」
「なんか心配して損したの」
てっきり、これから来るのかと思っていたけど、俺がシリウスと話している間に来ていたとは。
まあ、このまま引き下がるとも思えないから、後ほど書状とやらを取って再訪問してくる可能性はあるけど、できればその前に決着をつけたいかな。
シリウスがこの家にいることがばれるのはやばいだろうしね。
「あ、アリス、シリウスと何を話していたの?」
「色々と。ああ、シリウスは今杖を取られて何も武器がないから、万が一のために何か武器があると嬉しいのだけど、何かないの?」
「杖はないけど、剣ならあるわ。護衛用にいくつか常備しているものだけど」
「なら、それをお願いするの」
何とか剣は手に入りそうだ。
そう言えば、シリウスは【クルセイダー】で何のスキル取ったのかな。
シリウスは割と定石を知っているはずだから、変なものはあまり取っていなさそうだけど。いや、割と設定を重視する性格だから、そういう意味では読めないけども。
後でキャラシ見てみようか。こういう時キャラシ見られるのは便利だね。
「ねぇ、アリス」
「どうしたの?」
「本当に、この国から出ていくの?」
アルマさんは不安そうな目でこちらを見てくる。
うん、まあ、その答えは変わらないけど、そんな目で見られるとちょっと答えにくい。
なんだかんだ、アルマさんには愛着も湧いているし、この国に入れなくなるとしたら、それだけが心残りなんだよな。
「……言ったはずなの。私は、シリウスを始めとした仲間を探しているの。少なくとも、その旅を終えるまでは戻ってくる気はないの」
「じゃあ、みんな見つかったら?」
「……その時考えるの。まあ、アルマ様が立派に就職していたら、来るかもしれないの」
「言ったわね? その言葉、取り消させないから!」
……ちょっと墓穴掘ったかな。
アルマさんはこの世界からすればすでに立派な治癒術師だし、俺がいなくなった後、荒れた国の中でも十分要職に就くことができるはず。宮廷治癒術師だって夢ではないだろう。
そう考えると、あんまり無責任なこと言わないほうがよかったかもしれない。
ま、まあ、仲間がすぐに見つかるかもわからないし、別に確約したわけではないからね。大丈夫大丈夫。
「じゃ、じゃあ、私は明日のためにもう寝るの」
「絶対よ? 絶対だからね!」
俺は逃げるようにその場を後にする。
そういえば、寝るって言ったけど、俺の拠点って宿屋なんだよな。でも、シリウスがいる以上は安全のためにもあまり離れたくはない。
と、泊めてくださいって言う? 今更? なんか気まずい……。
そんなことを思いながら廊下をうろうろしていると、メイドさんがやってきて部屋に案内してくれた。
どうやら、すでに私が泊ることは決定していたらしい。
タウナーさんの仕業か、あるいはアルマさんの方か。まあ、どちらにしてもありがたいからいいけど。
明日は早起きしなくちゃね。そう思いながら、俺はベッドに潜り込んだ。
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