第九十五話:城へ潜入
昼間のうちに簡単な下見を済ませ、夜になる。
ただの家と違って、城は流石に巨大だ。柵なんてレベルでなく、周りは高い城壁が囲っている。
門番も立っており、夜でも警備の数はそれなりに多いようだ。
流石は国のトップが住まう場所ってところかな。
まあ、俺には関係ないけど。
「この辺りなら見張りが少ないの」
俺は城壁に沿ってこそこそと移動し、見張りが少なそうな場所を見定める。
いくら隠れられるとは言っても、堂々と警備が多いところを通るのは怖いしね。
というわけで、見つけたのは城の裏側。【ハイジャンプ】で城壁を飛び越えると、そこにあったのは広場だった。
ところどころに兵士や騎兵の絵が描かれた的が置いてあったから、多分演習場なんじゃないだろうか。
月が出ているのであんまり遮蔽物のない場所だと【シャドウウォーク】が使いにくいが、まあこれくらいなら駆け抜けてしまえばいいだろう。
そう言うわけで、見つからないうちに広場を駆け抜け、建物の壁に張り付いた。
「さて、入り口は……」
一応タウナーさんに教えてもらったのと下見で見たのである程度の出入り口の場所は把握しているが、中は結構曖昧だ。
とりあえず地下に行きたいと思っているから、できれば階段が近くにあればいいんだけど。
「おっと……」
壁沿いに進み、入り口を見つけたので入ろうと思ったら、ちょうど兵士が出てくるところだった。
危ない危ない。【シャドウクローク】は常にかけておかないといけないね。
どうにもこのスキル、移動以外の行動をするとすぐに解除されてしまうようなので、解けているかどうかちょくちょく確認しないといつの間にか解けているなんてこともある。
隠密ってそう言うことじゃないと思うんだけど、まあ判定的にはそうなんだから仕方ないか。
「一応、【トラップサーチ】もしておくの」
前回の反省を生かし、罠を探知する【トラップサーチ】も併用して進んでいく。
まあ、このスキル、建物内で使うにはちょっと面倒な仕様なんだけどね。
というのも、『スターダストファンタジー』においては、罠の中に『鍵』というものがあった。
例えば、ダンジョンとかで宝箱があった時に、それに鍵がかかっていたなら、【トラップサーチ】をすると、『鍵』というトラップが見つかったという形になる。
トラップというくくりにはなっているが、ただの鍵なので壊してもピッキングしても何か起こるということはない。だから、実質無害なのだけど、トラップというくくりのせいで【トラップサーチ】に引っかかるので、建物内で使うとたくさんの反応が出てしまうのだ。
まあ、これを逆手にとって、『鍵』にさらに別のトラップがくっついているパターンもあるのだけど、いちいち調べるのが面倒でそのまま開けてしまうっていうこともよくある。
時間を優先すると、今回も鍵はぶっ壊していきたいところだけど、前回みたいにそれで見つかったら嫌だし、できればあんまり鍵がないといいんだけどね。
「地下への階段は……あったの」
通路を進んでいくと、しばらくしてタウナーさんが言っていた階段を発見することができた。
さて、この先に地下牢があるといいのだけど。
【トラップサーチ】にも反応がなかったので、そのまま降りていく。
しばらく降りていくと、再び通路に出てきた。いくつか扉があるようだけど、耳を頼りに聞いてみても特に人の気配は感じられない。
一つを試しに開けてみたら、どうやらそこは倉庫のようだった。
どうやら置いてあるのは使わなくなったであろう武器や防具、古い衣服やカンテラなど様々なものがあるようだ。
宝物庫というにはしょぼいけど、庶民からしたらここにあるものだけでもかなりのお宝じゃないだろうか。
他の部屋も倉庫ばかりだったので、ここは外れだろうか。まだ先はあるようだけど……。
「人の気配は……あるみたいなの」
一応聞き耳を立ててみたが、そうしたら何人かの息遣いが聞こえてきた。
仮に、シリウスが地下牢に捕らえられていると考えた場合、そこには人の気配がするはずである。それに、見張りだっているだろうし、人は多いだろう。
であれば、人の気配がする方向に向かっていけば、地下牢である可能性は高い。
俺は見つからないように再度【シャドウクローク】をかける。さっき倉庫を漁ったから、多分そこで切れてしまっていただろうしね。
慎重に足を進めていくと、わざわざ兵士が二人も立っている扉を見つけた。
耳を傾けてみると、扉の先にも何人かの息遣いが聞こえるし、もしかしたらここが地下牢かもしれないね。
「さて、見張りをどうするかなの」
いくら【シャドウクローク】が優秀とは言っても、流石に目の前で扉を開けたら気づかれてしまうだろう。
【シャドウウォーク】でワープしようにもあれは見えている範囲の影にしか移動できないし、扉の先には移動できない。
となると、あの見張り二人を何とかしなければいけないわけだが。
「……まあ、ここは気絶してもらうの」
一応聞き耳を立て、周りに他の気配がないか確認する。
……うん、特に気配は感じられないな。便利だなぁこの耳。
そう言うことなら、さっさと気絶させてしまおう。
ただ、それらしいスキルはないんだよな。
気絶判定は、HPが一定以上減った時にレベルと体力の数値を基準として成功率が決まる。だから、相手の体力が高ければ、下手したら気絶しない可能性もあるのだ。
「……いや、この世界の住人ならそこまで体力は高くないはずなの」
国の騎士レベルが確かレベル30程度。しかし、レベルアップ時のボーナスもなく、クラス補正もない状態なら、その数値はレベルに比べてかなり低くなるはず。
基本的に、レベルが高くなればそれだけ体力も増えていくから気絶率は低くなっていくけど、このちぐはぐな能力値なら気絶率はかなり高いはず。
だったら、気絶するほどのダメージが出る技を出せば、一発で気絶してくれる可能性は高い。
「それじゃさっそく……」
俺は【シャドウウォーク】で兵士の影にワープし、背後から首元を狙って手刀を繰り出す。
俺のステータスはかなり高いけど、流石に素手なら殺すまではいかないはず。でも、少し怖かったから少しだけ手加減したけど、それでも兵士は声も上げずに倒れ伏した。
これくらいの威力で問題ないらしい。
「ふわぁ……うん? おい、どうし……」
「ふっ……」
「うっ……!」
ちょうど欠伸をしていて決定的瞬間を見逃していたもう一人も手刀で気絶させ、制圧が完了する。
うん、素手でもこうやって気絶させていけば十分やっていけるね。
まあ、イメージと合わないからあんまりやりたくないけど。
「さて、この先にいるといいんだけど」
扉には鍵がかかっていたので、倒れた兵士から鍵を奪って開ける。
扉の先には、左右に鉄格子で仕切られた部屋が多数あり、そこには何人かの人々が捕まっていた。
どうやら地下牢で間違いないらしい。みんな寝ていたようだが、急に入ってきた俺に気づいたのか、訝しげな顔をしてこちらを見ている。
さて、シリウスがいるといいのだけど。俺はそれぞれの鉄格子の中を確認しながら、奥へと歩いていった。
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