第一話:TRPGを始めよう
二作品目、始動です。
TRPGとはゲーム機やテレビの代わりに紙とペンとダイス、そして話術を駆使して遊ぶゲームである。
VRゲームを始め、最近ではより強い刺激を求めて数あるゲーム機が開発されているが、それらから離れ、古き良きゲームに興じる人々も一定数存在する。
俺、真崎秋一もそんなTRPGプレイヤーの一人だった。
特に取り柄もなく、平凡な高校生活を送る毎日。バレーボール部に所属し、部活の仲間と共にへとへとになるまで練習して、近くにある親の知り合いが大家をしているアパートへと帰る。
向上心もなく、そこそこの成績が取れればいいと適当にだらけ、時には真面目になり、クラスの友達と遊ぶ毎日は退屈なものだが、唯一心躍る瞬間があった。
それが金曜日の夜。うちの部活はそこまで厳しくないので休日練習などはない。つまり、休日は好きなことをして過ごせるのだ。
そして、そんな休日の前日にやることと言えば、TRPGしかない。
そもそもTRPGはゲームマスターと呼ばれる進行役とプレイヤーとの会話によってシナリオが進行していくゲームだ。シナリオ中は作成した自分の分身たるキャラクターになりきり、ロールプレイを繰り広げたり、戦闘をしたりととにかく会話がメインになる。
その結果どうなるかというと、とにかく時間がかかるのだ。特に戦闘がメインだとその処理に時間を取られやすい。だから、時間がない時にプレイすると途中で中断せざるを得なくなり、興ざめしてしまうのだ。
だからこそ、次の日が休みで寝坊しても問題がなく、且つ終わらなくても次の日に続きができるこの日は絶好のプレイ日和なのだ。
「キャラクターは作ってきたか?」
「ああ、ばっちりだ」
「ねぇ、ここわかんないんだけどどうやるの?」
「ああ、それはこうするんだよ」
さて、TRPGはその性質上一人では遊べない。ものにもよるが、最低でもゲームマスターとプレイヤーの計二人、出来ればプレイヤーは四人以上いることが望ましい。
もちろん、俺だって一人遊びをしたいわけではないので当然友人を呼んである。
「俺は騎士って設定にした。かっこいいだろ」
一人は朝比奈夏樹。部活の仲間で、メインアタッカーを務めている。
ちなみに俺はセッター。いわゆる司令塔だ。
夏樹は親に外人の血が混ざっているのか彫りが深い顔が特徴で、クラスでも女子から人気が高い。
何でもそつなくこなす天才肌で、TRPG歴は俺に次いで長い。
「もうちょっと待って、少し調整するから……!」
続いて石屋冬真。同じクラスで席が隣同士になったことがきっかけで仲良くなった奴だ。
野球部に所属しており、そのせいか頭は坊主刈り。少しいかつい顔でよく誤解されるが、性格は慎重で繊細。キャラの設定も一番凝ってくるタイプだ。
TRPG歴はまだ一年くらいだが、堅実なプレイでいつもパーティの要をしている。
「ねぇ、ここもわかんないんだけど……」
最後は望月春斗。小学校時代からの付き合いで、この中では最も付き合いが長い。
美術部に所属しており、その絵のうまさは先生すら舌を巻くほどの腕前で、よくコンクールで賞をもらっているのを見かける。
ちょっと天然気味ではあるが、どんな相手にも明るく振舞い、周りを笑顔にしてくれるムードメーカー的な存在だ。
ただ、TRPGにおいてはちょっと例外で、クリティカル……つまりダイス判定において凄くいい出目をバンバン出してくることから『クリティカラー』と呼ばれている。
圧倒的に不利な状況下でも出目でごり押しして勝利したり、情報収集判定などを行う時も一人で全抜きしたりととにかくやりたい放題。
しかし、TRPG歴はこの中では一番短く、一か月ちょっとしかしていないためプレイングに関してはまだまだ甘く、出目の良さと相殺って感じになっている。
「ちょっと見せて。ああ、これはこうやって……」
「あ、そうだったそうだった。ごめん、まだルール覚えきれてなくて……」
「いやいや、春斗がこちらの世界に入り込んできてくれるだけで嬉しい限りだから」
このメンツはいつも一緒にTRPGをプレイしているメンバーだ。
最初は春斗を抜いた三人でよく遊んでいたのだが、最近になって春斗がようやくTRPGに興味を示してくれたのでみんなで沼に誘い込み、立派なTRPGプレイヤーに仕立て上げようと画策中である。
まあ、まだ一か月しかプレイしていないながらその出目にみんな驚愕して、もうあいつ一人でいいんじゃね? ってなって戦闘がおざなりになってしまうのはご愛敬。普通のダイスはもちろん、アプリのダイスとかで振らせてもとんでもない出目を出すんだからもう笑うしかない。
まあ、そんな出鱈目な出目もスパイスの一つとして考え、そろそろ慣れてきたであろうということでこの度新たにキャラを作って始めようという話になったわけだ。
今回遊ぶTRPG『スターダストファンタジー』は王道の剣と魔法物と言った世界観で、その世界で冒険者となって様々な困難に立ち向かっていく冒険物。キャラは人間やエルフ、ドワーフなどといった様々な種族の中から選択し、これまた数十種類あるクラスの中から一つを選択して作成できる。
キャラはクラスごとに決められたスキルを取得することが出来る。レベルアップするとクラスチェンジかスキル取得かを選ぶことが出来、それらを繰り返しながらキャラを育成していくのが醍醐味だ。
今回、みんなが用意してきたキャラを紹介すると、まず夏樹が【ナイト】というクラスの正統派騎士キャラ。種族は人間で、前衛で敵の攻撃を止めつつ殴るというスタイルをとっているようだ。
このゲームではよくあるクラスとスキル構成で、初心者の春斗をサポートしてやろうという気概が窺える。
続いて冬真は【アコライト】と呼ばれる回復を得意とするクラスを軸に作成されたキャラ。種族はホビットという小人で、年齢は十八歳だけど身長が100センチメートルくらいしかない。
幼い頃より冒険者パーティの一人として活躍する父に憧れていて、父の背を見ながらいつか自分も父のようになるんだとスキルを磨いてきたが、ある時父親が冒険中に死亡。しかしそれは不可解な死に方で、何かの秘密を知ってしまったがために暗殺されたのではないかと囁かれていた。形見として戻ってきた長杖を受け取り、父の死の真相を知るべく家を飛び出し、冒険者となった。それ以来各地を転々としながら情報を集めている。と、無駄に凝った設定を繰り広げていた。
春斗は【キャスター】という魔法使いのクラスで、攻撃も支援もそこそこできる幅広いクラスだが、今回は火力重視の構成にしたようだ。ただ、このクラスの前に【アルケミスト】という錬金術師のクラスを経由しているのでポーションの作成など支援もある程度行えるように調整しているようである。種族はエルフで、後衛から固定砲台の如く攻撃しようという狙いが見える。夏樹のキャラと合わさったら強そうだ。
ちなみに全員春斗によってキャライラストを描いてもらっている。こういう時、絵が描ける奴がいると想像力が広がって便利だ。
「それじゃ、最後は俺だな」
今回三人にはプレイヤーとしてプレイしてもらうことになる。つまり、俺がゲームマスターを務めるというわけだ。
本来ならゲームマスターは進行役でプレイヤーに混ざることはないのだが、このゲームは四人で一パーティというのが推奨されており、このままだと一人足りないため、お助けキャラとして俺がプレイヤーも兼任することになったのだ。
その結果生み出されたのがこのキャラ。
クラスは【デッドアイ】という弓使いの上位職。それと、レベル二十以上のキャラ限定で取得することが出来るセカンドクラスで【アコライト】をとっている。基本的にお助けキャラなので積極的に戦闘に絡むことはせず、プレイヤーだけでは厳しいとなった時に請われれば加勢する、とそんな感じの動きをする予定で作った。
今回はレベル五からスタートとしているが、本来ならレベル一から始まるのが普通である。しかし、このキャラは初めからレベル三十とかなり高めに設定してある。というのも、このキャラの設定上、熟練の冒険者ということになっているのでそうせざるを得なかったのだ。
まあ、ただのお助けキャラなので基本的にはいない者として扱い、危なくなったら加勢するくらいだからシナリオ崩壊ってことにはならないだろう。
今回用意したのは自作のシナリオだが、それ故どこで何が起こるかは把握済み。むしろお助けキャラなんていなくてもクリアできるくらいの難易度に調整してある。
だからこれは本当にただの保険だ。それと舞台作り。俺がゲームマスターなんだから俺が決めてもいいだろう。
「そんな設定で大丈夫?」
「これ、ロールプレイ恥ずかしくないか?」
「まあ、秋君だし」
お助けキャラとして紹介した俺のキャラは概ね好評のようだ。
まあ、ただのお助けキャラとして出しても何も面白くないからな、その辺りは色々設定を練ってある。まあ、冬真の言う通り少し恥ずかしいが、ロールプレイをする時は恥を捨てるべきだ。
それぞれ準備が整い、後はシナリオが始まるのを待つのみとなった。
俺はコホンと一つ咳払いをして用意してあったシナリオの導入に目を通す。
「それでは、シナリオを始めたいと思います」
こうしてシナリオの幕は落とされた。
この後、とんでもない体験をすることになるとは知らずに。
ご都合主義も多々あるかと思いますが、よろしくお願いします。