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一幕 お友達だからに決まってるじゃん

 教室の前方に広がるスクリーンの中で、見たことあるような気もするオッサンが無駄話を長々としている。

 お前の話なんか聞きたかないのに、誰も望んでいないことを率先してやろうとするその姿勢には逆に感服させられる。


「夏季休暇で浮かれるのも理解できますが、本校の生徒であることを忘れないよう」


 そう言って、映像は終業式の司会進行役へと切り替わる。


「草葉、聞いていたか? くれぐれも羽目を外してくれるんじゃねぇぞ」


 担任のミカちゃん先生が椅子に踏ふんぞり返り教卓に足を乗せながら言う。


「どうしてミミにだけ言うわけ。ミミは羽目なんて外す性格じゃないけど」

「まっ、確かにそうかもしれねぇな。だけど、問題行動を起こして俺の仕事を増やしそうなのはお前しかいねぇんだよ」

「それなら、仕事を増やさなければ何をやってもいいんだ」

「本当に増えないなら、そりゃそうだろ? テメェらは俺の人生に全く関係ないんだからよ」


 先生はさも当然という顔で、教師としてそれはどうなんだというセリフを言ってのける。こんなのでも解雇されないのは大人の事情とかいう都合のいいやつが絡んでるせいなのだろうか。


 ミカちゃん先生は簡潔にまとめた連絡事項を事務的に済ませて、さっさとHRを終わらせる。


「それと補習対象者は忘れず補習受けろよ。以上、解散」


 おそらく全クラスの中でミミたちのクラスが一番乗りで終業式を終えて夏休みを迎える。

 未だ終わらない他クラスの帰りたくてウズウズしてる生徒を見ると気分が良いものだ。だけど、逆のことが起きたなら許せないのだろう。


「あたし半分くらいの教科が補習なんだけど。またも満点で学年首席のみーみさーん、勉強教えてほしいしー」


 明美がお菓子をミミの机に並べて取引を持ちかけてくる。だけど、ミミはそんな程度で釣られるほどお人好しじゃない。もちろん量の問題ではない。


「それはミミの役割じゃない。補習で先公が教えるんだから」

「ちぇー。じゃあさ、じゃあさ。夏休みは何かある感じ?」

「ちなみに僕は断然、同人即売会。三三さんも行きましょうよ」

「何それ。聞いたことない」

「さっちんのは毎年だから知ってるし。それにあれはマジでヤバイ場所だから、みーみも行かなくていいし」

「ふーん。それなら行かない。どちらにしろ行けないけど。先輩と旅行できる代わりに、旅行以外の日は全部仕事入ってるから」


 年に数回だけ事前に申請すれば仕事を空けることができる。だから、凪々藻先輩と行く旅行と仕事の日程が重なることは基本的に回避できる。

 だけど、ミミは体育祭の一件で命令違反を犯した手前、ペナルティーが全くないわけにはいかず、無休のスケジュールとなってしまった。


「えー、それマジ? それじゃあ、みーみと遊べないじゃん」

「元々、遊ぶつもりもないけど」

「夏休み中がダメならさー。今日これからとかどう?」


 こいつは人の話を全然聞かないで、自分のペースで話を進めようとするところがある。そういう所が面倒なんだ。


「今日は仕事ないけど内容による」

「うーん……そうだ! みーみの服を買いに行くし」

「何でミミの? 自分の買えばいいじゃん」

「良さげなのあれば買うかもだけど、あたしもうこの前買っちゃったし」

「ミミもまだ着られる服あるから別にいらない」

「ホントにいいのー? 先輩と旅行するわけだし。それなら先輩に普段の制服とは違った可愛い姿見せるっしょ」


 確かにそれはミミにはなかった良い案だ。それにこいつの美的センスだけは少なくともミミより上だ。ならば、目的のためにそれを利用しない手はない。


「そういうことなら行く」

「よしきた! さっちんも行くでしょ」

「はい、ご一緒します」


 帰り支度を既に済ませていたミミはさっさと教室を後にする。それから追いかけるように走ってきた二人と合流して駅へと向かった。






 ショッピングモールをうろうろしていると、色とりどりのエロが立ち並ぶ店の前を通る。


「ねえ、みーみ。水着は持ってる感じ?」

「うん。持ってる。名札入りのスクール水着」

「いや、なんでそんなの持ってるわけ! ウチの学校、そんなの指定されてなかったでしょ」

「指定とかはなくて、ウェットスーツを借りれるらしいですよ」

「何年か前に貰ったやつ、ミミの身長だとまだ着られるから」

「いや、新しいの買おう。今すぐに買っちゃおう」


 まずは水着の専門店で買物をすることとなった。

 しかし、こんなエッチな店が人目の付く場所にあっていいのだろうか。店内をぐるっと一周してみたけど妄想が止まらない。あの水着もこの水着も頭の中で先輩に着せれば何回だってオナニーできてしまう。


「これもいいな……」


 表面積の少ない黒色のビキニを手に取ったところでモブたちが近づいてきた。


「みーみにそれは似合わないでしょ。見て見て、これなんてメッチャいい感じじゃない」


 明美が持ってきた水着は全くもってエロさの欠片も感じられない代物だった。


「もしかして、ミミのこと子供扱いしてる」

「そんなわけないじゃん。でも、みーみの体格とか考えると、絶対にこれが似合うよ。メッチャ天使よ天使」

「ふーん、じゃあそれ買おう」

「せっかくだし試着しようよ。やっぱ着たとこ見て確認しなくちゃ」

「仕方ないなあ」


 更衣室に入ってさっさと着替えようとする。


「いや、カーテン! カーテン開けっぱだし」

「ふーん」


 カーテンを閉める。それから着てる服を全部脱ぎ捨てて水着を試着した。


 ピンクと白が使われたワンピースタイプの水着で、形はスクール水着に近い感じだった。露出が少なく胸の谷間も見えないのが何だか子供っぽい気もするけど、谷間なんてできない幼児体型にはこれが似合うのだろう。


「着替えた」

「メッチャ可愛いじゃん。みーみのこと抱きしめたいくらいだし」

「はい。ギュッとされているところを見たいくらいです」

「先輩以外がやってきたら張っ倒す」

「照れるのを隠そうとする必要なんてないし」

「……照れてなんてない! もう着替える」

「えー、もう?」


 ミミの水着姿を見ていいのは、褒めていいのは先輩だけなんだ。さっさと制服に着替えて会計を済ませてしまおう。


 それからは当初の予定通り、夏に着る服を見て回ることとなった。明美がオススメするショップをいくつも見て回り、あれもこれもと選んでくれた物を片っ端から購入していく。


「前のプレゼントの時もそうでしたが、三三さんはお金に糸目を付けませんね」

「普段使わないで溜まってるから。いつ死ぬかも分からないし、使える時に使っておかなくちゃ」

「事故とかあるから確かにいつ死ぬかなんて分からないけど、あたしたちの年代でそんな風に考えてる人なんてみーみくらいだよ」


 本音を言ったつもりだったけど、ミミの仕事の内容を知らない二人には冗談にしか聞こえないのは仕方のないことだ。


「あっ! あれも絶対みーみに似合うし」


 前を通りかかっただけの店で掘り出し物を見つけた明美と、それについて行く幸子の背中に向かって尋ねる。


「そんなこと言ったら、お前たちだってプレゼントの時といい今回といい、手伝ってくれるのはどうして? 他人のためなんだから別に適当でもいいのに真剣に選んでくれる」

「三三さんの恋を心の底から応援していますから。まあ、明美みたいな女子力もなければ、三三さんほど頭も良くありませんので、応援くらいしかできることなんてありませんが」

「応援してくれてるってのは何となく分かってる。でも、それなら何で応援してくれるの?」

「何でと言われると難しいですね……」

「いや、難しいことなんて全然ないし。あたしたち、お友達だからに決まってるじゃん」


 ミミとモブたちが友達だって?

 案外こいつらにも利用価値があるからミミはこいつらに接してきた。元を辿れば千鶴さんに学園生活を送るなら友達を作っておくのがいいと助言されたからだ。


 それならこいつらにとってのミミの利用価値とはなんだろう。

 ああ、そうか。ミミと一緒にいれば、つまらない嫌がらせを受けなくて済む。きっと、そういうことなんだ。

 別にそれはそれで構わない。むしろ、明確な理由がないよりはずっと信用できるというものだ。


「似合わない服だったら許さないから」


 ミミとモブたちはショッピングを再開した。

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