第十話「ちょっとしたエピローグ」
目を覚ますと、なんだか胸元が暖かいことに気付く。
サラフワで抱き枕にするのに程よい大きさ……あ、ジョージくんだぁ。
そんな風に半分寝惚けながら抱きしめる。
もぞもぞとやられて、ジョージくんの顔が微妙な所に当たって、思わず身体がビクンッてなる。
「だ、駄目だよ……そんな所……吸っちゃ駄目だって!」
ジョージくん! それはいけないと思うっ!
そう思うのだけど、抵抗できない……いやっ! もぞもぞしないでー!
けど、なんか触り心地が違うような……?
ジョージくんだと思ってたサラフワが、毛布の中でジタバタともがいてる。
ちらっと覗く黄色の髪の毛。
あれ? 黒じゃなくて黄色? それに、ちょっと髪の毛長くない?
「うぉおおっ! イスラ! 何してんのよ! 離してっ! お前のおっぱいなんか吸ってたまるかっての! さっさとしまいなさいっ! このおバカっ!」
毛布を剥ぎ取りながら、アリアが真っ赤になりながら、抗議してる。
慌てて飛び起きて、ずり上がってたシャツを下ろして、そのへんに脱ぎ散らしてたズロースを拾う。
いつになく、サラフワな髪のアリアが腰に手を当てて、プンスカしてる。
「ったく! なに、一人でサカッてんのよ! 寝ぼけてんじゃないわよっ!」
「ご……ごめんね。なんか思いっきり寝ぼけた。ジョージくんだと思ってた!」
「尚更始末に悪いわよ! って言うか、あんた、またシャツだけで寝てたの? お外なんだから、下くらいちゃん履いて寝なさいよ。お尻が風邪引くわよっ!」
「だって、ズロース履いて寝ると尻尾が落ち着かなくて……あ、お尻は尻尾があるから、そんなに寒くないよ! アリアも尻尾があれば、解ると思うよ?」
「知らないわよっ! と言うか……なんかいい匂いしない?」
言われてみれば、チーズやお肉の匂いが……。
お肉は大好きっ! 思わず、ヨダレが……。
アリアと押し合いながら、天幕を出るとジョージくんとサコンさん、他の冒険者たちがでっかい鍋を囲んで、かき混ぜてるところだった。
「おうっ! イスラ、アリア……おはようっ! もうすぐ昼だぞ! それと飯食ったら、撤収らしいからさっさと支度する! つか、なんでシャツしか着てないんだよっ! さっさと服着ろよっ!」
ジョージくんに怒られた……。
アリアにピシャンとお尻を引っ叩かれて、ひゃんとか変な声が出た。
「……まぁ、そんな訳で、黒の教団は無茶な進軍の挙げ句、勝手に自滅して、この戦は終わった! ミッションコンプリートって事で、とりあえず、身軽にするために、余った糧食を盛大に食って、後はのんびり帰るだけって寸法な訳だ」
……改めてジョージくんが説明してくれたんだけど、何がなんだか良く解らない。
思いっきり、寝こけてる間に、そんな事があったらしい……。
どうも、黒の教団が私達を追って、全軍で進撃してたみたいなんだけど。
教団のリーダーに何かあったらしく、奴隷化されてた人達の隷属魔術が解けて、奴隷じゃない正規の教団員も奴隷化してた人達の逆襲にあって全員討ち死に。
奴隷化してた人達も全員まとめて降伏してきて、黒の教団は全滅……。
ギルドの冒険者達もこれからエスタールに帰還する予定らしい。
ああ、うん……寝コケてて、こう言うのも何だけど……。
はっきり言って、寝てる場合じゃなかったんだよね。
この野営地が戦場になってた可能性もあった訳で……。
詳しい事情はよく解んないんだけど。
もし、そうなってたら……。
でも……黒の教団も急ぎすぎて、皆バラバラになって進軍してて、大ボスがら空き。
そこに誰かが大ボスを暗殺して……みたいな感じだったらしい。
誰がやったのかとか、そう言うのは誰もしらないけど。
とにかく、結果として、大勝利っ!
今は、祝勝会も兼ねて、余った糧食を派手に消費して身軽にするって事で、皆で飲み食いしてる最中。
なるほど、話繋がったよ!
「アタシら思いっきり爆睡してたんだけど……。ジョージくん、そんな事があっったなら、起こしてくれても良かったんじゃない?」
アリアが不機嫌そうにそう告げる。
ごもっともだよっ!
「まぁ、いいじゃないか。寝てる間に全部解決。万々歳じゃねーの?」
「そうでござるなぁ。某も結局、斥候退治くらいしか仕事がなかったでござるよ」
サコンさんも上機嫌そうに、一緒に鍋を囲んでる。
お酒入ってるみたいで、すっかり赤ら顔。
他にも上級下級問わずに、冒険者達が何人も集まって、やんややんやと大騒ぎ中。
ジョージくんは、すっかり皆に気に入られたみたいで、代わる代わるに頭撫でられたり、持ち上げられたりと大変そう。
それにしても、お鍋……保存食の干し肉とかチーズやらを適当にブチ込んで煮るだけとか、ものすごく雑な料理みたいだけど……それなりに美味しそうだった。
ジョージくんにお椀を手渡されたので、受け取ってスープを一口。
……美味しいっ!
「ちゃんとお肉の味がするよ! 美味しいっ!」
そう言えば、まともにご飯食べてなかったなぁと思いつつ、ジョージくんの言うところの漢鍋を黙々と食べる。
もうすっかり日が昇ってるんだけど、ジョージくんも割と元気そう。
一応、暑苦しそうなローブとか羽織ってるけど、たぶん日除け代わりなんだろな。
日光は苦手とか言ってたけど、なんだ、そんなんでいいんだ。
けど……私達、何もしないうちに解決しちゃったみたいだけど……いいのかな?
「ジョージくん! おかわりちょうだーいっ!」
「あ、私もっ!」
嬉しそうにアリアがおかわりを要求するので、私も便乗する。
結論、お腹すきましたっ! 腹減りには勝てなかったよ。
ジョージくんが嬉しそうにおかわりを注いでくれてると、後ろからゴードンさんがやって来て、ジョージくんにガバっと抱きつくと、そのまま持ち上げる。
「な、なんだ! おっさん、いきなり! つか、誰っ?!」
「聞いたぜ! 坊主……いいから、何も言うなっ! 嬢ちゃん達も……よく頑張ったな! 色々すまねぇっ! ホントにすまなかった!」
……ゴードンさんがボロボロ涙を零しながら、深々と頭を下げてくれる。
「ゴードンさん、おかえりっ! 無事で良かったね!」
とりあえず、にこやかに無事をねぎらう。
「あ、ああ……。一応、あの時殺られちまったガストン以外はうちのパーティーメンバーも全員無事に帰還できたんだ。お前らには、とても返しきれない借りが出来ちまった! この償いは……必ずっ!」
「借りねぇ……。うん、無事に戻れたなら、それでなによりじゃないかな」
「……じょ、嬢ちゃん……俺達を……許してくれるってのか?」
「別に恨み言とか言うつもりないし、不可抗力だったってのも解る。でもさ! それとこれは話は別っ! これは生贄にされかけてたのに、見捨てられたあの時の恨みの一撃っ! 私の怒りを思い知れーっ! うりゃあっ!」
素早くゴードンさんの懐に飛び込むと、問答無用で渾身のボディーブローッ!
ゴードンさんも避けようとはせずに、まともにその一撃をその身で受け止める!
「ぐほっ! ネ、ネコ娘……お前、なかなか……い、いいパンチしてるじゃねぇ……か」
ゴードンさんがお腹を押さえながら、ニヤリと笑って親指をビシッと立てると、そのままゆっくりと膝を付くと、白目を剥いてドサッと地面に横たわった。
「うん、一発ブン殴る……そう決めてたんだからね! これでチャラだよっ!」
そのまま、拳を突き上げると周りの冒険者から歓声が上がる。
「……わぉ、ワンパンKOかよ……。このゴードンっておっさん、確かBクラスの上級冒険者じゃなかったのか? つか、イスラ……つえぇな……」
「イスラって、獣人だからね……。本気出したら、大の男ですらこの有様。こう見えて結構、強いのよ……と言うか、前よりパワーアップしてない?」
「やっぱり、おなごを怒らせると怖いでござるなぁ……くわばらくわばら」
サコンさんがそう言うと、回りの皆も大笑い。
しまった……つい、本気で殴っちゃった。
まさか、ゴードンさんをワンパンで伸しちゃうなんて……。
私って、こんなパワフルだっけ? もしかして、強くなってる?
とりあえず、皆、唖然として、ゴードンさんを助け起こすかどうか迷ってる風。
無言で、正座してその場に座り込むと、黙々とお椀を拾って、ご飯の続きを掻き込む。
「ああ、すっきりした! ご飯が美味しいっ! これがホントのメシウマーっ! あ、皆早く食べないと全部食べちゃうよ?」
そう言って、にっこり笑顔。
それを見て、皆揃って大笑い。
……とまぁ、こんな調子で、私達の冒険はあっけなく終わりを告げた。
戻ったら……何しようかな?
半日ほど前の絶望的な状況からの生還なんだけど……。
明日の事を思う幸せを噛みしめる……生きててよかったー! ホントにね!
私達の冒険が今、始まるのだーっ!
一応、ここまでで小説とかで言うと一巻完結って感じです。
以前、ここまで書いてて、お蔵入りになったんですが。
この続きもあるにはあるんですが、どうも人気あるんだか無いんだかで、微妙なんで、しばらくお休みとさせてもらいます。




