第九話「決戦、ヴァンパイアボーイ!」⑤
「な、なんだこれは……我が手足が……死んでいっているのかっ! なんだこれはっ! 一体何が起きているのだ!」
「馬鹿が……お前らは何に喧嘩売ったか解ってんのか? これは、お前らの崇める暗黒神フォルティナ様の怒りと知れ……。そうだな、まさに神罰って奴だな……まぁ、せいぜい奈落に落ちるんだな。無事にたどり着けるかは知らんが、住めば都、なかなかにいいところだぞ?」
だるま落としみたいに順番に、もう片っ端から残った胴体の奴らを次々と殺していく。
文字通り為す術ないようで、もはや抵抗すら感じない……。
いくら巨大化して、防御を強化し、再生能力を付与したところで、所詮はこんなもんだ。
こんなくだらんもんを作るために、一体どれほどの犠牲を出したのだろう……。
そう思うと、微塵にも容赦する気にならん。
あっという間に、12人の身体となっていた手下共は皆殺しになった……。
巨人の身体ももはやただの肉塊……自重で潰れて、もうグニャグニャだった。
もはや、生きているのは頭を残すのみとなった。
一発で死なないとかめんどくせぇヤツだったが、俺にかかれば、こんなもんだ。
「さて、もはやテメェだけだな。神様にちゃんと祈ったか? 懺悔は済んだか? 思い残すことも無いな? では、後腐れなく死ぬがいい!」
闇の腕が最後に残った頭にまとわりつく。
「ま、待て……いや、お、お待ち下さい。アナタ様は暗黒神様の御使い……使徒様! そうですよね? そうなんですよね! わ、私、暗黒神……フォルティナ様への信心の深さでは誰にも負けておりません! 以後、貴方様を崇め、忠義を……ですね! ああ、そうだ! 確か、使徒様は生贄の小娘共を助けに来たのですよね? いかがでしょう、まだまだ本部にはあのような娘達がおりますので……。お望みなら私の権限で、いくらでも横流しいたしますから……どうか、命ばかりは……お慈悲を……どうかっ!」
なんと言うか、清々しいくらいの外道のテンプレだな。
こいつは、闇の腕を使わず、直に念入りに殺そう……決まりだ。
「そうかそうか、実にいい心がけだ! だが、そんなブサイクな肉塊なんぞと、話をする気も起きん。せめて、人の姿に戻るがいい」
「はっ! よ、喜んで……」
紫色の三段腹のブサイクなガマガエルみたいな物体。
そうとしか言いようがない姿。
こいつ……アンデッド化してるのか?
ホント、どうしょうもねぇな……。
こっちが黙ってるのを良いことに、身代金としていくら出すとか、コロサス帝国の何とかに脅されてだの、聞いてもいないことをべらべらと垂れ流してる。
くだらねぇ……マジでくだらねぇよ……。
こんなのがいるから、暗黒神様のイメージが汚れるんだよ。
もはや、怒りと殺意しか湧いてこない。
「もういい……言い残したいことは、それだけなのか? 特別に遺言を聞いてやって、こうして口も聞いてやったんだ……満足したろ? では、潔くさっさと死ね」
冷たく告げる……こんな奴にかける情けなぞ無い。
「い、言い残す……遺言? ば、馬鹿な、命は取らないと……。わ、我らは共に暗黒神様を崇めるいわば同胞! なぜ、我々に仇なすのだ! やめろっ! 命ばかりはっ!」
「誰も助けるなんてひとっことも言ってねぇよ……。では聞こう、お前らは一体何人の罪なき者たちを生贄に捧げた? 一人や二人じゃねぇだろ……。お前らはそうやって命乞いをする生贄を一度でも助けてやった事があるのか?」
「……」
ガマガエルは無言で、目線を逸らすと周囲をキョロキョロと見渡す。
必死で言い訳を考えてるみたいだが、この態度の時点で、俺の指摘は図星だと雄弁に語っていた。
「……納得したか? これは言わば、因果応報って奴だな……。せいぜい、絶望しろ……俺は、お前を生かしておく気なぞサラサラ無いっ!」
あれだけの瘴気、あれだけの魔力が蓄えられるほどとなると、軽く100人近くは生贄に捧げていたはずだった。 だからこそ、俺はコイツらを許すつもりは無かった。
「い、生贄になった奴等は、どいつもこいつも汚らわしい異教徒に過ぎませぬっ! あ、あれは奈落への貢物……いえ、救済! 救済だったのです! 彼らの魂は死後、フォルティナ様の元で安息を……」
「もういい黙れ……貴様如きがフォルティナ様の名を口にするなっ! そういや、生贄は燃やすのが作法なんだったかな? じゃあ、お前もせいぜい派手に燃えろ……爆炎っ!」
絶火の炎を最大出力で放つ……名も知らぬ闇の僧正は一発で燃えるガマガエルになった。
なんか叫びながら、悶えてるが知らん。
再生力がかなり高いようで、燃える矢先からみるみる再生してる様子なので、対象を燃やし尽くすまで決して消えない呪いの炎「絶黒炎」を追加してやる。
「その魂までも、燃え尽きろ……下郎が」
ついでに、転がったままの肉塊の山も焼き払う……。
哀れな気もするが、あいつらは生きたまま、命令どおりにしか動かない文字通りの肉塊と化していた。
おそらく、こいつ以外は片道切符……だったのだろう。
なにせ、死んでもその身体が人の姿に戻る様子がない……一時的なものなら、死ねば元の姿に戻ると言うのが、この手の肉体変異魔術の常だからな。
知ってたのか知らなかったのか……ある意味、殉教と言えるだろう。
フォルティナ様がこの光景を見ていたら、さぞ嘆いているだろう……。
なんにせよ、荼毘に付せてやるのが、せめてのもの情けというもの……。
こんな風に救いのない非業の最期を遂げた者の魂は、フォルティナ様の慈悲に導かれ、長き時間をかけて、最終的に奈落にまでたどり着く事もあるのだと言う……かつて、俺がそうだったように。
「心から願おう……哀れな殉教者達にせめて死後の安息を……。縁があれば、フォルティナ様の眷属として……会うこともあるかもしれんな……」
まったく、気分わりぃ……。
これが救いなのだとすれば、あまりにやりきれない。
……やがて、全てが灰になった。
「幽幻霧氷」の力で霧を作り出し、それをベースに上空に雨雲を作り出す。
しとしとと雨が降り出し、森のあちこちに放たれていた炎も静まっていく。
「涙雨……か。丁度いいかもしれんな……」
呟く……少しばかり殺しすぎた……。
結局、こいつを始末するまで軽く50人近くは殺っちまった……その事実が、見えない傷のように鈍く痛む。
なるべく殺すなと言う命に従ったつもりだったが……もう少し犠牲を少なく出来たような気もする。
やはり俺には、あの心優しき御主人様達が必要なのかもしれない。
……まぁ、これで一件落着だ。
「御主人様のもとに……帰るか」
呟く。
こうして、俺の孤独な戦いは終わった。




