第九話「決戦、ヴァンパイアボーイ!」④
肩口から深い傷口が開き、バックリと割れ、紫色の血飛沫のようなものが盛大に吹き上がる。
何人ものうめき声が重なり、確実にダメージを与えたようだが……切れ目が見る間に張り付いていくと、あれだけ深かった傷が塞がっていく。
「なんだこりゃ……逆回しみたいに再生しやがった!」
あげくに、幽幻霧氷の氷の刃もたちまち吸収されるように、溶けていく。
「はっはっは! なかなかの一撃だったが……我らを討つには少々物足りんなっ! この巨神の身体は無限の再生力を持つのだ……いくら切っても無駄なことだ! どうした……? あれだけ大口を叩いておきながら、まさか、それで終わりなのか?」
「うーむ、魔術も及ばない上に、物理攻撃にも強いのか……確かにこりゃ、真っ当なやり方だと少々厳しいな」
真正面に降り立って、堂々と姿を見せてやる。
まぁ、正直感心しているのも事実だった……。
「はっはっは! そんな所にいたのか……だが、貴様もそれなりに解っているようだな。どうだ? 貴様の攻撃はすべて受けてみせたぞっ! 今の凄まじき一撃……ドラゴンすらも討ち取るほどの一撃だとお見受けしたが、それですら、我らには及ばなかった! もはや貴様に為す術などあるまい! では、今度はこちらから参るぞ! 氷槍爆炎舞! 消し飛ぶが良いっ!」
巨人の全身からいくつもの氷の槍と火の玉が放たれる!
それらはデタラメに撒き散らされ、あっという間に周囲は燃え上がり、凍りつき、たちまち地獄絵図のようになる。
周囲にあった高い木も軒並み薙ぎ払われた……。
なるほど、俺の機動力を奪ったつもりか。
……13人分の並列魔術ともなるとド派手だし、まともに食らったら俺でも危ういかもな。
なるほどね。
強力な魔術防御結界に、強力な再生力……。
もはや、守りに関しては鉄壁と言えよう。
加えて、この数任せの強力な魔術攻撃……。
動きは鈍重なようだが、いわば重戦車のようなものだ。
恐らく、光の使徒辺りとでも戦うことを想定していたんだろう。
確かにこいつは、まともに戦ってたら勝ち目はない……。
サコンの兄弟でも、これは無理なんじゃないかな?
全く面倒なもんを作り上げたな……。
「カカカッ! こうなるともはや、地面を虫けらのように這い回ることしか、出来ることもあるまい! なかなかのスピードのようだが、それもいつまで持つかな? 小僧……今の我らは無敵の存在ッ! 何故なら、これは光の女神の使徒と戦い討ち滅ぼすが為に開発した、我らが秘術なのだ。貴様程度の小僧の相手、もはや勝って当然! 話にもならん! 我らに仇なした事、後悔しながら死んでいくがいい!」
まったく、調子乗ってんなぁ……。
こんなもん、全うな軍勢だのを相手にするには、オーバーキルだろうって思ってはいたが、案の定。
光の使徒ねぇ……。
いつか戦わなきゃいけない相手だが、こんなもんじゃねぇだろ?
そろそろ、向こうもいい加減、ネタ切れだろうからな……。
さすがに、お天道様が顔を出すようになると、こっちもキツイ。
長々とやり合う気なんて毛頭ねぇし、遊んでねぇで、さっさと終わらせるか。
「……だが、不死身って訳じゃないんだろ? ちょっと面倒だが、とりあえず……まずは一人……死ね!」
一言そう言って、闇の腕で振り上げたままの右腕の魂を引っこ抜く。
闇の腕に引きずり出された人影がもがきながら、闇の腕に食い荒らされていく……。
「……気でも違ったのか? 貴様、いきなり何を言っているのだ? なんともないではないか! はーっはっはっ! そろそろ、観念して、そこでじっとしているがよい、一撃で圧殺してやるっ! その上で、念入りに踏み潰してくれるわっ! この虫けらがあっ!」
……ゆっくりと振り上げた巨人の右腕の肘から先が唐突にボロっと落ちて、地面で潰れた柿みたいになって転がる。
うん、思ったとおりだ。
一人殺せば、その部位が死ぬ……確かに厄介な奴だが、あくまで普通にやりあったらと言う但書がつく。
……まぁ、そろそろ空も明るくなってきて、影もバッチリだったしなぁ。
合体していくらかしぶとくなった所で、一人づつ殺せば関係ねーし。
ここは、鼻くそでもほじってるか。
「虫けらが……なんだって? まぁ、こっちも時間がねぇんだ……サクサク殺るぜ?」
更に右足側を二つまとめてスポポポーンッ!
うん、手足にそれぞれ二人づつ、胴体に四人って感じかな?
まじで、合体ロボだな。
頭はさっきの僧正さんとやら。
多分、こいつを殺せば一瞬で終わりそうなんだが……。
こいつは最後まで残しておいてやろう。
魂が抜けた右足側はただの肉塊になって動かなくなったみたいで、べシャッと呆気なく潰れる。
つか、こんな巨体……そもそも自重を支えきれないようだ。
生きてる間は、魔術強化とかでその重みにも耐えられていたようだけど、死んじまったら、こうなるわな。
右手、右足が死んだ以上、もはや、身動きもままなるまい……ハイ、お次は左手ー。
今度は肩から根こそぎ、左腕がもげ落ちる……。
動くのはもう左足のみ。
必死な様子で残った奴等総出で防御結界を強化してるようだが。
闇の腕を防ぐには、影を消す。
それくらいしか対処方法はない。
魔術へ対抗する防御結界なんぞでは防げない。
要するに、俺の攻撃は完全に想定外だったってわけだ。
こうなると、無限の再生力も防御結界も何も関係ない。
ただ、一方的に潰されるだけだ。
無敵の魔神とか言ってたけど、無敵だの完璧だの……そんなもん、あり得ないんだよ。
デカけりゃ勝てる、無限の再生力があるから無敵?
「あめーんだよっ! そんなコケ脅しで、この俺に勝てるものかよっ!」
容赦なく左足の奴等を殺すと、いよいよダルマ。
巨人はもはや抵抗する術すら無くなった。
……何ともあっけないもんだ。
始めからやれよって話もあるだろうが、こう言うのは相手にも華をもたせるもんだ。
初っ端からスペシウム光線やライダーキックをぶっ放す変身ヒーローはいねぇし、宇宙戦艦だっていきなり波動砲は撃たない……そう言うもんだ。
それなりにお互い技の応酬の上で、ラスト5分やピンチになったら、切り札を出す。
まぁ、戦いってのはそうでなきゃ面白くない。
って言うか……やっぱ、闇の腕ってチートすぎるな。
まさに、即死チート! もっとも、こっから先は容赦なんかしねーけどな。
こいつらは、暗黒神様を邪神扱いして歪めた。
こう言う奴らが増えると、確実に奈落のフォルティナ様にも影響が出るのだ。
であるからには、こいつらは一人たりとも生かしておけない……まさに万死に値する。




