第九話「決戦、ヴァンパイアボーイ!」③
……と言うか、なんだこれ?
地面に寝っ転がったような姿勢で、のーんびりと合体とかやってるんだが……。
思いっきり隙だらけ……いっそ、今のうちにやっちまうか。
いやいや、そりゃないなー。
せっかく盛り上がってきたし、少しは歯応えありそうではある。
よく解らんが、合体ロボみたいなもんだろう。
正義の味方としては、たとえそれが敵であっても、変形、変身中に手出しはしない!
これぞ、お約束ってもんだ!
「……ふははははっ! あの時の化け物がどう言う経緯で、そのような小さき姿になったか知らぬが、もはや芥子粒のようなものではないか! 恐れよ! そして、泣け! 嘆け! 我が暗黒神の偉容をとくと知れっ!」
……軽く十分くらい待ってやってから、偉そうに高笑いと来たか。
なお、俺……あまりに暇だからって、座って待ってた。
いくら合体ロボっても、合体に10分かかるとか、そんなもん話になるか。
色々突っ込みどころがあるんだが、まぁいい……。
とにかくボスキャラ! ようやっと合体完了して、まっすぐ立ち上がったところだった。
まぁ、この真っ直ぐ立つのに苦労してた感じだったんだがな。
なんとなく、リハなしぶっつけ本番って、雰囲気がプンプンしてるな。
こんな敵を目の前にして合体するとか、絶対想定してなかったんだろうな……。
まぁ、そこら辺……空気読んでやったんだがな。
それにしても、13人合体大巨人とか……改めて見ると、すげぇなぁ。
見た目は……黒くしたミシュランマン? ドラム缶に手足を付けて、一つ目の頭を載せたような感じだ。
なんと言うか、昭和のセンスだなぁ……激しくダサく、野暮ったい。
大きさはもう森の木よりもデカイ!
軽く10m以上はある……巨大ロボだねーっ!
ここはひとつ、俺も相手に合わせてデカくなってもいいんだが。
ここは、敢えてこのままやってやろうじゃん。
だが、人間の身体をここまで原型留めず、いじくれるってのは、ある意味すごい。
暗黒魔法ってのは、生命の根源を操る魔術でもあるからな。
その気になれば、人体改造とか変異とかも可能にする……。
俺の姿を自在に変えるのも、不死化もその応用のようなものなんだがね。
13人も集めて、巨人化するってのは、さすがに斜め上すぎるだろう。
誰がこんなもん考えついたんだろうな……?
「いやはや、お見事、お見事! こっちも長々と待ってやった甲斐があった! 実に手間ひまかけた傑作じゃないか……! うんうん、その執念と素晴らしき無駄な努力に、心より拍手を贈ろう!」
パンパンと手を叩いてやる。
まぁ、これだけ待たされたんだからな。
これで、つまらん代物だったら、金返せって言うところだが。
夢とロマンの塊の巨大ロボ……相手としちゃ、なかなか悪くない。
「ほざけ! 敢えて手を出さぬなど、随分な余裕を見せつけてくれたが……直に後悔するだろう。見よ、この威容を……圧倒的な巨体! 無敵のパワー! 我らに切り札まで使わせたのだ……よもや楽に死ねると思うなよ」
「そうだな。殺すのに少々手間はかかりそうだ……。だが、その努力と発想は称賛に値するっ! 褒美にひとつ遊んでやるよ!」
「黙れ! 小僧が! 消し飛ぶが良い!」
その巨大な右腕が振りかざされ、地面に叩きつけられる……。
一撃で地面が陥没し、盛大に掘り返される……ほう、思ったより早いな。
だが、そんなもん……余裕回避!
その上、思い切り振りかぶってテレフォンパンチとか、なんだそれ?
こいつ、格闘のセンスゼロ……まるっきり素人じゃねぇか……。
「デカイしパワーもあるようだが、いかんせん鈍すぎるな。それに格闘技の心得とかもないんだろ? それじゃ、話にならん、それと、せめてもう少しコンパクトな方がいいんじゃないのか? ちょっと自重に振り回されてるようだぞ」
軽く回避して、トントーンッと高めの木の枝の上に飛び上がる。
これで目線は並んだかな?
「そこかっ!」
やっぱり、テレフォンパーンチ!
……もう、その振りかぶった時点でどこ狙ってるかバレバレだから、こんなの当たるほうが難しい。
先程まで俺が居た木の幹があっけなく粉々になるのが見えたが、いつまで同じところにいるほど俺も阿呆じゃない。
ひらひらと木の枝から木の枝へと飛び移っての三次元機動で、あっさり背後に回り込む。
「くっ! 小馬鹿にしよって、おまけにチョロチョロと素早い……! アヤツ、どこに行きよった!」
首の動きも鈍い……何と言うか、レスポンスに問題あるんだろうな。
まぁ、頭脳があって各部位の担当者へ伝達して、連携して……素早く動けるように代物じゃないんだろう。
「何処見てんだ? まずは、こんがりと焼いてやるよ! 派手に燃えちまいなっ!」
「絶火」の最大火力で、真後ろから巨人の頭めがけて炎をブチかます!
軽く上半身を炙り尽くすほどの大火力!
けれど、その炎は身体に当たらず、受け流されているようだった。
「いつの間に背後にっ! だが……侮ってもらっては困る。貴様はたった一人、こっちは十三人がかりでの魔術防御結界を張れるのだ! その程度の炎では、まるで効かんぞ! ハァーハッハッハ!」
融合魔術式? 並列で同一術式を稼働させて、効果を十倍近くに跳ね上がらせている訳か。
雑魚でも束ねれば、ここまでの威力を発揮するとは、意外に侮れんな。
確かにアリアも人間の使う魔術は、基本的に多人数で束ねて、数の暴力って発想らしいからな。
なるほど、人数さえ揃えれば、質を圧倒できる……そう言うことか。
うーむ、絶火の最大出力の炎で駄目となると……。
俺の他の攻撃系魔術も効きそうもないな。
今度はちょっとは知恵を使ったのか、頭だけこっち向けてのバックキックで俺が乗っている木を直接蹴り砕く!
まぁ、俺はと言うと、とっくにそこにはいないんだがね。
隣の木がバキバキと倒れていくのを無感動に眺める。
どうも、段々と巨人の身体を動かすのに慣れてきてるようだった。
長期戦となると、厄介かもしれん。
「そうかい、ならぶった切る! 発動ッ! オーバーブレイズッ!」
幽幻霧氷に魔力を注ぎ込み、氷の刃を長く伸ばし、3mほどの大剣と化す!
今の俺の背丈じゃ少々扱いづらいが……腕力強化の上でなら、持てなくもない。
慌てたように大ぶりの裏拳が飛んでくるのだけど、盛大に空中に飛び上がって回避。
「くっ! 次から次へとっ! ええい! 何という動きなのだ! 何故、我らの攻撃が当たらん! どこだっ! 探せっ!」
……真上にいるんだがな。
空中浮遊の術式で、ヤツの頭上真上にまで飛び上がってみた。
なるほど、首の上下可動範囲が皆無の構造になってるから、見上げたり見下ろしたりが出来ないんだな。
やっぱ、これ試作段階とかそんな感じだな。
とりあえず、巨人化してみたとか……その程度だ。
それになにより、操ってるのが格闘戦の素人で、殴る蹴るしか出来ないって……そりゃ、ゴミだわな。
「はっ! どんな御大層な代物かと思ったら、とんだ出来損ないじゃねぇか……。そろそろ、終わりにするぜ? 一刀両断ッ! 天空斬ッ!」
そのまま空高く舞い上がり、自由落下で加速を付けながら、巨人の肩口から幽幻霧氷を袈裟懸けで、大きく切り下ろす!
けど、その氷の刃は途中で止まって、へし折れてしまう。
コイツ10mは軽くあるからな……流石に真っ二つは無理だったらしい。
やっぱり、このお子様形態……スピードはあるんだが、パワー不足は否めない。
だが、そこそこ良いのが入った! 途中で止まったとは言え、人間で言うとみぞおちの辺りまでザックリ切れた。
さすがに、少しは効いただろう!




