第八話「つかの間の安らぎ、湯けむりタイム」①
それから……。
補給係のサレサさんの所で、新しい服と下着、短剣と布切れ。
それに黒パン、干し肉と水……食べ物までもらえた。
アリアの分の下着や短剣ももらえたもんで、アリアはとっても嬉しそう。
でも、さすがに魔杖までは無かったから、アリア……戦力的には微妙……。
魔術も杖なしで使えなくないらしいんだけど、魔力効率が激しく悪いから戦力外に近いらしい。
ジョージくんは、杖なんか関係なしで魔術使ってたけど、あれは例外なんだそうな。
すっごい魔杖や私向けの弓矢をジョージくんは取り寄せるとか言ってたけど、どっから?
でもまぁ、これだけあれば、採取クエストやネズミうさぎ狩りくらいなら余裕だね!
無一文で装備も服も何もなしで明日からどうしようって思ってただけに、助かっちゃった!
ついでに、サレサさんの図らいで、なんとお湯まで貰えちゃったっ!
量はたらいの半分にも満たないけど、お湯なんて野外じゃ貴重品。
そんなのまで分けてもらえるなんて、最高っ!
身体拭きもしたかったから、ありがたい限り……。
寝床として充てがわれた空き天幕の裏で、早速汚い奴隷服を脱ぎ捨てて、裸になって身体を拭こうとしてたら、ジョージくん……真っ赤になってる。
「どしたの? なんか困ってるみたいだけど。あ、ジョージくんも背中とか拭くの手伝おうか? 温かいお湯があるから気持ちいいし、汚れも落ちやすいよ!」
「い、いや……その。イスラ……いきなり全裸になるとか、ちょっと大胆過ぎやしないか? つぅか、その下……やっぱ何も着てなかったのかよ……。あ、お、俺はいいっ! 誰か来ないか、見張りを……だな!」
「うふふ、背中くらいアタシが拭いてあげるわよ! つーかまえたっ!」
ジョージくん、アリアにあっさりつかまって、服脱がされながら、身体をゴシゴシと拭かれてる。
まぁ、スラムの子達と川で水浴びとかやってるから、このくらいの年の子に裸見られても別に……って感じだし、むしろ服着ないほうが、落ち着くのよね……。
服着ると風が直に感じられなくなって、感覚が鈍くなるし、汗なんかかくとずっしり重くなるし、あちこち突っ張ったりで動きも阻害されがち。
獣人の子達は、皆似たよう事言ってるから、私がおかしい訳じゃない。
でも、人前に出る時は、胸やお股を隠すのは人間の世界では常識だから、最低限その辺は隠れるような服着るんだけどね。
だから、今はむしろ開放感ーっ! って感じ。
やっぱ、裸って気持ちいいなぁっ!
「ぬぉおおおっ! 俺は……うん! やっぱそこで見張りやってる! 何かあったら声かけてくれればいい! んじゃ、御主人様! ごゆっくりなっ!」
それだけ言い残して、慌てて服を着ると、天幕の前へと走り出していく。
せっかく、私も体拭いてあげようとしてたのに……仲良くすべき相手なんだから、裸の付き合いくらいって思ったんだけど、逆効果だったのかなぁ?
「まったく、なんだかんだで年下の男の子って感じね。女の子の裸くらいであんなになっちゃって……まぁ、アタシの色気にタジタジって感じぃ?」
言いながら、ズロースひとつで、無い胸を張って腰をクネクネとさせるアリア。
改めて見ても、やっぱり寸胴の子供体型だ……。
色気が……なんだって? と思うのだけど、それは黙っとく。
髪の毛とか尻尾も洗いたいけど、さすがに石鹸とかは無いってサレサさんも言ってた。
石鹸代わりになる草もその辺探せばあると思うんだけど、さすがに夜の森を裸でウロウロしたくない……。
お湯で湿らせた布で身体拭くだけでも十分かなって思ってたら、ジョージくんが後ろ向きに歩くとか器用なことをしながら、何やら陶器の小瓶を二つ手渡される。
一個は白くて一個は黒い……なにこれ?
「ジョージくん? これなぁに?」
「ああ、それ……シャンプーとリンスってんだ。髪の毛とか洗うのに使うといい。お湯もそれっぽっちじゃ、足りないだろ? 追加してやるから貸してみな」
そう言うので、たらいを差し出すと、なみなみといっぱいになって返ってくる。
「……お湯が増えた? なにこれ……」
「普通にお湯を魔術で作り出しただけだぞ? 水系魔法の応用なんだが……大したもんじゃないだろ。足りなかったら、いくらでも追加してやるから、髪とかもちゃんと洗っとくんだな」
「いやいやいや、何もないところからお湯を出すとか……アタシだって、出来なくもないけど、まったくの無から魔力だけでモノを作り出す創造系の魔術って、馬鹿みたいに魔力無駄使いするのよ……アンタ、どんだけなのよ……」
さすがに、アリアも呆れてる。
お湯を作る魔術……実際、アリアも使えるって話は聞いてるけど……。
魔力の消費とか考えると、普通に水汲んで、薪燃やしてお湯沸かしたほうが早いって話。
実用性皆無の無駄魔術……だって言ってた。
「うーん、初歩的な魔術だと思ってたんだが、そうでもないのか。水を弾丸として撃ち出す、水撃弾の応用なんだが……アリアの場合はどうやってるんだ?」
「まぁ、理屈自体はそれで合ってるわよ? 水撃弾の水を多くして、火の要素を混ぜて温めたお湯にする……多分、そう言うことなんでしょ? でも、それって無駄が多すぎると思うわ。普通に鍋にでも水汲んで、火炎放射とかでもやった方が効率よくない?」
「そっちの方が余程手間だぞ? 多分、アリア達のやり方……魔力効率とかに問題あるんだろう。アンドリューの爺さんも、元来のエルフ式魔術の効率には致命的な問題があったから、改善したとかなんとか言ってたし。どうも、こっちの魔術は、俺達の魔術ほど洗練されてないみたいなんだよな。まぁ、とにかくお湯に関しちゃいつでも使い放題とでも思っておけばいい。今度、湯船でも作ってやるから、ちゃんとした風呂にも入らせてやるよ……やっぱ、女の子はいつも清潔でいい匂いがするくらいでないとな」
……お風呂って……そんなのどこの王侯貴族だよーっ!
そんな風に思いながら、軽く髪を濡らして、シャンプーとやらをつけるとめっちゃ泡立って、いい匂いがする。
……これ……花の匂いがするっ! まるでお花畑にいるみたい……素敵っ!
「な、なにそれ……石鹸とは違うみたいね。すっごい泡立ってるし! アタシにも貸して……っ!」
あっという間にアリアも泡泡……と言うか、コレ。
思った以上に泡凄いんだけど、どうすればいいの?
あれ、泡が垂れてきて、視界が……。
なんか、染みる……思わず目を閉じる……当然ながら真っ暗。
開けようとすると、ピリピリ痛くて目が開けられない……!
「目がぁっ! 目がぁーっ! ジョージくん、助けてーっ!」
思わず、叫ぶとバタバタとジョージくんが駆け寄ってくる気配。
「ああ、すまん。いきなりシャンプー使えって言っても無理だったか。あーうん、流してやるからじっとしてろっ! だから、裸で抱きつくとかやめいっ! 人が見たら誤解される……」
思わず、ジョージくんに抱きついてしまってたらしい……でも、目が開けられないから、離さないっ!
なんてやってたら、頭からダバダバとお湯がかけられる。
あっという間に泡が流れて、前も見えるようになった。
「た、助かった……。と言うか、めっちゃお湯無駄使いさせちゃったし……水で良かったのに……。ジョージくんもビシャビシャじゃない……ごめんね」
辺りはなんだか湯気がもうもうと立ち込めてるし……。
もったいないなぁ……。
それに、私自身は裸とかあんまり気にしないと言っても、ジョージくんはそうでもないんだった。
思いっきり裸で抱きついてた事に気づいたんだけど、案の定、目が泳いでる。
手を離すと、そそくさと離れようとしてるから、ガッシとその腕を掴む。
「待って……! えっと、出来れば最後まで手伝って……! シャンプーとかよく解んないし……」
あ、これ……命令になっちゃったかな?
でも、逃さないよ……こんな有様でどうしろと……最後まで面倒見て欲しい!
「う、うむ! ま、任せろ! ああ、ホントに裸見られても平気なんだな? 身体もあちこち触るぞ?」
真っ赤になってテレテレなんだけど、本当に命令には逆らえないらしい。
ごめん! ホントにゴメンだよっ!
でも、見捨てないでーっ!
「お、お願いしますっ!」
地面のジャリジャリの上に正座っ!
こちとら全裸だけど、今更気にしないよっ!
「ふふん、アタシはジョージくんに裸見られようが、あちこち触られたって、全然気にしないわよ! むしろ、いらっしゃーいって感じよ?」
アリアは先程同様どころか、ズロースも脱いじゃって堂々と胸張ってる……うん?
さすがに、ここまで大胆には……なれないな。




