第七話「チンピラ冒険者に絡まれるのは、テンプレです」①
「魔道具は似てるけど、もっとチャチで完全に別物よ。簡単に言うと、小型魔法陣に魔力を注いで、特定の魔術を誰でも低コストで発動する……そんな感じ? 点火の魔道具だと、手の平に乗るくらいかな……」
「手の平サイズって……デカっ! ライター代わりにするには大仰すぎるだろ。でもまぁ、要するに魔道具ってのは、補助具みたいなもんか……。俺、地上世界の魔術はよく知らねぇんだが、点火の魔術みたいな初歩の魔術を使うのに、専用の補助魔道具があるなんて……なんとも非効率的な事してるんだな」
点火の魔道具って……あれでも魔道具としては、小さい方なんだけど、ジョージくんの認識だとそうなるのか……。
お高い酒場とか食堂にあるような、食料や飲み物なんかを冷やしておくための氷室の魔道具なんて……超バカでかいんだけどな。
大人四ー五人分くらいずらっと並べたくらいには場所取るし、魔力も一週間くらいしか持たない割に、無くなったら魔術師一人が魔力空っぽにして魔力をチャージする……そんな感じだから、ものすごく維持費がかかるらしい。
それでも、冷たい飲み物ってのは、倍以上の値付けにしても売れるらしいし、ただの水ですら冷たくするとそれだけでお金取れるからね。
冷やしておくと食材も長持ちするから、十分元は取れるって、宿屋の女将さんも言ってた!
「そうね……。エルフの独自魔術に比べたら、人間の魔術はちょっと効率悪いわね。ちょっと大規模な魔術になると人数増やして数の暴力でって発想だから、元々魔力の許容量が大きいエルフの魔術とは根本的に違うのよ。と言うか、何となく思ったんだけど、この魔文字の字体って……アタシらエルフのエルフ文字に似てない? それにアンタが使ってた魔術も古代エルフ語が時々入ってたみたいなんだけど……」
……さすがに、私もエルフ語なんて読めないから、その辺は初耳だった。
普通の字なら一応、読み書き出来るけど。
お父さんも伊達に魔術師じゃなかったから、一通り教えてもらってたんだよね。
「ああ、俺の魔術の師は、元々はエルフだったからな……。多分、アリア達エルフの魔術に近いものがあるはずだ。だが、洗練度や効率は、桁違いのはずだぞ? なにせ、この程度のことなら造作もない」
そう言って、今度は両手の全部の指に火を灯してみせる。
小火と言えど、こんな10本の指に同時発動……なんてやったら、魔力をバカ消費する……。
やってることは一見地味なんだけど、普通の魔術師が杖や魔道具もなしにこんな事やったら、一発で昏倒しちゃう!
そもそもこんな10個まとめて、並列起動や同時制御なんて、あり得ないって!
それくらい私だって解るよっ!
「無詠唱で杖なしで、まとめて……そんな事出来るんだ! すっごっ! ねぇねぇ、今度アタシにも色々教えてよ! 鍛えてくれるんでしょ!」
「ああ、任せろ! つか、イスラ……さっきから見てると寒そうだから、服に刻印でも刻んでやろうか? 温暖の刻印ってのもあるからな……寒くても平気でいられるようになるぞ? まぁ、お試しって事で……」
そう言って、ジョージくんが奴隷服の背中にさらさらっといくつか文字を描くと、なんだかポカポカ暖かくなる。
「……背中が暖かくなってきた! ええ……ちょっとなにこれ!」
背中を見ると、金色に輝く魔文字の文字列が……。
こんなズタ袋同然の服になんてものを……。
これ……丈が足りてないから、足が寒いし、割とギリギリ……普通に歩くだけで、思いっきりお尻出てるって気付いたから、着てるだけでなんだか、恥ずかしいんだけど……。
これ……めっちゃ貴重品になってしまったんじゃ……。
はっきり言って、要らないんだけど捨てるに捨てられないよ……これ、超温かいし!
「うう、これ捨てようと思ってたのに……捨てられなくなったよ? せめてお尻が隠れれば……」
とりあえず、後ろを引っ張ってお尻を隠そうとするんだけど、今度は前が……もっと駄目っ!
「そんな後生大事にするまでもねぇんじゃないか。温暖の刻印程度なら、ほとんど魔力も消費しないから、いくらでも刻めるんだぜ? 単なるお試しだって言ったろ?」
あ、そっか。
ジョージくんが刻印魔術使えるなら、新しい服にも色々刻んでもらえば良いのか。
いーなー、いつでもポカポカ服なんて……。
最近、年中温暖なはずなこの辺も、ちょっと夜とか冷え込むようになって来たから、これだけでもとっても幸せになれそう。
猫人族って、暑いのは割と平気なんだけど、寒いのって嫌いなんだよ……。
求めるべきはヌクモリティ……温かい所で暮らしたいな……。
「そうね……! 自分達が使う分には誰も文句なんて言わないし! と言うか、イスラ尻尾っ! おっ立ってるよっ!」
ポカポカな服で気持ちよくなってたせいで、うっかり尻尾ピーンって立ててたみたい。
慌てて、降ろしたけど、後ろから追い抜いてった二人組の酔っ払いが私の顔を見ながら、ひゅーとか口笛吹いてる。
アリアの警告は、手遅れだったらしい……お尻、もろ見られた。
ジョージくんが「アイツら殴ってこようか?」なんていうので、とりあえず頭ナデナデ……暴力反対だよっ!
「おうおう、疫病猫とチビエルフじゃねぇか……。聞いたぜ? ゴードンの野郎を見捨てて逃げ帰ってきたんだってな! つか、何奴隷の格好なんてしてんだ? ケツなんぞ見せて、誘ってんのか? なんなら俺様が相手してやろうか?」
せっかく、人が気分良くなってたのに、台無しにするような罵声を後ろから浴びせられる。
……Cクラス冒険者のクリフだった。
一言で言えば、馬鹿でヤなヤツ。
性格悪い上に、私達亜人を目の敵にでもしてるらしく、何かと言うと絡んでくる……ウッザいやつ!
特徴……トサカみたいな変な髪型。
その癖、冒険者ランクはC級……上位三割勢って事だ。
そんなだから調子に乗ってて、初心者冒険者や格下を小馬鹿にして、やりたい放題。
それなりに実力もあるから、皆、あんまり逆らえない……。
思わず立ち止まって、振り返ると、向こうもニヤニヤしながら、近づいてくる。
クッソ、こんな奴にお尻見られたとか……こっちが気分悪っ!
お前なんか誰が相手にするかっ! フシャーッ!
「まぁた性懲りもなく、アタシらみたいな雑魚冒険者に絡んでくるの? ……馬鹿なのは髪型だけにしてちょうだいな。こっちもアンタが言うように、命からがら逃げ帰ってきて疲れてるんだから……それくらい気を使ってくれたって、いいんじゃないの? ホント、女の扱いってのがなってないわね……。だからアンタは、曲りなりにもC級なのに女の子にモテないのよ……」
アリアが毒のこもった調子で言い返す……いつものパターン。
思わず横目でジョージくんをチラ見すると、眉間にシワを寄せてクリフを睨みつけてる。
……こ、怖いよー。
頼むから、大人しくしてて欲しい。
でも、目が合うとニッと笑顔を見せてくれる。
ホントに命令しない限り、余計なことをするつもりもないみたいだけど……。
命令されなくても、私達が馬鹿にされて、気分が悪いらしい。
テンプレがどうのってブツブツ言ってるけど、彼の立場からすると、御主人様が馬鹿にされてるんだから、当然とも言える。
私達にとっては、クリフに絡まれるのは、もはやいつものこと。
黙って無視してれば、飽きてそのうち居なくなるんだから、我慢、我慢……。
「んだと、このクソエルフ! 相変わらず口が減らねぇガキだな! ああっ?」
クリフがアリアに掴みかかろうとした所で、唐突にその手が掴まれる。
ジョージくん私の隣りにいたのに、瞬きをしてる間に、アリアのところまで移動してた。
(う、動きが……見えなかった?)
そうだった……この子……飛んでくる矢を素手で掴み取るような真似してたんだった。
あの時は必死だったけど、そう言えばあの時も、一瞬で側まですっ飛んできてた……。
これでも、動体視力には自信あるのに……それでもパッと瞬間移動したように見えた。
「な、なんだ……テメェはっ!」
「お前こそ、なんだ? 俺の主……アリアにきたねぇ手で触るなよ……。しかも、イスラに色目なんぞ使いやがって……このクソモヒカンが……殺すぞ?」
アリアも殴られると思ったらしく、身構えてたのだけど、それよりもジョージくんの動きのほうが早かった。
……見た目、アリアと変わりないチビっ子なのに……やっぱり、すごい子だ。
「て、てめぇ……離せっ! くそっ、なんて馬鹿力だ……ガ、ガキのくせにっ!」
ほとんど力なんて入れてないように見えるのに、クリフは片手を掴まれただけで、身動きも取れなくなってるようだった。
「なぁ、アリア、イスラ……どうする? コイツ……殺していいなら、このままやっちゃうけど? どうせ、この手のバカは死なねぇと解らんだろうからな。このまま、腕の一本でもへし折ってやるってのもいいが、いっそ後腐れなく、この場でぶっ殺しとくことをお勧めするぞ?」
まるで、晩御飯のお勧めみたいな調子に、思わず背筋が凍りつく。
多分、私が首を縦に振るだけで、ジョージくんはクリフを瞬殺する……その事が解る。
ちなみに、ショタ仕様のジョージのCV:梶 裕貴さんをイメージしてます。
7つの大罪のメリオダスとか、進撃の巨人のエレンの人。
昔だったら、野沢雅子さんかなー。
あの人、半ば悟空で固まっちゃてるけど、星野哲郎とかダッシュカッペイとか、
若い男の子系キャラの定番だったんだよなぁ……。




