第五話「素敵で可愛い御主人様達のご要望」②
うぇ? マジですかっ!
おおお、幼エルフの柔肌に……って、ないない。
そんな事やってる場合じゃありませーん。
「大変、魅力的な提案ではあるのだが……そんな時間は無いと思うぞ。追手はしばらく来ないとは思うが、ここが危険地帯だということに変わりはないはずだ。奴等も夜は夜目が利くヤツしか森の中を追えないから、追撃を控えているだけで、夜が明ければ数をモノに言わせた本格的な追手がかかる……。昼間は俺の能力も大幅にダウンするからな……正直なところ、夜のうちに安全な所まで逃げてほしいのだ」
いかんせん、俺も吸血鬼である以上、日光に弱いと言う弱点は埋めようがないのだ。
もちろん、日の光をちょっと浴びただけで火傷したり、灰になるほどヤワではないのだが。
日光の下では、魔力や傷の自然回復が格段に落ちる上に、各種能力も全般的に弱体化するのだよ。
奈落に疑似太陽を創り出して、自ら人体実験した限りでは、体感で三割くらいは落ちると思う。
回復能力に関しては凡そ五割減……要するに半減する。
まぁ……これは、要するにゴリゴリダメージを受けてるんだけど、超回復でカバーしてる。
そんな状態だから……なんだがね。
たった三割と思うべきか、三割はキツイと思うべきかは状況にもよるし、本物の太陽の光ともなるとどれほどの影響がでるか全くの未知数。
なんにせよ、昼間の逃避行はこちらが一気に不利になる以上、極力避けたい所だった。
ぶっちゃけ、こうやって話をしてる時間ももったいないくらいではある。
はっきり言って全く落ち着かない……早く動きたーいっ!
「そうね……ごもっともな話ね。ひとまず、街道まで戻れば、冒険者ギルドの討伐隊の本隊が野営してるはずだから、とりあえずはそこを目指しましょう。ギルドマスターにも黒の教団の情報を報告しないといけないし……それにしても、血をあげるって言ってるのに、それよりも先を急げなんて……ホントに理性的なのね……」
「そうね……激しくガバっと襲われたりしたらどうしようーとか、初めてはやっぱり痛いのかなーとか思ってたんだけど……。欲望に流されないとか、ちょっとポイント高いね! こんなやっても平気だったりする?」
そう言いながら、アリアちゃん……キュロットの裾をついーとめくって、意外とムチムチな太ももをチラリ。
ついでに、なにやらズロース的な下着もチラチラと……。
と言うか、セリフだけ聞くと……どう聞いても、ヤバい事をするとしか聞こえない。
事案ですがな、100%ナマ的な事案っ!
……その、なんだ。
アリアちゃん、見た目小学生とかそんなんだけど、中身はそんな事ないぞ……絶対。
まぁ、女子高生とか女子大生くらいの精神年齢はありそうだった。
考えてみればエルフで幼女だからって、実際は50年100年とか生きてるってのが定番だから、見た目と精神年齢が一致してるわけがない。
あ、俺……暇つぶしにファンタジー系ラノベとか読んでたし、RPGなんかも詳しい。
表向きは硬派な武闘派ヤクザを気取ってたけど、誰も見てないところではラノベ読んだり、美少女ゲームやってたり……まぁ、そんなもんだよ。
深夜アニメとかも好きだったしな。
だが、そんな密かな趣味も、こんな形で役に立つとは、侮れんなぁ……。
思わず、アリアちゃんの太ももをガン見してたら気づかれたみたいで、アリアちゃん小悪魔チックな笑顔を見せる。
まったく、敵わんな……。
思わず、苦笑。
「ジョージさん、どこ見てるんですか! もうっ! アリアも……助かって気が抜けてるって解るけど、馬鹿やってないで、シャンとする!」
「はいはい、ほんと、イスラは真面目ね。でも、アタシら、偵察ミッションだったんだしね……少しでも早く戻ったほうがいいよね。実はお腹もへったしー!」
「私もだけど、取るものとりあえず逃げてきたから、食べものなんてないっ! そこらの木の実でも齧って我慢する! でも、丸々二日くらいはあそこで捕まってたから、ギルド側でも、何かあったって判断して、第二陣なり、本隊を直接動かすなりしてると思うんだけど……。なんにせよ、急いで戻って正確な情報を伝えないと……」
なるほど、察するに彼女達は偵察要員だったって事か。
どう言う事情であんな所で、生贄にされかけてたのかは良く知らなかったが、偵察に出て捕まったとかそんな感じらしい。
そう言う事なら、敵が全兵力を動員してまで、逃げるのを防ごうとしたのも納得がいく。
まぁ、俺が強すぎるってのもあるとは思うがね。
そうなると……。
冒険者ギルドの本隊……それなりの規模の討伐隊がすぐ近くにいる訳でもある。
であるならば、まずはそこを目指すべきだろう。
けど、俺みたいな化け物連れで……いきなり、冒険者達に襲われたりとかしないだろうな?
この子達は、割と違和感なく俺を受け入れてくれたっぽいけど、彼女達がマイノリティである可能性は考慮せねばなるまい……。
俺のせいで、足を引っ張ったり要らないトラブルに巻き込むのは、さすがに申し訳ない。
少なくともアンデッドと見破られないように、生者に偽装するくらいはやっておかないとな。
「なるほど……状況は理解した。ならば、尚更急ぐべきだな。それと俺にかかってる従属魔法なんだが、これはいわば仮契約状態なのだ。このまま引き続き、俺を従属させたいのであれば、本契約……正式な契約魔法の儀式を執り行う必要があるのだよ」
現状を正直に伝える。
ちなみに、俺も従属魔法は使えるので、その気になれば、今の従属状態を強制破棄することも出来るし、彼女達を逆支配することも可能なのだが……それはやらない。
なぜならば、それは御主人様への反逆行為だからだ。
ぶっちゃけこの子達を従えたからって、どうしろってんだ。
信頼関係を無視した強制奴隷とか、どれほどの役に立つやら。
兵にした所で、死ぬかも知れないと思っただけで、逃げ出すようでは話にならない。
真に使える奴隷ってのは、俺みたいなヤツのことを言うのだよ。
この俺こそ、奴隷の中の奴隷なのだ!
なんにせよ、この子達を奴隷とか意味のない真似をするくらいなら、この子達の好きにやらせて、無茶振りを喜んで引き受けるとか、助力に暗躍するとか、そっちの方がよほど性に合ってる。
実は、彼女達に従属している今の状態……全く不満なんて無い。
と言うか、思ったより気分いいんだよな……奴隷生活、最高っ!
「……あ、なるほど。そう言うものだったんだね。……と言うか、バカ正直にそんな事、言うなんて……仮契約なら、ほっとけば無効になるんじゃなかったけ?」
「仕方あるまい。すでに俺はお前達の使役下にあるのだ。御主人様の不利益となりかねない情報を隠匿するなど、今の俺には出来んのだよ……。ちなみに、本契約は俺に向かって「我に従属せよ」つって、一滴でいいから血を飲ませるだけでいい……割と簡単だろ?」
「ええっ! そんなでいいの? もっと魔法陣描いたり、長い呪文唱えたりとか要らないの?」
「……俺が心からお前達に従いたいと思ってる以上、それくらいで十分なんだよ。まぁ、別に後回しでも構わんよ」
実際、そんなもんだったりする。
魔法陣だの呪文だのは……無理やり、本人の意志に逆らって従属させる場合には必要だけど。
俺みたいな場合は、手っ取り早く従属のコマンドワードと契約の血だけで済むはずだった。
「……な、なんだかチョロいのね」
「その程度には、私達に忠義を誓ってるって事なのね。正直、私達の身の丈に合ってないくらいって気もするんだけど……」
「そ、そうね……。アタシらなんてDクラスの底辺冒険者よ? ホントにいいの?」
「なぁに、構わんよ。むしろ、お前達は伸びしろがありそうだからな。なんなら、俺がみっちり鍛えて、成り上がらせてやるよ。お前達にも相応の理由があってこそ、こんな冒険者なぞやっているのだろ?」
「アタシは……外の世界を見てみたかったからかなぁ。正直、大した理由じゃないわ……ちょっと前までそろそろ、森に帰ろうとか思ってたくらい。イスラは……暗黒神様の眷属として、暗黒神様を邪神呼ばわりとか許せない……とか言ってたから、暗黒神様の御使いを使役できるとか、願ったり叶ったりなんじゃない?」
「ほぅ、今の地上はフォルティナ様を邪神扱いして、崇めてる奴等も色々勘違いした先程の邪教団のような奴等ばかりと聞いていたのだがな。イスラのような殊勝な奴もいるのだな」
「元々、私達獣人は、暗黒神様の眷属だと言われてたのよ。特に、私達みたいな黒髪の種族は、直系とも言われ……それを誇りとしているの。と言うか、暗黒神様ってどんな方なの? 言い伝えでは、形なきモノ、真なる暗闇、万物の創造主……なんて、話もあったけど」
「うーん? まぁ、概ね合ってるがね……。俺が下僕になってから、奈落も随分変わっちまったし、あのお方も確実に変わった……と思う。ちなみに、そのお姿はアリアを更にちっこくした幼女って感じだな」
「暗黒神様が幼女って? なにそれ。アンタ、ホントになんなの? と言うか……これからどうするつもりなの? その気になれば、この世界自体を滅ぼしたりとかも出来るんじゃ……」
「さすがに、俺一人で世界は滅ぼせんだろうよ。だが……俺の異世界の知識だけでも、色々革命的なことをやれる気もするぞ。もっとも、ぶっちゃけ俺が地上に出てきたのって、想定外だったんだよなぁ……。なにせ、今の世界の情報があまりに少なすぎてな……。だから、情報収集も兼ねて、当面はお前らのお守りでもやってやるさ……支配の契約のおかげで、今の俺はお前達を守りたい……そんな義務感に満ちているのだ。とにかく、ここまでバカ正直に話したんだ……まさか、お断りとかしないよな?」
謹んでご返品とか言われたら、もはや途方に暮れるしか無い。
……俺、強がってるけど、案外小心なんだ。
計画みっちり立てるのも段取りの鬼なのも、失敗を恐れるがゆえにだって解ってるんだ。
だからこそ、想定外ってのは怖い。
出来ることなら、奈落に戻って色々準備するところから始めたいくらいだ。
なにせ、まだまだ情報収集の段階だったから、地上の情勢も全然わからんからなぁ……。
ただ、この様子だと、クソ女神の権勢は思ったほどじゃない。
なるほど……異世界からの召喚とかやってたのは、自分や眷属の力不足を補うためってのもあったんだろう。
まぁ、異世界転移主人公の定番、高校生の若造とか、ニートだの……そんな手合なんぞ、俺の敵じゃねぇけどな。
俺は、元殺し屋の上に、魑魅魍魎が跋扈する裏社会を口八丁手八丁で乗り切ってきたような猛者であり、そして、暗黒神の忠実なる下僕……暗黒神軍のナンバーツーだぞ?
うん、そうだ……自信を持てっ!
今の俺には守り、愛すべき御主人様達がいるのだ!
彼女達の未来を切り開く……うむ、戦う理由としては十分ではないか。
間違いなくクソ女神の配下……使徒とは敵対しそうだけど、正直今は出会いたくはないな……。
アイツらの対策は未だに途上だし、この子らも自分の身を守るのですら怪しいような弱者だ。
ぶっちゃけ、この先のことを考えると、この子達が頼りと言うのも実情。
俺自身、この子らのことは気になるし……ここでお別れとかなって、知らない所で死なれるとか悲しい。
一期一会とか言うけど、出会いは大切にしたい。
もう、本音を言うとだね……!
一緒に居させてくれるなら、何だってするっ!
命じられたら、パンツの洗濯だって、ハイッ! 喜んでっ!
まぁ、そのくらいの心意気なのだよ。




