第二話「ジョージ先生、かく語りし」②
結果的に、この「奈落」という世界が生まれたことで、地上……異世界は急激に安定し、それまで各地で天変地異が起き、不安定極まりない状態だったようだが。
奈落の誕生で、消滅の危機は脱したらしい……俺ってば、まさに救世主!
なんてこった……意図せず、軽く一回異世界を救っちまったなんて!
さすが、俺! なんてこった俺!
まぁ、それはともかく……。
俺自身は、このフォルティナ様に心底忠義を誓っている。
なにせ、この御方は神を超えた大いなる存在なのだからな。
共に世界を作ろうという言葉……そして、ケチなロートル殺し屋だったこの俺に……第二の人生を与えてくれた事。
これらの恩義は、もう俺のすべてを捧げて余りある。
もう、光の女神とか話にならんね。
と言うか、俺は……誰かのためにとか、誰かに仕える。
そう言うのに飢えてたらしいのよ。
一匹狼とか孤高のヒットマン気取ってたけど、俺って本質的にはそんな感じだったらしい。
だって、今……すんげぇ、幸せだもん。
自分の本質なんて、解ってるようで解ってないもんなんだなぁ……。
さて、かくしてフォルティナ様と始める新世界創造計画。
ポジション的には、俺は軍師とか参謀……みたいな感じで、フォルティナ様の要望や希望を聞いて、計画や段取りを立案。
フォルティナ様にご説明の上で、ゴーサインが出たら実行する……俺が!
そして、甲斐甲斐しくフォルティナ様の身の回りのお世話に駆け回る。
まぁ、そんな感じ
元々、俺自身表の仕事でも裏の仕事でも、緻密な計画を練った上で、事に及ぶ……段取り魔人なんてあだ名される程の計画性の鬼。
それに、こう見えて意外と家事スキルはパーフェクトなのだ。
もはや、この執事の仕事と言うのはある意味天職とも言えた。
やがて……この奈落に来て、俺の主観で五年ほどの月日が過ぎていった。
この五年で、フォルティナ親衛隊とも言える意識と知能を持つ高位アンデッドを三体ほど組み上げて、その配下を編成することで三つの暗黒軍団を作り上げた。
なにせ、この奈落と言う空間……どうも、様々な理由で、地上世界で一度死に、亡霊に成り果てた奴が最終的に落ちてくるようなところになってしまったらしく、アンデッドの素材……魂には全く困らなかった。
もっとも、アンデッド化した時点で正気を保っているような奴は少数派で、ほとんどが暴れるだけの生ゴミ状態。 そう言うのは、役に立たないから右から左でサクッと処分して……。
比較的、まともな意識を保っている筋金入りの亡霊共をかき集めて、着々と強力なアンデッド軍団を編成した。
もはや、その数、軽く一万……一騎当千の最強軍団ッ!
いずれ「奈落」からもう一つの世界……地上へ這い上がる術を確立した暁には、彼らが「奈落」の尖兵として地上を蹂躙するのだ。
なにせ……地上世界は元々フォルティナ様が創造された世界なのだからな。
それを掠め取ったコソドロ共を駆逐して、取り戻さねばならん。
その為には、2つの世界を繋ぐすべを確立せねばならない。
そして、その研究ももはや最終段階に入ったーっ!
「くくくっ……偉大なる暗黒神フォルティナ様に栄光あれ!」
だいたい、地上の奴等もなんだっての?
この世界はフォルティナ様が生み出して、そのお力で保たれてるし、今も奈落の存在があるからこそ、崩れ去らずに済んでると言うのに……。
感謝どころか、諸悪の根源……邪神扱いしているのが実情。
何という罪深さ……問答無用でギルティ!
よって、滅ぼすのが妥当だと俺は考えている。
この奈落が膨張を続け地上にまで届くようになれば、必然的に地上の世界は終わる。
まさに泡沫のように……軽くパチンと爆ぜて終わりだ。
地上の栄華、終了のお知らせ。
カウントダウン入ってるんだぜ?
なお、今の俺の服装は、本来は執事風の燕尾服と決めているのだが。
今日は、朝の激闘バトル開けもあって、戦闘モードのままだったので、巨大魔神モードだ。
まぁ、まさにパワーオブパワー。
巨体に加え、硬い鱗で全身を覆った本気も本気、超本気モード。
なにせ、今朝のバトルはすっかり盛り上がってしまって、我が軍団長の肉体派3人同時に相手にしたバトルロイヤル戦だったからな。
ラインナップもすげぇんだぜ?
一人は竜人、もう一人はロボみたいなゴーレム魔神。
もう一人は半裸筋肉の暑苦しい野郎……元勇者とか言ってたかな。
軽く一度世界を救ったまでは良かったらしいのだが……。
その後粗大ゴミ扱いされて、冷遇されまくった挙げ句に、毒殺とか……まさに悲運の最期を遂げたとかで、怨霊と化して、奈落に迷い込んで来たんだが……。
三日三晩もの間、俺と激闘を繰り広げ、お互い全力を出し切った挙げ句、どちらからともなく疲れたから、また今度にしようつって和解した……。
熱き拳による語り合い。
それは、下手な同情の言葉よりも雄弁であり、怨念や妄執すらも浄化するのだ!
三人とも気のいい奴等だ……いずれも何度と無く拳を交えた「強敵」と書いて「とも」と読む……。
熱き義兄弟の絆で結ばれた仲間達……もっとも、三人とも頭はいまいち良くない。
脳みそまで筋肉……脳筋ってのはああ言うのを言う。
……三バカとも呼んでる。
さすがの俺も、執事モードでは対抗しきれず、本気の魔神モードで相手して、辛くも勝利。
執事モードに戻るほどの魔力も残って無いから、やむを得ずそのままなのだ。
まぁ、神殿の天井はクソ高く設計したから、でかくても問題ないのだがね。
残り二人は女子の部下だ。
ちなみに、コイツらはどっちも色気過剰な双子の姉妹。
黒髪ロングヘアとショートヘアで揃いも揃って、巨乳持ち。
それぞれ、月と星を司る下級神族とか言ってたけど、その出自はよく解らん。
ある日、突然奈落に現れて、配下に加えて欲しいと言ってきたので、受け入れた。
なんでも、人間の信者……眷属がたくさんいて、そいつらの行き場がないとかで、結局、奈落に受け入れる事になった。
こいつらのおかげで、奈落もアンデッドだらけではなく、まともな人間もその住民に加わることになったんだがな。
まぁ、ちょっとした進歩かな。
直接戦闘力は、三バカには劣るものの、暗黒魔術による絡め手を得意としており、さすがの三バカも正面から挑むと大抵いいようにやられてる。
俺に対しては、なんか、めっちゃ好き好きオーラ出してるんだけど、俺はフォルティナ様の永劫の下僕なんでな。
愛だの恋だのに、興味はないのだ!
なにせ、俺、セクハラ、パワハラ、ダメ絶対の人だからな!
ここら辺は、前世から徹底してるんだ。
まさにザ・硬派!!
堅物結構っ! 女の裸とか横見でチラッで十分だぜっ!
ファーハハハハ!!
そして……。
今日も今日とて、俺はフォルティナ様の前に跪き、その命を静かに待っているところなのだ。
まぁ、すっかり前置きが長くなってしまったが。
俺の日常始まる! だっぜ!
「…………」
「…………」
「…………」
今日は待ちが長いぜ?
もっとも、理由は薄々わかっているのだ。
フォルティナ様の横顔……今日はいつになく悲しげな様子だった。
それ故に、俺も掛ける言葉が見つからず、随分と長いことじっと跪き続けていたのだ。
「……おお、ジョージ……いたのか。すまんな」
今まで気付いていなかったようで、ようやっと振り返って微笑みかけられる。
何とも自然な笑顔をされるようになったものだ。
この手の自然な表情づくりなども、以前はまるで駄目だったけど。
一緒に特訓して、フォルティナ様も自然な感情表現をできるようになったのだ。
なんと言うか、共に歩み成長する……。
俺って、親になった経験なんて無いんだけど。
なんか人の親の気持ちって、こんなかなーって解るようになってきたんだ。
思わず、こっちもつられて、笑顔になるぜー。
「いえ、私はフォルティナ様の忠実なる下僕。そのお心を乱すことなどあって良いことではありません。して、差し出がましいとは思いますが、何かございましたでしょうか?」
「いやなに、またしても地上で愚かな真似をやっておる輩がいてな……。これより起こる悲劇を想像し、胸を痛めていたのだ……人とはなんと愚かなのだ……数千年の時を経ても、一向に変わらんのだな」
フォルティナ様が覗き込んでいるのは、半透明の空間投影モニターのようなスクリーンだった。
なお、開発は俺……俺、こう言う細かい事もできる。
ヤクザ会社のIT機器管理もやってた関係で、ハイテク機器の扱いだって余裕だったりする。
今日日のヤクザの抗争も、人知れずの電子空間経由での攻撃ってのが、結構馬鹿にならなくてな。
ピンポイントでネットワーク経由で情報盗もうとして来たり、顧客情報狙ってハッキングとか色々あったのよね……。
オヤジさんとかそう言うの全然ダメだったから、専属に若いコンピューターオタクとか雇って、俺も一緒になって、そう言うのに対抗したり、色々機材揃えたりしてたら、すっかり詳しくなっちまったよ。
いずれにせよ、原理や仕組みさえ解ってれば、奈落の誇る魔術技術でハイテクの再現とかだって結構、出来るんだよなー。
俺、出来る男だから、情報の重要性は深く理解しているのだ。
ちなみに、すでに地上には極小サイズの偵察使い魔を多数送り込んでいるので、地上の情勢もそれなりに把握できている。
なお、偵察使い魔のサイズ的には、まさにダニサイズなので、普通に発見は困難を極める。
愛称は「ダニーMK11」だ。
プロトタイプの「ダニー1」から数えると10世代はマイナーチェンジを繰り返してる。
大型化したコウモリ型使い魔「ゴールデンバットMKⅡ」を送り込むことにも成功しており、いずれは大型魔獣なども送り込む予定だった。
なにせ、俺達の最終目的は、新たなる世界……奈落を地上に浮上させることなのだからな。
ただ、それは現時点ではなかなかに難しい。
地上の奴等も無能ではなかったようで、地上を固定化するための仕掛け、要石。
それが重しとなって、奈落の浮上を妨げているのだ。
もちろん、要石はしっかり守りが固められている。
顕現化した神々達、そして神獣と呼ばれる巨大生物共。
神軍やら神国なんて調子で、国や大軍が要石を守ってる場合もある。
それらが健在である限り、奈落の浮上は困難を極める。
もちろん、強引に力技で浮上させることも出来なくもないのだが。
それを強行すると、地上の世界は確実に崩壊する。
それは流石に忍びないし、多くの犠牲を払って……と言うのは、慈悲深き存在であるフォルティナ様が許さない。
あらゆる命を慈しみ、すべての母たる存在……それがフォルティナ様の本質なのだ。
だが、世界は生まれ変わらねばならない。
地上世界は、フォルティナ様が作り上げたものの、すでに崩壊が始まっているのだ。
奈落の誕生で、崩壊の速度自体は減じたものの。
その原因となった管理者たる神々はどいつもこいつも無能そのもの。
やっていることは単なる延命措置。
少しでも長く、生きながらえる為の悪あがき。
だが、それも致し方ない。
奴らは所詮、自分たちが神だと思っているだけの、まがい物。
まがい物の自称神々では、何処まで行っても、延命しか出来ない。
早いか遅いかの違いで、世界は……滅び行く。
裏切り者の神々を駆逐し、要石を破壊し古き世界はその住民共々新しき世界……奈落に取り込む。
それこそが……真なる救済なのだ。
俺は、その為の礎となる……そのつもりだった。




