プロローグ「はかない美少女達と俺の日常」
――真っ暗だった森が徐々に薄明るくなりつつあった。
新しい朝が来る。
希望の朝だ。
喜びに満ち溢れて、青空を……観たくねーよ!
まぁ、俺にとっては朝なんて、心底どうでもでもいいんだがね。
日光なんぞ、敵だ、敵……むしろっ!
ああ、俺の名は、スガタ・ジョージと言うんだ。
日本生まれの硬派な元ヤクザだ。
俗に言う異世界転生者だ。
実を言うと、割と最強な不死身ヴァンパイアでもあるのだよ。
デンプレ? そんなん知るか、バッキャローッ!
だがしかし。
今の俺は、推定10歳くらいのショタエルフの姿をしている。
見た目は雑魚だが、その実力は最強レベル……まさに、ショタの皮を被ったモンスターっ!
……何故か?
御主人様のリクエストだから。
以上。
なにせ、今の俺は奴隷なのだ。
御主人様は、二人の美少女達。
彼女達の命令は、もはや絶対なのだ! そう、絶対ッ!
どんな無茶振りだろうが、やり遂げねばならぬのだ……!
本来、地の底深くの暗黒神様の居城「奈落」にいて、暗黒神様に仕えていたのに、色々合って地上に召喚された結果、そう言う事になった。
もはや、俺の脳内優先順位は、御主人様達を幸せにしなければならないと言う義務感とその命に全力で答えねばならないと言う思いが、過半数を占めているのだ。
……過半数じゃ仕方ないよな? 圧倒的じゃん、我が軍はっ!
御主人様の言葉は絶対で、ありがとうなんて言われた日には、全身を歓喜が駆け巡るのだっ!
俺の忠誠度は軽くマックス振り切ってるのだ。
ああ、誰かに仕えるという事がこんなにも幸せな事だったなんて……命令されるのっていいよね?
……召喚システムの影響で、ある種のマインド・コントロールを食らってるってのは解ってる。
だが、解っていても、どうにかなるようなものではないのだ。
だからこそ、それで良いのか? と自問自答しなくもないのだが。
結論はとっくに出ている。
それでいいのだっ! 奴隷ばんざーい。
「ここだっ……今ッ!」
掛け声と共にフライパンを大きく振ると、目玉焼きが宙を舞う。
すかさず、皿に持ち替えて、目玉焼きをキャッチッ!
「うむ、今日も目玉焼きはパーフェクトな焼き加減ッ! 味噌汁もこんなものかな……」
流れるように、続いて焚き火に炙られていた鍋をおろしながら、軽くかき混ぜて中身を小皿にとって味見する。
「うん! いい感じにダシが出てるな……重畳、重畳!」
いやはや、俺の家事スキル大活躍だなー。
ちなみに、ミソは自家製……むしろ、必須だろこれ。
これで、白米の飯でもあれば最高なんだが……残念ながら、主食的なものは、硬い黒パンがあるばかり。
まぁ、こんなんでも水をかけて、火で炙ればそれなりに食える。
ジャブンと水にくぐらせて、焚き火の脇に串刺しにして置いておけば、いい感じになる。
なお、今の俺は裸エプロンスターイルッ!
要は、全裸+エプロンなんだが……まぁ、見た目はショタボーイだから、そこまで卑猥ではない。
背面防御力はゼロだが、ここらは夜でも蒸し暑いから、火を使って、飯の支度となると、このスタイルが一番なのである……変態なのではなく、合理的な理由っ! そう言うことにしといてっ!
ちなみに、これも御主人様のご要望なのだ……。
とある事情で着るものがなくなくって、やむなくこのスタイルを披露したら、めっちゃ喜ばれた。
ただ、正直、あまりやりたくはないんだよなぁ……。
起きてなんやかんや言われる前に、ちゃんと着替えるたいぜ。
とにかく、服がねー、まだ乾かないのだよー。
夜中、色々あっていつもの服はまとめて洗濯して、干してるところなのだ。
ちなみに、現在地は森の中……テント張って、焚き火を焚いて、絶賛野営中。
歩き旅ともなると、持てる荷物にも限度があるから、服の予備なんて最低限。
次元収納に仕舞ってあるのを使うまでもないし、火の側でほっとけばすぐ乾くしな!
あくまで、緊急避難措置! 別に好き好んでこんなカッコしてる訳じゃない!
「はうあー、ジョージくん……大変だよっ! 起きたら、アタシのパンツとズボンが行方不明っ! おまけにいつの間にかイスラと抱き合って寝てたし……。ううっ、体がケダモノ臭いーっ!」
とか思っていたら、御主人様の一人、ロリエルフのアリアが眠たそうに目を擦りながら、テントの中から現れる。
なお、上はシャツを羽織ってるものの、下は何も着てない……要するに履いてない。
「ふむ、アリア……。覚えてないだろうが、お前、夜中思いっきりジョビジョバやらかしたんだぞ。おかげで俺もこの有様だ。行方不明のパンツとズボンなら、洗濯して、そこで今、干してる所だ……乾くまで暫し待つか、そのままもう一度、寝直すといいぞ」
なんせ、俺、抱き枕代わりにされてたからな。
ゼロ距離でのジョビジョバアタックから逃れる術などなく、思いっきり巻き添え食らった。
被害状況……アリアの寝間着ズボンとズロース、俺のトランクスとズボンとシャツ、全部まとめて食らった。
それもあって、裸エプロンなのだ……御主人様の名誉のために黙ってるつもりだったが、そう言うことなんで致し方なし、解るな?
「ア、アタシ、またやらかした? って言うか、そうなると私、知らない間に脱がされた? もしかして、やっちゃった? と言うか、ノーパンで思いっきり、足ガバーって開いて寝てたしね……。さすがのジョージもやらずには居られなかったんでしょうね……。まぁ、許すけどね! で、で、感想は? アリアちゃんの……良かった?」
何故か、ワクワクと言った感じで身を乗り出してくるアリア。
まぁ、こいつは見た目は10歳くらいのガキンチョだけど、実年齢は軽く100歳近い。
いわゆるロリババァなのだが……まぁ、名実ともにお子様なのである。
ちなみに、どうもシモが緩いらしく、良く漏らす。
ちょっとビビったり、ヤバかったりすると、ジョビジョバしてるし、寝てる時も高確率でやらかす。
いっそ、オムツでもするか、裸で寝りゃ良いんじゃないかって思うのだが、乙女のこだわり云々で、断固拒否られている。
昨日もお風呂上がりにガバガバ水飲んでたから、ヤバいんじゃないって思ってたら、案の定。
ちなみに、アリアちゃん、やるとかやらんとか言ってるが。
俺は、御主人様に手出しなんてするつもりは微塵にもないし、そんな事は一度たりともやってない!
俺っては、健全紳士なんですーっ!
「やかましい。イイから、これでも履いてろ……」
言いながら、そこらへんに干してたアリア専用ズロースを投げつける……。
ちなみにこれは昨日一日アリアが履いてたやつで、昨夜のうちに干してた分。
もちろん、ノールック! 俺は紳士だからな!
「うわっ、まだちょっと湿ってるじゃないの……それにコレ、昨日履いたばっかなのに……また履くのぉ?」
「うるさい黙れ……今日の分はお前のジョビジョバで、また乾いてないんだ。旅の途上で贅沢言うなっ! つぅか、そろそろ、そのお漏らし癖なんとかならんかね? 夜中の洗濯とかコレで何度目よ……」
「ア、アタシもさすがにみっともないから、何とかしたいんだけどね……。そう言えば、一回やれば、お子様卒業って酒場のアンジェさんが言ってたから、ちょっと軽くやってみない? ドブシュッと!」
生々しい擬音で誘われてるらしい俺。
この子、そう言う子……男性経験とか皆無らしいのだけど、そう言う知識だけは無駄に豊富。
繰り返すようだが、俺にはその気はない!
「御主人様、それはちょっとご遠慮いたしまーす。とりあえず、火の側にいればすぐ乾くから、寝直さないなら、そのままそこで座っててくれ」
「おーう、相変わらずツレナイねぇ……別にいつだって歓迎なのに……。あ、朝ごはんもう出来てるんだ……いただきまーす!」
早速とばかりに、黒パンをかじりだすので、無言で目玉焼きの皿を差し出すと嬉しそうに受け取って、塩振って食べ始める。
「そろそろ、夜明けか……。いっそ、太陽なんて爆発しねぇかな……」
森の中がだんだん薄明るくなってきた。
それと同時に、肌がチリチリと日焼けするような感覚が広がっていく。
毒づきながら、愛用の黒マントをバサッと広げて羽織る。
別に陽の光を浴びても死ぬ訳じゃないけど、ヴァンパイアである以上、快適って訳がない。
なので、昼間はいつも俺はこのクソ暑い中、黒マントに覆面……とっても怪しい姿で活動している。
ホントは夜に動きたいんだけど、なんとなく夜は寝るって事になってるから、旅の夜は野営して寝るのが基本になってる。
まぁ、特に森の中だと、いくら夜目が利くとは言え、歩くスピードも全然遅くなるし、トラブルも起きがち……そこら辺は、しゃあない。
「ふわぁ……良く寝たぁ。あ、アリアにジョージくん、もう起きてたんだ……いつも早いねぇ!」
「ああ、イスラもおはよう。つか、なんでお前まで下履いてないの?」
もうひとりの御主人様。
黒猫獣人のイスラ様。
今日も猫耳がピコピコと可愛い……でも、やっぱりTシャツ一丁と言う卑猥な姿。
ネコみたいに両手、両足の順番で伸びをしながら、しっぽピーンと立ててるもんで、生尻が丸出し……でも、気にする様子はない。
「だって、暑かったんだもん……! 途中で脱いじゃった! やっぱ、パンツ履かずに寝たほうがぐっすり寝れるんだよね。えっと……やっぱり、履かないと駄目ぇ?」
微妙に甘えた声で、上目遣いで訴えかけられる。
つい、頷きたくなるのだけど、ここは断じて否っ!
「駄目です。いい? 女の子で履かないのは、人として駄目なんです。色んな意味でアウトなんですよ」
冷静に諭すように告げる。
まぁ、ノーパンヒロインとかアウトだろ。
「じゅ、獣人は本来、服なんて着ないんだからねっ! でも、ジョージくんが言うなら、しょうがないかぁ……」
頭の痛い話なんだが、本当にそうらしい。
獣人にとって服とは、人間が着てるし、常識らしいから仕方なく着る……そう言うものらしい。
まぁ、常識人な俺に言わせると羞恥心がぶっ壊れてるようにしか見えない。
獣人と言っても、微妙に体毛が濃いとか、獣耳としっぽがあるくらいで他は普通に人間と変わらない。
確かに、人前では服くらい着てくれと言いたくなる人族の皆さんの気持ちもわかる。
この辺、さすが異世界人って思う。
「ふふふ、野蛮なケダモノはお尻丸出しでも平気なんだもんね……。その点、エレガントなエルフは慎ましく、下着にだっておしゃれに気を使うのが常識なのよ!」
……何言ってんのコイツ。
さっきまで、普通に履いてなかったのに……。
エルフも獣人ほどじゃないけど、微妙に羞恥心ってもんが無い。
普通にあるなら、ジョビジョバの後始末を男にやらせて、自分はノーパンでぐーすか寝てたりしないだろう。
「はいはい、エレガント、エレガント……。あーっ! ジョージくんだって、履いてないじゃん……。けど、その裸エプロン……私も嫌いじゃないよ? 相変わらず、良いお尻してますなー! うりゃうりゃあっ!」
言いながら、素早く後ろに回り込んで、目玉焼き焼いてる俺のケツをさわっと。
「あ、てめぇ……! お触り厳禁だっつのーっ! つか、あぶねーしっ!」
「えーっ! だって、目の前にプリケツあれば、触るでしょ! って言うか、なんでそんなカッコしてんの? ジョージくんが一番、服着ろってうるさいのに……」
相変わらず、息を吸うように逆セクハラ……。
イスラはこう言うやつなんだ……確信犯だからタチが悪い。
「ふふっ、聞いてイスラ……ジョージ君たら、ついに我慢できなくなったみたいで、夜中、アタシのズロース剥ぎ取って、嫌がるアタシに無理やり……」
「そこっ! 人聞き悪いでーす! って言うか、ゼロ距離でジョビジョバ浴びる羽目になった奴を少しは哀れんでくれ……。イスラ、もう解ってるだろ? そう言うことだ……」
捏造良くない……。
と言うか、この二人……微妙に張り合ってるみたいで、良くこんな風にわけの判らんことで張り合い出すのだ。
まぁ、ひとえに俺が愛されてるって事でもあるんだがな。
モテる奴隷は辛いぜー。
でも、ジョビジョバるのだけは勘弁な!
「あー、そう言うこと。アリアも相変わらずね……。まさにお子様っ! ちなみに、私はおねしょなんてとっくに卒業してるわ!」
イスラがアリアをビシッと指差す。
「いいから、下履けよ……。ホイ、お前の分も出来たから、さっさと食え」
言いながら、フライパンから目玉焼きをポンと投げると、イスラが慌てて皿を出して受け止める。
ナイスキャッチ!
でも、履いてない。
やっぱ、駄目だこいつ……早く何とかしないと。
つか、この卑猥な環境にもいい加減慣れてきた。
どうもこいつら、二人で冒険してた頃からこんな調子らしい。
男の目がない上に、どっちも羞恥心が微妙にぶっ壊れてるから、こうなったんだと思うけどねー。
こんなの間違っても、他の野郎と一緒になんかしちゃいけない。
この子達は俺が守るっ!
これ……ハーレムっちゃハーレムみたいな感じだけど、なんか違うよな……。
ちなみに、二人は大人しく黙々と飯食ってる。
食ってる時は静かだし、大人しい。
朝飯も済んで、洗濯は済んでるし、残りの洗濯物が乾いたら、テントも撤収して日が昇り切る前に出発だな。
目的地は、帰らずの森を超えた先の水と森の国ラドシエル。
……まぁ、今回のクエストは、単なる荷物運びのバイトみたいなもんなんだがな。
ラドシエルの冒険者ギルド行って、物を預かって、そのまま帰ってくれば達成。
世界の危機も魔王も関係ないお気楽旅。
さて、その前に……。
ひとまずこの俺がこの二人と旅をすることになった経緯でも語るとしようか。
まず最初は、イスラの記憶。
パンツ履くの嫌いな猫耳獣人……「不幸を呼ぶ獣」なんて二つ名持ちだけど、気の優しいいい子だ。
彼の者は、かく語りしだ……行ってみようっ!




