悪口は最高の酒の肴だ
キリカが降参したことでマーシーの決勝進出が決まった。
その様子を見ていたタカシマサルとナイトガードのメンバー。
「ものすごい試合だったな。マーシーもそうだし、相手のキリカってのも凄かった」
グラブルはそんな感想を口に出した。
「ダメよ。あんなのマーシーの本気じゃないわ」
「そうか?結構ギリギリだったようにも見えたが」
口をへの字にして腕を組んでいるミクシリアに対してグラブルは尋ねた。
「全部後手後手なのよ!相手の魔法を見てからそれから対処しようとしてるのよ!しかもあの嬉しそうな顔よ!!絶対「次は何で来る?」「次は何で来る?」みたいな感じで楽しみながらやってるのよ!なにあの余裕感!!絶対後で説教してやるんだから!!」
ミクシリアは的を射ていた。
「いや、ミクシリアさん。それよりも大変なことが」
マサルは真顔で呟いた。
「せや。またマーシーがやらかした」
タカシも頷いた。
「最後の攻防。マーシーが猛スピードでキリカの両肩を掴む。そして押し倒す。そこから周りから見えないように真っ暗に。数分経って衣服の乱れたキリカが降参。しかもなぜか降参してるのに晴れやかな顔」
「そうや!!あの暗闇の中で鬼畜マーシーがやりやがったんや!!文字通り犯りやがった!!ほんの数分で堕としやがったんや!!」
「ほんの数分で自分を殺しにきていた相手を堕とすほどのテクニックとは・・・・」
マサルは真顔だ。
「あの暗闇で一体何があったんかめっちゃ知りたいわ!!一体どんな言葉を囁いたんや!一体どんな手つきで相手を手籠めにしたんや!!」
タカシは多分本気だ。
「おいおいまさかそんなことはないだろう?」
グラブルさんは流石にそんなことは、と言う風に2人に話かける。
「グラブルさん!アイツを舐めとったらアカン!道を歩いてたらすべての女性に点数付けて歩くようなヤツやで!」
「そう、マーシーはすれ違う女の子をヤレるかヤレないか常に考えているようなヤツです」
「マーシーは女の敵やで!!今も可憐な褐色美人が1人アイツの毒牙にかかったんや!」
「ロリコンマーシーがまさかの褐色ボインに手を出すとは!!」
2人はものすごく盛り上がっていた。そして一言喋るたびにビールをゴクゴク。
マーシーは最高の酒のあてにされていた。
「こいつらずっと呑んでるな」
グラブルは呆れた顔で2人を見ていた。
試合終了が合図されたことで通路から伸びていた先ほどの階段が同じように浮き上がった。僕とキリカは逆方向に歩きその階段から闘技場外へと出ていく。
なぜか悪寒がした僕はタカシたちの座る観客席へと視線を向けた。何をしゃべっているのかここからは聞こえはしないがほぼ間違いなく僕を貶めることを口にしているのだけはなぜだか分かった。
観客席の魔法騎士団の人達が忙しなく動いているのが見えた僕はキリカがここから出れるのか少し不安が残ったが、まぁ出れたとしても良し。捕まったとしても良しだ。
僕が使ったダークは大丈夫かな?無詠唱でキリカと接触しながら放ったからキリカが使ったと言い切ってしまおうか。
階段を上がり通路をゆっくりと控室へと向かって歩いていく。
そういえば魔水晶ほとんど関係なかったな、もっとゲーム性を感じたかった。
すると通路で腕を組み、僕を待ち伏せしている姿あり。
「先輩。来るんじゃないかと思いましたが、話は大会終わってからにしませんか?」
難しい顔で僕を見つめるネイさん。
『言いたいことが山ほどあるのだけれど』
「その解答全てにお答えしますが、大会が終わるまで待っていただけますか?きっとまだ聞きたいことが増えると思いますよ」
『・・・・・・・・・・・・いいわ。大会が終わってから私のところに来なさい』
「ありがとうございます。決勝頑張ります」
僕は笑顔でネイさんの横を通る。
「あ、1つだけいいですか?闇魔法って魔族しか使えないって本当ですか?」
『闇魔法を使う人間はいるわ。帝都の賢者様も使えるはずだし魔族だけってわけではないわね。魔法を使う魔族が闇魔法を基本得意としているのは事実だけれど』
「ですよね?ありがとうございます」
そう言葉を交わし僕は控室へと戻ってきた。
「おめでとうございます!!凄かったです!!火魔法、土魔法、氷魔法、雷魔法、全て熟練されていて勉強になりました!!」
拝むような姿勢で寄ってきたロマネちゃん。ズイズイと寄って来る。
「次はロマネちゃんの番だね。頑張って」
「はい!!決勝でマーシーさんと戦えるように頑張ります!!」
そしてバタバタと扉を開けて出て行った慌ただしいロマネちゃんに手を振る。
僕はチラリとミラを見るとミラは表情を変えずに扉に手をかけ出ていくところだった。
「ミラ。期待してるよ」
僕はそう言った。
ピタリと止まり僕の方に視線を向けるミラ。少し笑みをこぼした彼女は何も言葉を発することなく扉を出て行った。
後ろで静観していたホールドさんが僕に歩み寄ってくる。
「彼女とも知り合いだったのか?」
「ええ少し」
一緒にご飯を食べているところを誰かに見られていたとしてもおかしくない。僕は特に嘘も述べないように軽く答えた。
少しするとネイさんも控室へと戻ってき、僕とホールドさんとネイさんの3人になる。
「ああ、マーシーくん。色々と聞きたいことがあるんだが」
「大会が終わったらネイさんに呼び出しされてるんですが同じ用件ですかね?」
「おお、そうか。ならいいよ。俺も同席させてもらっても構わないかな?」
「ネイさんがそれでよければ構いませんよ。それに俺とネイさん2人じゃ念話での会話になっちゃいそうですしね」
ネイさんは首を縦に振り頷いた。
「じゃあ大会が終わったらよろしく頼む」
そして闘技場にはすでにロマネちゃんとミラがスタンバっている。
魔水晶もほとんど攻撃は受けていないが新しいものが設置され直したようだ。
「マーシーくんはどっちが勝つと思う?」
「出場者にそんなこと聞いちゃいます?」
「参考だよ参考。ちなみに俺はロマネだな。純粋な魔力量はおそらくロマネの方が上だろうしな。あの水で作った剣も発想はいいがロマネはもう10年近く英才教育を受けているからどんな盤面になっても対応できる力もあるだろうしな」
「そうですか」
純粋な魔力量は圧倒的にミラが上なんだよな。
ロマネちゃんそんなに小さい時から魔法学校に通わされてるのか。あまり青春できてないのかな?友達少ないって言ってたしな。
「俺の予想は・・・・・・ミラですね。ミクシリアさんの多彩な攻撃にもしっかり対応してましたしね。実戦に強いイメージかな?」
「ははは、ロマネが聞いたら泣き出しそうだな」
「ロマネちゃんは、なんていうか。若いんですよね。もっともっと成長するのは間違いないとは思いますが、いざ実戦となるとどうか分からないですからね。できれば一回戦でミクシリアさんと戦ってほしかったですね」
「練習や訓練は山ほどしているが実戦の対応がどうなるか?ということか。確かに一理あるな。ただ魔水晶の破壊というシンプルなこの戦いの中でならそれを補うほどの魔力は十分にあると思うがな」
「よし、それじゃあ賭けましょうか」
「お、いいねぇマーシーくんは何を賭けてくれるんだ?」
「帝都で買った良いお酒があるんですよ」
「よし、それじゃあこっちもリアの高級店の酒を用意しよう」
ネイさんは呆れた顔をしていた。
魔水晶も準備が整いロマネちゃんとミラが対峙する。
ロマネちゃんはローブを頭まで被り木の杖を取り出し構える。ミラは無表情のままその視線をロマネちゃんに向けたままだ。
そして試合開始の合図がされた。




