準決勝第一試合。ワクワクしてきた
控室を出て廊下を歩く。
手の届かないくらい高い位置に設置された小窓だけがある石造りの通路。妙に寂しい気持ちになる。
コロシアムで見世物として戦わされる戦士の気分・・・かな。
昨日と同じ闘技場入り口にスタッフさんが1人。
「こちらの階段より闘技場内へ降りられます」
「あ、どうも。ありがとうございます」
おいおい随分と目立つ階段じゃねーか。ここから一直線に闘技場まで続いた違和感のある階段。おそらく土魔法で作ってある即席のもんだろーが闘技場までの花道と化している。
「今日は演出はされないのですか?」
昨日と同じ長い髪を綺麗に後ろに束ねた眼鏡の女性スタッフさんが僕を見て微笑みながら話かけてきた。
「昨日は相手に合わせただけですよ」
と、僕は微笑み返した。
そして通路を出て階段を一歩一歩ゆっくりと降り始める。
おおおおおおォォォォォ!!
マーシーだマーシー!!
昨日サンダー使ったヤツだ!
ロリコンマーシー!!
いいぞーーーー!!
僕が入場すると大歓声が響き渡る。対面にはすでにキリカが闘技場に降りており向こう側の階段は砂になって崩れていくのが見えた。
あと、さっきタカシの声援が聞こえたためそっちに向かって鋭い眼光だけは飛ばしておこう。
闘技場に足が着くとこちら側の階段も砂になり崩れ落ちていく。これで逃げ場はなく闘技場には僕とキリカ。そして双方の魔水晶があるだけか。
「これが魔水晶か、でかいな」
僕は2メートル以上ある魔水晶に触れてその大きさや硬さを確認する。
「この無駄な大きさは当てやすすぎるだろ」
僕は魔水晶の前で相手に向かって正対した。距離は結構離れている。50メートルくらいだろうか?
キリカも向こうの魔水晶の前でこちらを見つめている。
とりあえず最初は様子見するか。
魔水晶の前でこちらを見ている魔族のキリカ。
人間年齢的には20代中頃から後半ってところの外見の美人なお姉さん。ボリュームのある髪型、そしてボリュームのあるバスト。胸元の大きく開いた黒いドレスのようなローブ。
手袋や靴も黒く肌も褐色系で全体的にダークなイメージがするな。
会場がシーンと静まり返った時、試合開始の合図がされた。それと同時に観客の声援が響き渡った。
思わず僕の口元が自然に緩んだ。特に意識したわけでもないのに自然と笑みのこぼれた自分に対してなぜか笑えてきた。
大観衆の中見せものになって1対1の本気バトルか。タカシとマサルもこんな気持ちだったのかな?
試合開始と同時にキリカの前にはおよそ10程度の火の球が浮かびあがる。
相手も様子見ってことかな?
僕も同じように10ほど火の球を自身の前に作り出す。威力は弱め。だいたい野球ボールくらいの大きさだ。
「さぁ始めよう」
僕はそう言って10ある火の球を一直線に相手の魔水晶へと目掛けて放つ。
キリカも全く同じように火の球をこちらへと向けて放つと闘技場の中央で交錯した火の球はいくつかは接触して相殺。3つは抜けてこちらの魔水晶に向かってきている。
そのうち2つは追加のファイアで相殺すると残った1つは僕の頭上を通過してこちらの魔水晶に触れたと同時に
バシュン!
と消え去った。
「うおスゴイ。本当に吸収したのか。でも濁ったようには見えないな。あれくらいじゃ色も変わらないのかな」
キリカは僕の放った火の球は全て相殺したようだ。場所は変わらず魔水晶の前で今度は詠唱を始めていた。
「魔法打つのと同時にこっちに向かってくるかとも思ったけど。遠距離での打ち合いがお望みなのかな?」
とりあえず何か詠唱してる風に口ずさみながらゆっくりと相手陣地に歩いていく。
するとキリカの詠唱が完了したようだ。
「ファイアアロー」
今度は火の球ではなく火の矢がおよそ30か。
めちゃくちゃ熱そうなんですが。
キリカはこちらに手を向けるとその火の矢は一斉に直進してきた。
わお、逃げ場のないほどのこれだけの火の矢が飛んで来たら絶望しかないよな。
僕は進行方向から避けるように左にさっと移動する。
「おいおい全部俺に向かってきてない?」
火の矢は1本も魔水晶には向かわず僕に向かってきている。
僕は咄嗟に左腕を振り15本ほどの同じような火の矢をその群れに打ち込んだ。そして
「ファイアウォール」
火の壁を目の前に作り出して後ろに軽く跳ぶ。
壁の向こうで炎の弾ける音がする。
よし、10くらいは削れたか?索敵と感知で残りの火の矢を把握すると残り全ての火の矢は火の壁に当たらず左右と上方向に逸れている。
「わーい、ホーミングだー(笑)」
上6、右6、左8。
僕は左方向に火の壁を作り出し火の矢が6本迫って来る右側に勢いよく移動。
「マジックガード」
目の前にマジックガードを張り、向かってきた6本の火の矢をマジックガードで弾き壊すと元居た場所に
「ファイアストーム」
左と上から向かってきていた残りの火の矢を全てまとめて焼き尽くす。
縦横3メートルくらいの火の柱に呑まれてそれ以上の火の矢の追撃は無くなった。
ミズリー師匠と同じようなことしてきたな。けれど予習は完璧です。
キリカはその場からどうやら動いてはいない。あくまでそこから動かないつもりかな?今のは結構こっちに近寄ってくるチャンスだと思ったんだけど。
僕は気をとりなおしてスタスタと相手陣地へと歩を進める。
さぁ、次は何で来るんだ?これ以上数を増やしてもあまり効果はないって分かっただろう?それなら。
キリカはしゃがみ込んで地面に手をあてて詠唱を始めている。
土魔法かな?
キリカのスキルは火魔法LV3、土魔法LV3、闇魔法LV3。闇魔法をぜひ使って欲しいところなんだがおそらく土魔法だよなぁ。
「顕現せよ!ロックゴーレム!」
地面がボコボコと溢れ出した。
まるで沼のように見える地面からそれは這い出てくる。砂埃をまき散らしながらその地面から盛り上がって現れたものは僕の倍はあろう土でできた人型の物体だった。
「ゴーレム来た!」
3メートル級の土でできた人型のゴーレム。その重量を支えるためのでかい足。バランスボールくらいはあるそのでかい拳。流石に顔はのっぺらぼうではあるが目の前で起きた光景に僕の笑みが止まらない。
そのままドスドスとこちらに向かってくるゴーレム。リアルでこんな得体のしれないものが近づいてきたら相当ホラーだな。
キリカは地面に手を当てたままその場を動かない。
ゴーレムの維持には地面に手を当てておく必要があるのか?術者が無防備になるのはデメリットがでかいな。
ゴーレムは一定距離から地面を蹴り急に加速してこちらに向かってきた。
うぉ!思ったより早い!
そのまま拳を振りかぶり僕にその拳を打ち込んでくるが咄嗟にバックステップで躱す。
躱されたゴーレムは打ち込んだ拳をすぐさま大きく振り裏拳で僕を狙うがそれも僕は体を逸らして回避した。残念僕の俊敏はウチのバカ2人を除けばこの街で一番早いと思うよ。
キリカは地面から手は離していない。やはりその態勢を維持しないとゴーレムを操作できないのか。
想像していたよりも早い動きで腕をブンブンと振り回すゴーレムに僕が防戦一方になっているとキリカが地面に当てていた右手とは反対の手をこちらの魔水晶に向けているのが見えた。
なかなか考えているな。ゴーレムで僕の動きを封じて別の魔法で水晶を破壊か。両手で別の魔法を撃てるのか?
キリカの左手に魔力が流れるているのが分かった僕は流石に無防備の魔水晶を攻撃されるのはまずいなと思い
「アースロック」
ガァン!!と音をたてて地面がゴーレムの腰辺りまで盛り上がりゴーレムの下半身をただの岩に仕立てて動きを止めると僕は魔水晶の前に割って入る。
キリカは右手は地面にあてたまま。左手はこちらに向け詠唱を呟いていた。
右手と左手で別々の魔法を使えるのか、すごいな。
さて、次は何を出してくる?




