才能のあるなしで言うと多分この人はあるんだと思う
第三回戦、ミクシリアさん対魔王の娘。
試合開始と同時にお互いが全く同じ動きを見せる。
「「ウォーターランス!!」」
ミクシリアさんも魔王の娘も自身の周りに6本の水の槍。動作もほぼ同じでその水の槍を放つとお互いの前方の3本の氷柱へと向かって行く。
2人とも全く防ぐ動きは見せずにお互いがお互いを目で牽制し合っているようだ。
双方の前方の氷柱3本は各水の槍が2本づつ突き刺さりあっさりと崩れ去った。
お互いこれで6本6本。
「全く防ぐ気配もなかったわね。ということはキングはやっぱり後方かしら?」
「・・・・・・・・・・。」
常に楽しそうにしているミクシリアさんと全く表情を変えない魔王の娘。
「ちょっと攻めてみようかしら」
ミクシリアさんが深呼吸して魔力を練っているのが感じ取れた。
「ウォーターアロー!!!」
さっきの水の槍よりもやや小さい水の矢だ。しかも20本。
「どうやって防ぐのか楽しみね!!」
一斉に氷柱へと向かって行く20本の水の矢。数で押し切ろうっていうのかな?
「ウォーターウォール」
魔王の娘は自陣の前方に水の壁を展開。さっきロマネちゃんが出したのと同じくらいの水の壁が氷柱を守り水の矢はその壁に飲み込まれていく。
ガァン!ガァァン!!
しかし水の壁で守っていた魔王の娘陣営のど真ん中の氷柱が砕けて崩れ落ちた。観客のどよめく声が聞こえてきた。防がれたと思われた水の矢が水の壁を抜けたのが不思議なようだ。
流石に魔王の娘の表情がしかめたのが見てとれた。
「あのくらいの水の矢があの壁を抜けるなんておかしいわね」
ミーシアさんがボソッと声を漏らした。
「水魔法じゃないものが混じってた」
ロマネちゃん正解。
おっ、ミクシリアさんが空中にジャンプして真ん中の氷柱に移動した。次は何やってくれるのかな?
水の壁を解除して盤面を見下ろす魔王の娘。そこには氷柱に立ってにやりと笑みを浮かべるミクシリアさんの姿が目に入る。
「氷魔法?」
「あら、ちゃんと喋れるのね。水の矢は防げても強度の高い氷の矢は防げなかったってことね」
水の矢の中に氷の矢を隠してたってことなんだよな。やることが細かい。実に僕好みだ。
魔王の娘は少し考えた表情を見せたと思ったら前に跳び最後尾の中央の氷柱に降り立った。
「おいおい、今日は前に出るのが多いねー。何?流行っているのかい?」
ゼアネルは茶化す風に苦笑いしている。
「こっちは6本、そっちは5本。後は打ち合いがお望みかしら?」
ミクシリアさんは強気だ。そりゃそうだ、まだアレを出してないんだしな。
それでも、魔王の娘ってまだなにもやってないんだよな、不気味すぎる。
「それじゃあわたしの次の一手いくわよ」
ミクシリアさんは相手陣営の残った右中央の氷柱に人差し指を向けた。
「サンダー!!」
ミクシリアさんの身体に雷の支流が纏わり指先から雷が放たれる。
ビシャァァァァァァァァァァァン!!!
脆く崩れ落ちる氷柱。
すぐさまミクシリアさんは逆の氷柱にも指先を向け
「サンダー!!!」
同じく崩れ落ちる氷柱。観客のどよめきと声援が木霊した。
魔王の娘は目を見開き驚きの表情を見せた後にかすかに笑ったように見えた。
ミクシリアさんは次に指先を最後尾の中央に立っている魔王の娘に向ける。
「やっと表情変わったわね。見下してたのか知らないけどちょっとイラッとしてたのよね。申し訳ないけれど降参してくれないかしら?こっちは6本、そっちはあと3本。あと3回わたしがサンダー打てば終わりよ」
「ごめんなさい。甘く見ていたわ」
「でしょうね。けれどこれで終わりよ。降参しなさい」
「降参はしないわ。続けましょう」
「・・・・・・・・・・・・そう、怪我じゃすまないかもね」
魔王の娘の右手に魔力が集まっている。なにかする気だ。
「サンダー!!」
ミクシリアさんも気づいたようで迷わず相手の立つ氷柱にサンダーを放つ。
しかしそのサンダーは魔王の娘には向かって行かず左右に逸れていってしまった。
「ちっ!やるわね!無詠唱で水の壁を!」
魔王の娘の前には壁ってほど分厚くない水のカーテンが半円状に張られ雷を見事に逸らした。水は電気を通す・・・・か。
「ならこれよ!!アイスランス!!!」
ミクシリアさんの周囲に氷の槍が6本。残る3本の氷柱に対して2本づつぶち込むつもりか。
「水の剣」
魔王の娘は右手を左から右にその場で振るった。
「え!?ちょっ!!」
ミクシリアさんの立つ氷柱が崩れ落ちた。いやミクシリアさん陣営の6本の氷柱全てが中程から斜めに斬られ全ての氷柱があえなく地面に崩れ落ちた。
そこでパネルは試合終了を宣言し残念ながらミクシリアさんの負けが決まった。
『水の剣』って言っていたな。めちゃくちゃ長い剣で一振りで6本全部斬ったってことか。魔法・・・・・だよな?
「一体・・・・・なにをしたんだい?ウインドカッター??いや、彼女が発したのは水魔法だったように感じたが」
ゼアネルが精査しているがあんな魔法は見たことがないのだろう。
魔法は想像力、か。
落下していったミクシリアさんは特に怪我もなく元気いっぱい控室に戻ってきた。反対側の扉から入ってきた魔王の娘を苦虫を潰したような表情で見ていたが「仕方がない!負けは負け!」と思ったより悔しくないようだった。
「悔しい悔しい悔しい!!」
そんなことはないようだ。
「左右の2つサンダーで狙う前に心を鬼にして相手ごと消し炭にしてればワンチャンあったのにー!」
「良い試合でしたね、ミクシリアさん。サンダーの威力も精度も随分上達しましたね」
「でしょー!この大会に向けてサンダーだけずっと練習してたのよー!ああ!悔しいーー!」
「サンダー覚えてまだ2週間くらいでしょう?ミクシリアさんが1番天才かもしれませんね?」
「何よ、その褒めかた。アンタ絶対優勝しなさいよ。優勝以外と手加減は私が許さないわよ。兄弟子としての命令よ」
「大丈夫。優勝はしますよ」
「キィーーーーー!この余裕がむかつくーー!!」
どう答えろっちゅーねん
「それよりもさァ、さっき通路で無言でこっちを見てくる鎧姿の女の人がいたんだよねー」そいつはきっと人見知りのネイさんですね「なんだかモジモジしていて話しかけたそうにも見えたんだけどちょっと怖くて走って逃げてきちゃった」
「ああ、そうですか。その人多分魔法騎士団の支部長のネイって言う人ですね。ミクシリアさん知らないんですね?ネイさんもミズリー師匠のお弟子さんですよ」
「え!!そうなの!!挨拶した方が良かったかしら?」
「大丈夫ですよ。多分話しかけたら逃げていっちゃうくらい人見知りみたいですから」
「そ・・・そう。変わった人なのね」
「ミクシリアさん・・・・・その・・・・・・すごかったです」
ずっと横で黙っていたロマネちゃんが話かけてきた。
「うーーん残念ながら負けちゃったからなー。ロマネちゃんは次頑張ってね」
「氷魔法も雷魔法もすごく珍しいのに両方使えてホント凄かったです」
チラッと僕を見るミクシリアさん。はいはい僕も両方使えますよ。
「私の得意魔法はね、水魔法なのよ。でもね水魔法だけじゃロマネちゃんに勝てないわ。私には魔法の才能がないって分かっているの。だからいろんな小細工を用意する必要があるのよ。私の職業は魔法使いではなくて冒険者だからね。生きるために色んな魔法もそうだしそれ以外のことも覚えていくのよ。私としてはロマネちゃんのその魔法の才能の方がスゴイと思うわよ」
「ちなみにミクシリアさんは回復魔法も使える。俺は決してミクシリアさんは才能ないなんて思ってないですよ。だからさっき言ったじゃないですか、ミクシリアさんとは一番戦いたくないって」
「回復魔法も!?スゴイ」
ミクシリアさんがジトーっと僕を見てくるが僕はカラッとした笑顔で返す。
「はいはい2人とも準決勝頑張ってね」
人の前では悔しい悔しいとは言っているが本当に悔しそうな素振りを見せない。
けれどきっと心の中では色んな後悔があるんだろうな。今この場で笑顔のミクシリアさんを見ていると本当に素敵な人なんだと思える。




