貪欲な女の子。え?誉め言葉ですよ
両者はすでにパネル位置でスタンバっておりカウントダウンが始まった。
3!!
2!!
1!!
試合開始!!!
流石に僕のようにスタート位置から移動するようなことはないようだ。
ロマネちゃんが自身の周囲に3つの水の球を作り出したと同時にミーシアさんが叫ぶ
「ファイアランス!!」
やっぱり火魔法がメインなのか、5本の火の槍。2メートルくらいの火の槍5本がロマネちゃん側の前方の氷柱目掛けて発射される。
その5本はそれぞれが前方3本に別々に向かっていきあわよくば3本、防がれても1~2本破壊しようということかな。
「ウォーターウォール」
ロマネちゃんは周囲の3つの水の球はそのままに水の壁を前方の3本の前につくり出す。
その壁の規模は大きく横幅は十分に前方の3本を守れるくらいでさらに高さも十分で氷柱からさらに上空まで突き出しているため闘技場を半分に分断するようにセンターライン上に大きくそそり立った。
すごいな、滝が逆流しているようだ。
僕の今いる位置はちょうど真ん中なので目の前に大きな水の壁が立っているがロマネちゃん側もミーシアさん側もよく見えている。
ロマネちゃんはスタートから出していた3つの水の球を相手側に放ち次いで自身もスタート位置から前方へと駆け出した。
何か詠唱をしているな。なにしようとしてるのかな?
対するミーシアさんは前方が水の壁で覆われて相手側が見えないことに渋い顔をしていたが追加で火魔法を発動
「ファイアランス!!」
今度は10本以上の火の槍を数に物を言わせて撃ちこんだ。
ロマネちゃん側から飛び出してきた3つの水の球に気づいたミーシアさんは咄嗟に同じ大きさの火の球を放ち迎撃に成功。と、同時にミーシアさんの放った火の槍が水の壁に激突。
ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
ジュワァァァァァァァァ!!
焼けた石に水をぶちあてたような音と大量の水蒸気の煙幕が発生する中2本の火の槍は壁を貫いて1本はロマネちゃん側の前方の右前に直撃。もう1本はその後ろの氷柱に激突してロマネちゃん側の右前と右中央の氷柱は崩れ落ちた。
2本通過できて2本ともヒットできたのはラッキーだったな。
まだ終了合図は無いからキングではなかったようだ。
そして詠唱中のロマネちゃんはさっきの僕と同じ場所。前方の真ん中の位置に居た。
さて、なにするんだ?
その時中央を分割していた水の壁は勢いを弱めていき消滅。お互いに視界が広がったことで動揺を見せたのはミーシアさんの方だった。
「えっ!前に出てきた!?」
その時ロマネちゃんの詠唱が終わったのか、ロマネちゃんはカッと目を見開き両手を天にかざし最後の言葉を放った。
「大いなる水の力で全てを飲み込め。ダイダルウェイブ!」
ロマネちゃんの上空のなにもないところからありえないくらいの量の水が一斉に噴出した。
その津波のような大量の水はミーシアさん陣営の前方、センター、そして後方と飲み込むと同時にへし折っていき、あっという間に9本の氷柱を全破壊した。
このままならその大量の水はロマネちゃん側に返ってきてロマネちゃん側の氷柱もへし折っていくかと思ったが試合終了の合図と同時に大量の水は霧になって消えていった。
一息ついたロマネちゃんがこっちを見ながら手を振っているのでこちらも軽く手を振り返しておく。
「いやー、すごいわねあの子」
ミクシリアさんが横から声をかけてきた。
「今のが水の上級魔法ってやつですか?」
「そうね、本当に使えるのね。あの若さであんなの使えるなんて卑怯よ、卑怯。私が何年魔法の修行してると思ってるのよ。水魔法は私の得意分野だけどあんなの見せられたらどうしようもないわね」
「ミクシリアさんの良いところは水魔法じゃなくて色んなことに貪欲なことですよ。それに今は水だけじゃないでしょう?」
「なにそれ?褒めてんの?貪欲って女の子にかける言葉なの?あーあ、やだやだ。これだから天才って嫌だわ」
「俺は自分のことを天才だなんて思ってないですよ。色々運が良かっただけですね。ちなみに出場者の中で一番対戦したくないのはミクシリアさんです。知り合いだからって理由じゃなく、一番手数が多くて何やってくるかわからないところは参加者で一番なんじゃないですか?ミクシリアさんとやったら絶対楽には勝てないですよ」
「楽には勝てないけど勝つってことよね?まぁいいわ、誉め言葉として受け取っておきましょう」
少し穏やかに笑うミクシリアさんの横顔はすっきりと晴れた笑顔に見えた。
「それじゃあ行ってきますか」
「頑張ってください。期待してます」
「相手をボッコボコにしてくるわ」
「女の子のする発言じゃないですよ」
そう言って笑顔で控室を出ていくミクシリアさん。
それと同時に控室を出ていく魔王の娘はこちらには目もくれずに退出していった。
複数の魔法使いが闘技場に氷柱を設置している間にロマネちゃんが控室へと帰ってきた。
「おめでとうロマネちゃん。すごい魔法だったね」
「ありがとうございます。マーシーさんに負けてられませんでしたから」
こちらに近づいてくる人影1つ
「いやあー、素晴らしい水魔法だったね!大規模な水の壁で視界を塞いで最後は上級魔法で一掃。素晴らしいの一言だね!!」
ゼアネルが近づいてくるとロマネちゃんは僕の影に隠れるように身を潜めた。
「彼女怯えてますよ。何かしたんですか?ゼアネルさん」
「いやいや、なにもしてないよ!あ、そっか!照れているんだね!いやぁーそんなに照れなくたっていいんだよ?」
こういう天然は怖いものがないから恐ろしいな。
すると控室の逆の扉からミーシアさんが入ってきてそのままこちらへと近づいてきた。
「完敗よ完敗。あんなの出されたら防ぐなんてできないわよ」
「いやーお疲れ様ミーシアくん。流石にアレを出されたら仕方がないね」
「水の上級魔法ダイダルウェイブ。初めて見たわ」
僕の影に隠れていたロマネちゃんが僕の前に出てきてミーシアさんに向き合った。
「あ・・・・ありがとうございました」
「別に感謝されることなんて何もしてないわよ。まぁ、凄い魔法見せてもらったから逆にこっちが感謝してるくらいよ」
「あ、僕も同意見です。こういう機会でこんな優れた魔法使いの皆さんを目にできて感謝の気持ちで一杯です。ロマネちゃんの水魔法もそうですがミーシアさんのあの水の壁を打ち抜いた火魔法も洗練された火魔法でしたし、ゼアネルさんのあの精密な風魔法もすごく勉強になりました」
「そーかいそーかい!僕の精密な風魔法に魅了されちゃったかー!君が言うならいつだってお手本を見せてあげるよ!」
ゼアネルがうるさい。
「うるさいわよゼアネル。ロマネさんありがとう、またこういう機会があればよろしくね」
そう言うとミーシアさんは右手を出しロマネちゃんとガッチリ握手をした。
「ありがとうございます。私も勉強になりました」
すると会場のアナウンスが聞こえ次の試合が始まるようだ。
実はこのカードが一番楽しみだったりする。
首からぶら下げた僕とお揃いの腕輪を揺らし、不敵に笑うミクシリアさん。何かやってくれそうだと期待してしまう。対する魔王の娘の表情は無だ。
そして第3試合がスタートした。




