演出ってのも大事だと思う
お腹も膨れて元気いっぱいになった僕とミクシリアさんとロマネちゃんは控室へと戻ってきていた。
帝都の武闘大会とは違って参加者の顔見せはなく、そのまま第1試合が始まるとのことなので1回戦に出る僕とゼアネルは指定の位置まで案内されるとのことだ。
「じゃあ頑張ってね。あたしとやるまで負けるんじゃないわよ」
ミクシリアさん、そのフラグはちょっと・・・・・・・。
「マーシーさん、頑張ってください」
「ありがとうロマネちゃん。ベストを尽くすよ」
「おおっと、ロマネくん。僕にもエールをお願いできるかな?」
ゼアネル。すごい男だ。
「えっと・・・・・・」
僕の後ろに隠れるロマネちゃん
「たはははは、これはまいったな。ならミーシアくん、ぜひ僕にエールを」
「盛大に散ってきなさい」
「いやあこれは手厳しい。よしよし華麗に散らせてくるとしよう」
はっはっは、とゼアネルは案内されて控室を出ていく。僕も控室を出てゼアネルとは反対側へと案内されて闘技場内を歩いていく。
案内されたのは闘技場の端。ゼアネルは反対側にいるのだろう。そこから見た闘技場内の施設に目を奪われた。
氷柱バトル。18本の氷の柱がそそり立っている様は圧倒的だった。高さ5メートルほどで横幅も2メートル近くあり想像よりもがっしりした氷柱だった。
ここに立つ参加者はあれくらいなら破壊できて当たり前ってことか。
廊下からは横壁のないただの石の床が闘技場内に突き出していて突き当りに土台とモニターらしきものが設置されている。
「あの台が術者の指定位置になります。まず開始前にあちらに見えますパネルに載っている9つマスから自身のキングをお選びください。そのキングが相手に破壊されれば負けになります」
なるほどね。それにしても結構な高さだな。高所恐怖症のヤツなら向こうまで行けないんじゃないか。特に僕は問題ないが。
闘技場の中央の脇の観客席にはおおきなパネルが設置されていてそこに18本の氷柱に見立てた丸印が見える。あれで破壊判定が分かるんだろうな。
すると反対側から黄色い声援が聞こえてきた。
見るとゼアネルが華麗に風魔法を使い伸身の前転で綺麗にスタート位置に着地したところだった。
「試合前に魔法って使っていいの?」
「べ・・・別に構いませんが。あなたもアレをやるのですか?」
「やるわけないじゃないですか」
そして僕はその石の床を歩き出した。
あ、下見るとなかなか怖いじゃねーか。
試合前のパフォーマンスってのは必要なのかな?
僕は無詠唱で一気に火の玉を20ほど自身の周りに作り出す。
おおっ、と観客が声を上げる中僕はそのまま歩を進め中程あたりでそれを一気に上空に打ち上げて光魔法のフラッシュと一緒に破裂させて綺麗な光の花火を作り出した。
おおおおおおおっ!!
うけてくれて少しホッとした僕はスタート地点に到着した。
なるほど、この位置からなら相手の奥の氷柱もなんとか狙うことができそうだな。確かにここから迎撃と攻撃をするのが効率が良さそうだ。
これが言ってたパネルか。王道でいけば相手から遠い3か所のウチのどれかかな。
「はっはっは!マーシーくん!どこにキングを設置するのかな?ここはやっぱり守りやすく狙われにくい後方に設置するべきだが裏をかいてそれ以外にしてみるかい?」
ゼアネルとはかなり離れているがこちらに聞こえるくらいの大きな声で語りかけてくる。僕と心理戦でもしようってのかな?
「ゼアネルさんは何処にされるんですか?」
少し大きく声を張り上げて聞き返す
「いやあ、君に先に決めさせてあげようと待っていたんだよ」
「そうですか、ありがとうございます。それじゃあ」
と、僕はパネルをタッチした。
「いい勝負を期待しているよ!マーシーくん!」
ゼアネルもパネルをタッチしたようでゼアネルは腰にかけてあった杖を取り出して戦闘態勢に入った。
さてと、楽しませてもらいますか。もとい、楽しませてやろうか。
中央のパネルがカウントダウンを始めると観客も一斉に盛り上がる。
3!!
2!!
1!!
試合開始!!
僕はすぐさま軽く飛んで9本の氷柱の真ん中に降り立つ。
おおおおおおおおお!!
いやいや移動しただけで盛り上がられても。
お、大きなパネルの下からこちらを観戦しているのは参加者たちだ。ミクシリアさんもロマネちゃんもそこで試合の様子を見ている。
「おや?いいのかい?そんな位置じゃあ僕の華麗な風魔法が直接君に当たってしまうよ」
「ゼアネルさんの風魔法はなかなかなものだとお伺いしていますのでなるべく近距離で防ぐべきだと思いましてね」
そんなものは伺ったことはないが。
「そうか、魔法のスピードに自信がないんだね?さきほどの魔法を見るに魔力には自信があるがそれを扱う技術やスピードは僕に後れを取ると考えたわけか。なかなか良い戦略ではないか」
なんか色々と考察してくれているな。そうそうもっと深読みしてくださいね。
「そうだな、ここは先輩として先手を譲ろうじゃないか。先に魔法を使用してくれて構わないよ」
え?いいの?
どうしようかな。一発で終わらせたら場がしらけるかな?
まぁここは楽しんでもらおうか。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
僕は10個の火の玉を右手の周りに作り出し一番手前の真ん中の氷柱目掛けて腕を振って放つ。
繰り出された火の玉が相手陣地に入った瞬間
ゴオオオオオッ!!
と氷柱の前に風の壁が生まれ僕の放った火の玉は消し飛んでしまった。
おおおおおおお!!
観客が声を上げる。
「ふむ、威力は申し分ないが僕のウィンドウォールを打ち破るほどではないようだね」
先手を譲ると言っておきながらきっちり魔法で防いでくるのかよ。
「それじゃあ今度はこちらの番だね。切り裂け!!ウィンドカッター!!」
その風は僕を躱して左右へと放たれた。僕の陣地の前方6本の氷柱には見向きもせずに左右を弧を描くように巻き上がりながら僕の陣地の後方3本の氷柱の根元を勢いよく切りつけた。
おおおおおお!!
凄い!!
あの距離をあんなに正確に!!
根本を切りつけられて氷柱は重さに耐えかねてそのまま崩れ落ちた。
観戦していたミクシリアさんとロマネちゃんの2人は口を抑えて悲痛な顔をしている。
ゴゴゴゴゴゴ
ドオオォォォォォ!!
中央の大きなパネルの僕の陣地の後方3つの丸が赤くなった。なるほど、破壊されると赤くなるのか。
「しまった、一発で終わらせてしまったかな?」
ゼアネルが得意げな顔をしている。
しかしそれ以上の動きは特にない。パネルも3本赤表示になっただけだ。
「なんと、後方にキングを置かなかったのか?やるじゃないか!なかなかに策士だな!マーシーくん!!」
まだいけるかな?
ホッとした表情のロマネちゃんの顔が視界に入った。
それにしてもゼアネルは疾風っていう二つ名の通り風魔法主体だな。入場の時に使ってたのも風魔法だしな。
「それなら次はこういうのはどうだい?」
ゼアネルは杖を振りかざす
「風の力ですべてを押しつぶせ!!ウィンドボール!!」
今度はゼアネルの目の前に風でできた大きな2メートルくらいの塊が2つ現れる。
それは猛スピードで今度は僕の左右の氷柱の真上に移動し氷柱目掛けて落下した。
ゴゴゴゴガッシャーーン!!
脆く砕け散る氷柱。
センターのパネルの2列目の左右の丸が赤く表示される。
しかし今度もそれだけで音沙汰は無い。
「なるほど。君も意地が悪いじゃないか。今君が立っている場所か。そこがキングだったんだね?僕が遠慮をして直接君にけがをさせたくないということを読んでいたということか。はっはっは、そこまで考えていたとはやるじゃないか」
いいね。いいよゼアネル。ここまで想定通りに動いてくれるとこちらも仕掛けた甲斐があるってもんだ。
「なにも君を傷つけなくてもこうすればいいだけだからね!!」
ゼアネルのウィンドカッターが僕の立つ氷柱の根元を切りつけてきた。
僕は咄嗟に目の前の氷柱へと跳び難を逃れる。
そしてど真ん中の氷柱は崩れ落ち大きなパネルの僕の陣地に6つ目の赤表示が出る。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
6つの赤表示が出ているだけで試合終了にはまだならない。
「まさか・・・・・・・・・前方にキングを配置していたのか」
はい、そのとおりです。




