え?そんなつもりはないよ
参加者は試合開始までそれぞれ時間を潰すことになる。
この控室にいてもいいし外に出るのも問題ないようだ。
「マーシー、チームの皆に先に報告に行ってこようかしら。早ければもう会場に来てるかもしれないし」
「そうですね。無事本選出場できたことは伝えておきましょうか」
僕はミクシリアさんと観客席へと顔を出すため控室を出る。
チラリと魔王の娘に目線を向けると向こうもこちらの視線に気づいたようだが特に反応はない。
まぁ話しかけられても何話せばいいのか分からないからな。彼女と親しくやるのは大会が終わってからだ。
「ミーシアくん、よければ試合前に少しお茶でもいかがかな?1時間くらいは余裕があるだろう」
「結構よ。他をあたりなさい」
ゼアネルが玉砕している。
「ロマネくんはどうだい?ここに居ても暇ではないかい?試合前に少し食事でも一緒にとらないかい?」
「いえ、結構です」
30くらいの男が16のJKに撃沈する図。ゼアネルよ中々好感持てるヤツじゃないか。嫌いじゃない。
するとロマネちゃんがトコトコとこちらにやってきた。
「あの・・・マーシーさん外に出られるのでしたらご一緒しませんか?」
控室の全員の目線が僕に向けられた。特にゼアネルの涙ぐんだ視線が一番僕の心を抉る。
「俺とミクシリアさんはチームの皆に本選出場の報告に行くだけだよ」
「あらぁ、いいわよ。それじゃあ報告したらその後少しご飯でも食べましょう。ねぇ、マーシー」
ミクシリアさん。その何とも言えない表情やめてくれませんか。
「あ、ありがとうございます。えっと、ミク・・・シリアさん」
「はいはい分かりましたよミクシリアさん。じゃあロマネちゃんも一緒に行きましょう」
僕とミクシリアさん、そしてロマネちゃんを加えて僕たちは観客席へと向かった。
今控室はどんな空気なんだろうか?気になるな。
観客席は半分以上はすでに埋まっており随分と賑やかだった。ドーム状の建物のため闘技場を中心に円状に客席が設置されていて内側から外側へ行くほど位置が高くなる。帝都と似たような感じだ。一番後ろの席の通路を挟んで出店が出ておりお酒や食べ物が販売されていた。
と、そこでビールを購入中の僕のチームのバカ2人が賑やかに店員さんと話し込んでいた。
「おねーちゃん、おねーちゃん!それ何?その丸いヤツ!」
「その白いのは皮か?そしてこの肉の匂い。まさか!豚まんか!?豚まんなのか!??」
「ブタマ・・・ン?えっとこれは柔らかいパン生地に豚肉を挟んだものだけど」
おねえさんは困った顔で対応している。
「まさに豚まん!!それを!!それを5つください!!」
「俺も!俺も1個ちょうだい!絶対美味いやつやわ!」
「いつもあんな感じなの?彼ら」と、ミクシリアさん。
「いつも通りですよ」と、返しておく。
2人を捕まえて客席の方に降りてくるとナイトガードの皆さんが座っている一角発見。グラブルさんが神妙に話かけてきた。
「どうだったんだ?」
それに対してミクシリアさんがブイサインで答える。
「そうか!!やったじゃねーか!!」
「ははははそうか、じゃあこの席は無駄になったわけだな」
ダルブさんが空いた席を指さした。
「マーシーも・・・・・問題なかったみたいだな」
「はい。2人そろって本選出場です」
「な?だから言ったやん。マーシーの席はいらんって」
どうやらミクシリアさんと僕の分の2席余分に確保していたみたいだ。
「もぐもぐ、ところでマーシー、ごくん。そろそろその後ろの少女について説明していただけますか?」
マサル・・・・・流石にスルーはしないか。
「予選が同じグループでな、さっき知り合ったんだ。ロマネちゃんだ」
「初めまして、ロマネです」
ロマネちゃんは背の高い帽子をはずして挨拶する。
「なんや、またか、マーシー」
「目を離すとすぐ女の子を釣ってくる。やはり侮れないな、マーシー」
「おい、勘違いされるような言い方をするな。いつ誰がそんなことをした」
「幼女を婚約者に」
「メロンの弟子に」
「変な言いがかりはよせ」
心当たりがあって胸が痛いじゃねーか。
「お、リアで有名な天才少女じゃねーか。そうか君も本選出場者か」
グラブルさんの声にダルブさんが頷いた。
「この若さで上級の水魔法を操ると聞いたな。ミクシリア、彼女とあたったら大変だな」
「大丈夫よ。1回戦ではあたらなかったから。あたるとしたら準決勝以上ね」
残念ですミクシリアさん。あなたの1回戦の相手は魔王の娘です。多分もっと大変です。
「ミクシリアさんどうしますか?僕はロマネちゃん連れて屋台でなにか食べようと思いますが」
「どーぞどーぞ。マーシーはかわいい子と昼食デートを楽しんでください。私はこのムサい男共の相手をしていますから」
「デートって、そんなんじゃあないですよ」
横で頬を赤らめているロマネちゃんの方は見ない。
「ロマネちゃん。「ほっぺについてるよ」って言われたらすぐに逃げるんだ。妊娠してしまうぞ」
「ロマネちゃん。マーシーの顔が30センチ以内に近づいたらすぐに逃げるんや。妊娠してまうで」
僕は無造作にレイピアを出しタカシとマサルの目の前に突き出した。
「いらぬ事を喋るのはこの口か?俺は最近口の中にファイアを起こすことができるようになったんだが、自分以外の人間の口の中に出せるか試してやろうか?」
タカシとマサルは口を抑えながらブンブンと首を横に振った。
「じゃあ行こうか」
と、僕は席を後にし、ロマネちゃんと屋台へと向かった。
僕はさっきタカシとマサルがはしゃいでいた屋台の前に来た。かくいう僕も豚まんに興味がしんしんだった。
「ロマネちゃんはこれ食べたことある?」
首をブンブンと横に振るロマネちゃん。
「こういう風に屋台とかで買い物とかはしないので」
「友達と買い食いとかしないの?」
「一緒に出掛ける人とか・・・・・いないかな」
あ、今まずいこと聞いたかな。
「魔法使いとして優秀なんだよね?まわりからチヤホヤされたりしない?」
「あまり、人は寄ってこないかな」
近寄りがたいのかな?こんなにかわいいのに。あ、でもゼアネルは一方的に話しかけていたな。
「よし、じゃあ食べ歩きをしよう。はい、左手にはジュース」
屋台でジュースを2つ頼んでお互い持つ。
「そして右手には豚まんね」
ビールでいきたいところだがこの後試合があるため流石にそれはやめておこう。
「はぐっ、もぐもぐ。おお!豚まんだ!ロマネちゃんも食べてみな」
パクリと1口。パァっと表情が明るくなるロマネちゃん。
「美味しい」
「確かにこれは旨い。パン生地もフカフカだし中の肉がものすごくジューシー」
僕はあっという間に豚まんを食べきり隣の屋台へ。
「あ、その焼き鳥1本ください」
次にタレのたっぷりついた焼き鳥を1本購入。
「ほら、ロマネちゃん、早く食べないと次にいけないよ」
僕はロマネちゃんを急かして次々と屋台をはしごする。豚まんを食べ終えたロマネちゃんは次の焼き鳥も口に運んでまた明るい表情になる。
「ロマネちゃんロマネちゃん!なんだかすごいのがあるよ」
串に刺さったゲソ?タコなのかイカなのか。見た目はどうかというナリだが太いゲソを串焼きにしている。
ロマネちゃんは明らかに引きつった表情をしていたが僕の直感がコイツは絶対に美味いと叫んでいた。
「大丈夫大丈夫。こういうのは見た目によらず旨いのが相場なんだって」
僕はそれを2本購入しお互い1本づつ持ち先に口に運んだ。
「やっぱり!美味い!味的にはイカかな?ほらほらロマネちゃんも」
思い切って口に運ぶロマネちゃん。そのおいしさに感動しているようだ。
「・・・・すごくおいしい。こんなに美味しいもの初めて」
「おうおう、嬉しいこと言ってくれるねぇ」屋台のハチマキの似合うおじさんが笑顔カットインしてきた「かわいい彼女さんにはこっちのもおまけしておくよ」こちらは小さな魚を串焼きにしたものだった。タレがかかっていて実にうまそうだ。
「か・・・彼女・・・・・」
頬を赤らめたロマネちゃんはその串を受け取って下を向いて固まっている。
「おじさんおじさん、俺にもそれひとつね。ちゃんとお代は払うから」僕は銅貨を2枚支払った。
「お、魚もいけてるな。美味いよおじさん!いい仕事してるね!」
「おうおう言ってくれるねぇ。あれ?彼女さん固まってるけど大丈夫かい?」
「ん?ロマネちゃん、次行くよ」
そういって僕はロマネの手を握り次の屋台へと足を運ぶ。
そして僕はロマネちゃんとそこに並ぶ屋台をカニ歩きしながらあれもこれもと食べ歩きし、ロマネちゃんの笑顔にお腹も心も満腹になっていった。
「ロマネちゃんの笑顔にお腹も心も満腹になっていった。っていうナレーションが聞こえますね」
「あかんな、あれは惚れたな」
「ええ惚れましたね」
「マーシーの悪い所はあの悪気のないとこやな」
「え?あれ狙ってやってないの?自然に?」
「ミクシリアさんマーシーはああいうヤツです」
「自分ではロリコンやないって言うてるけど寄ってくるのはだいたい年下や」
「そしてエルフが大好きです」
「幼顔に巨乳がたまらんって言うてたな」
「けれどもエルフの貧乳が大好物です」
「そう考えるとマーシーって守備範囲広いねんなあ」
「ミズリー師匠はまた違うタイプ」
「え?ミズリーさんのこともねらってるの!?」
「下心は絶対あるわ。俺らと別行動の時にわざわざミズリー師匠に声かけにいってたわけやしな」
「マーシーは見ての通りこんな男なのです」
「せやで、マーシーはこんな男やで」
そんなタカシ、マサル、ミクシリアを見て
「楽しそうだな」
「ああ、全くだな」
呆れた顔で見つめるグラブルとダルブだった。




